高血圧既往及び健診時に収縮期血圧が146mmHg以上の高血圧群において有意にオッズ比1.86でDVTを多く認めた(P<0.005)。
アンケート検査結果から、DVT保有者で震災後に脳梗塞が多く発生しており(オッズ比6.0,年齢と性を層別化したMantel-Haenszel検定でオッズ比5.93)と有意な脳梗塞発症増加を認めた。
旅行中のDVT発症のリスクとしては以下のものがある
40歳以上
体動の低下
最近の手術歴・外傷歴
ホルモン療法や経口避妊薬服用中の女性、妊婦
悪性腫瘍やDVT/PEの既往
BMI>30の肥満
下肢静脈瘤、遺伝的血栓傾向、凝固因子2や8の上昇
災害時DVT発症の誘因
水分の供給不足、感染症での下痢などによる脱水
避難所の混雑による長時間坐位
下肢外傷や車中泊による体動低下
ストレス・不眠による交感神経及び凝固系の亢進
VTE(Venous Thromboembolism:静脈血栓塞栓症)の主な危険因子
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf
DVT予防には、簡易ベッド設置、薬物投与、弾性ストッキング装着である。
薬物投与は、震災時においては、水分が不足気味であり、OD錠があるリクシアナがより有効であると考えられる。しかも低用量で、出血の合併症の発症が少ないことも確認されており、検査ができない震災時においてはより有用であると言える。
第二次世界大戦中、ロンドン空襲で地下鉄構内避難者に深部静脈血栓症が多発したため、避難民の睡眠環境を改善する目的で簡易型ベッドを使用するようにしたところその発生頻度が低下したという報告がLancetにある(Volume 236, No. 6120, p744, 14 December 1940)。
震災における深部静脈血栓症を調査する意義=深部静脈血栓症による第二の被災者を出さないことである。
これまでの中部、中越沖、能登半島地震による震災後静脈血栓症発症頻度、および東日本大震災の各地での調査結果 、福島県における自然+人的災害(複合災害)のデータを総合すると、
1)静脈血栓症予防啓蒙活動を行うことは重要である。しかし、完全ではない。
2)震災後および避難行為により静脈血栓症は必ず発生する。
3)単純に避難しても7〜10%程度、津波被害は10〜30%程度で発生があると予想すべき。併発する致死的肺塞栓症を予防することが重要。
4)弾性ストッキングは、ある程度の予防効果が日常臨床で証明されているものの、震 災時の特殊状況下での長期の装着は望めない。装着指導とともに、その他の予防措置を十分説明することが重要。
5)避難所設備および環境の優劣が静脈血栓症発生に影響する。
6)静脈血栓症を早期発見、予防するためには医療チームによる震災早期からの介入が必要。
7)災害専門チームも静脈血栓症診断技術と避難所環境改善への助言を積極的に行う事が重要。
8)震災直後のみならず長期にわたり静脈血栓発生頻度は高率を維持する。
9)静脈血栓陽性者に対しては高血圧管理、脳梗塞や心筋梗塞などの発生予防を長期にわたり行う必要がある。
10)DVT治療チームとしての参加だとしてもDVTだけではなく、被災者の健康状況全てを把握し、適切な対応が出来る総合的な知識・技量を常日頃蓄積しておくことが重要。
http://www.bousaihaku-smart.com/dptopics/876/
避難所における就寝形態は、『敷布団』が当然と認識されているが、床にそのまま布団色素の上で生活する環境は、衛生面でも、睡眠環境においても決して推奨できるものではない。
http://www.shigerubanarchitects.com/works/2016_kumamoto/1.jpg
欧米並みの折り畳み式簡易ベッドの導入は検討に値する。
https://www.sankei.com/images/news/160425/afr1604250052-p1.jpg
こういった避難者グループごとの区画を確保することは避難者を入れてから行うことは困難であり、避難者を導入する前から行っておく必要がある。
また、避難所設備及び環境の優劣について考えると、電気や水道や食事はある程度我慢できるが、トイレはそうはいかない。トイレの環境が避難時のストレスを左右するし、トレの衛生環境が、震災後の感染症の発生規模を左右する。
肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf