2014年2月6日 ロイヤルパークホテル
演題「ADLを考慮した認知症の実践治療」
演者:筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学教授 朝田隆先生
内容と補足「遅れて参加したため、前半から中盤部分は不明です。
ちょっとした工夫が、認知症患者の行動を変えうる。
食事を食べる際イスとテーブルが離れていると食事行動がうまくここなえない。
多くの介護者が座った椅子ごと、テーブルに押し寄せる行動をとっているが、対象者の後ろから肩甲骨を両手で押すと、認知症患者さんは立ち上がる。そうしておいて腰を前に押すと、一二歩前に進む。その隙に椅子を前に進めると、気が付いたらテーブルに椅子が近づいた状況になる。
食事を勧めていると、眠りについてなかなか食べてくれない認知症患者さんに対しては、ちょっと散歩しましょうと言って、窓のほうにゆっくり歩かせて連れて行き、太陽光にあたるようにして窓の外の風景を一緒に眺め、席に戻ってみると、さっきとは異なり、スムーズに食事を食べ始めるようにもなる。
排泄においても便器に至るまでの行動も何段階もある。そして、最終段階として『いきむ』ことにより便の排出が行われるのであるが、この『いきむ』行為を認知症患者さんに実践してもらうことは、なかなか困難である。前かがみの姿勢を取ってもらう、下腹部を圧迫する、笑わせるといった方法が取られたりもしている。
ユニークだったのが、便所の横に取り付けてある『L字バー』の立ての部分が動き、座った認知症患者さんが両手でつかむことができるように患者さんの前に90度回転するような形で動かすことができる仕掛けである。丁度ジェットコースターの保護バーが下りてきたような形になる。このバーにつかまると丁度前かがみになるように位置に設置すると、比較的簡単に『いきむ』動作ができる。
こういった何気ないちょっとした工夫が、認知症患者さんの行動を変えることができる。
日々の行動のどこの部分がわかっていないかを認識してあげないと適切な対応ができない。
これらの実例をyou tubeの画像を通じて広げていきたい。
これらの対応の際に念頭に置いておいてほしいことが、?全部をしないこと、?認知症患者さんを行動するリズムに乗せること、?認知症患者さんの行動を注意深く観察しリズムの乱れを見つけること、であり、?無理強いされてできてもうれしくないのであり、『あれ、できちゃった』といった感覚を実感してもらうよう対応することである。
初期の認知症患者の対応としては、症状としては、記銘力障害が前景に出てきて、体験したことを覚えていないだけでなく、自分が忘れたことも忘れてしまったり、できることとできないことの区別もつかなくなる(病態失認的態度)。そのため、忘れたことやできないことを認めないで、自分でやろうとしたり、できるのにひどく依存的になってしまって、周囲との摩擦が起きる。さらに、失敗を重ねた際には、挫折感・喪失感を味わうことが多い。したがって、忘れること、できないことを責めないで、自尊心を大切にすることが重要である。人にもよるが、個々の症例に合わせた、比較的ハイレベルな目的を創出し、みんなで仲間意識を持って行動し、達成できそうなことに対して成功報酬を設定するなど、できたことをほめ喜ぶことがよりよい結果につながることもある。
中間期にはBPSDと生活障害が表に出てくる。この時期は『動ける認知症』+『脱抑制』=『動くので周囲が困惑する認知症』といった状況になる。妄想も多く、輝いていたころの世界に生きているように思い、そのうえ複雑な動作ができない状況にあるので、『何ができるかをしっかりアセスメントをして対策を立てること』が重要となる。言い方を変えれば、『やってあげる』から『本人のパフォーマンスをどうやって高めるか』を考えることが重要である。
後期〜終末期にかけては、パーキンソン症状やけいれん発作などの身体症状が出現し、進行すると寝たきりの状態となる。手足の随意運動は消え顔の表情も消え、大小便失禁、発語も消失し、嚥下障害のため誤嚥性肺炎を繰り返すようになってくる。寝たきり人への対応、口腔ケアが大切である。食べ物や飲み物を口に入れて飲み込んだすぐ後の声掛けは、返事をしようとして、空気を吸った時に、のどの梨状窩などに残っている飲食物を肺に吸い込み、むせこんだり誤嚥性肺炎を起こすもとになりかねないので、発語をする前に再度、飲み込み動作をしてもらうことが重要である。
山本五十六の言葉に『やってみせ、言って聞かせ、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ』という言葉があるが、介護やケアの際には、この考え方が重要である。
認知症悪化の予防も重要であり、以下のようないくつかの方法が試みられている。
? 運動
? 認知トレーニング
? 芸術活動
? 古いTV放映画像をもちいた回想法