2014年6月20日 横浜ロイヤルパークホテル
演題「CKD・高血圧ガイドラインの変更ポイントと糖尿病性腎症の治療」
演者:横浜市立大学附属市民総合医療センター 腎臓・高血圧内科准教授 平和伸仁先生
内容及び補足「
1967年にJAMAに報告された論文で、高血圧を治療する臨床的効果を初めて証明された。
拡張期血圧が115〜129mmHgである143名の男性に対して、hydrocholorothiazideにreserpine、hydralazine hydrochlorideを投与した群と何も投与しなかった群で検討された。患者背景を示すが、このころはWhite、Negroと表記されている環境であった。
二群のそれぞれの測定値を示す。血圧は両群とも平均で186-187/105-106mmHgとかなり高値である。
拡張期血圧の推移は、治療群では90前後に低下しているが、プラセボ群では110を超えたままである。
両群の血圧変化を示す。プラセボ群では血圧が上昇している症例もあるが、治療群では、ほとんどの症例において血圧が低下している。
プラセボ群では死亡4例を含む27例にMorbid eventが生じたが、治療群では、死亡例もなく、Morbid eventは2例にしか生じなかった。
http://profiles.nlm.nih.gov/ps/access/XFBBFN.pdf
もう少し血圧が引く人たちでの結果が1970年に報告された。拡張期血圧が90-114mmHgの380例の男性を治療群とプラセボ群分けた研究である。プラセボ群では19例の死亡を含むTerminating morbid eventsは35例に認めたのに対し、治療群では8例の死亡を含むTerminating morbid eventsは9例であり、73%の減少効果を認めた。
経年変化をグラフにするとプラセボ群との違いは歴然としている。
http://profiles.nlm.nih.gov/ps/access/XFBBFP.pdf
日本高血圧学会から高血圧理療ガイドライン2014(JSH2014)が出された。
大きく変わった点は、第9章に認知症の章を設けたことである。
細かな点では、家庭血圧を重要視したこと、配合剤の項目ができたこと、授乳期について明確に記載したことである。
疫学としては、日本人の高血圧患者数は、約4300万人と推計され、年間高血圧に起因する死亡者数は、約10万人と推定され、喫煙に次いで多い。
心血管死亡の約50%、脳卒中罹患の50%以上が、指摘血圧を超える血圧高値に起因するものと推定されている。
収縮期血圧平均値を10年間で4mmHg 低下させると、脳卒中死亡数が、年間約1万人、冠動脈疾患死亡数が、年間5千人減少すると推計されている。
NIPPON DATA2010における高血圧有病率から、本邦における2010年の高血圧有病者数は4300万人(男性2300万人、女性2000万人)と推計されている。女性では各年齢階級で減少傾向にあるが、男性の50歳以上では横ばいあるいは上昇傾向である可能性があり、人口の高齢化に伴い、高血圧有病者数はさらに増加することが予想される。
高血圧の治療率は上昇しており、60歳代で50%を超えてきたが、140/90未満に管理されている率は、男性で30%、女性で40%程度である。
男女別でみると、50歳代までは女性の有病者は少ないが60歳以降では、女性のほうが多くなっている。
各年代で男女とも、収縮期血圧及び女性の拡張期血圧は、年代とともに低下してきているが、男性では拡張期血圧は横ばいである。
年齢が若いほど、血圧の上昇に伴い心血管死亡のハザード比が上昇する。
家庭血圧の測定法としては、二回測りその平均値をその日の測定値とし、週5日以上測定したものの平均値を家庭血圧とすることとしている。
血圧の分類としては、以下のように定義された。
臓器障害の検査として、脳・眼底の項目に、頭部MRI、MRアンジオグラフィー、認知機能テスト、腰うつ状態評価試験が記載された。
血圧値のみでなく、他のリスク因子との兼ね合いでの心血管リスクを層別化した。
初診時の高血圧管理計画を各リスク群において、下記のように定めた。
降圧目標においては、後期高齢者において基準が緩和された。
糖尿病患者やCKD患者においてはJSH2009と同じで130/80となっているが、冠動脈疾患患者においては130/80から140/90に緩和された。
http://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014v1_1.pdf
2型糖尿病患者への積極的な治療効果を見たACCORD BP研究で血圧を120前後に下げたIntensive群と135前後で推移したStandard群で8年間の経過観察では心血管イベントの発症に差はなかった。
しかし、副作用は、Standard群に比べ、Intensive群で2倍以上に認めたため、米国やヨーロッパにおいての高血圧治療ガイドラインは軒並み140/90となってしまった。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1001286#t=article
2型糖尿病や耐糖能障害患者の血圧治療を行った13の臨床研究で37736症例を解析してみたところ、積極的に血圧を下げる治療と、今までの140未満にする治療を比較してみたところ、10%の死亡リスクの減少と、17%の脳卒中の減少が得られるが、20%重篤な副作用がみられる結果となり、有益性はないとの結論となった。
http://circ.ahajournals.org/content/123/24/2799/F2.large.jpg
今まで患者が医師の指示に従い忘れずに薬を服薬することについてコンプライアンス(直訳:服従、受諾)という言葉が使われていたが、望ましい治療の在り方ではないことから、アドヒアランス(直訳:支持、執着)やコンコーダンス(直訳:一致、和合)という考え方が導入された。
アドヒアランス:患者が病気の治療や必要性について理解し、積極的に治療を続けるという考え。
コンコーダンス:医師と患者が対等な立場(パートナーシップ)で話し合い、合意のもとに治療方針を決定し続けていくこと、患者が病気とその治療について十分な知識を備えることが前提となる。
今回から治療の第一選択薬からβブロッカーがなくなり、第一選択薬のARBまたはACE阻害薬、カルシウムブロッカー、利尿剤から選び、効果が不十分であればそれの二剤を、次いで3剤の併用用法を行い、その次に、βブロッカーの使用が推奨されている。
これらの薬剤3剤併用治療でコントロールが不良であるものを、難治性高血圧とした。
難治性高血圧の中に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が合併している可能性が少なくなく、難治性高血圧の場合には、積極的にSASを診断し、CPAPなどの適切な治療を行うことが進められる。
また高尿酸血症・痛風の合併症例においては、尿酸値を上昇させる細浅井時計利尿剤やループ利尿剤は禁忌として対応されていたが、注意深く使うこととされ、ニューロタンは尿酸排泄促進作用があり、尿酸値が低下し、高血圧患者の痛風発症リスクを減少させると記載された。
高齢者は140/90が推奨されるが、75歳以上では、150/90未満が治療目標とされ、忍容性があれば積極的に140/90をめざし、6メートル歩行が完遂できない程度の虚弱高齢者については個別に判断することとされた。
これは、高齢者においては、早期の急激な血圧低下により転倒の危険度が上昇するためで、現在血圧がコントロールされている人の治療目標値を緩める必要はない。
認知症においては高血圧のみならず、低血圧や起立性低血圧、日内変動の異常も認知症と関連していることが示され、統一された見解はまだ示されていないが、高血圧治療が軽度認知機能障害からアルツハイマーへの進展を抑制した観察研究や、高圧治療によりアルツハイマー病患者の認知機能低下が抑制された報告もあり、降圧治療は行うべきと考えられる。薬物ではARBが推奨されている。
妊娠に関しては、妊娠20週未満では、第一選択薬として、メチルドパ、ヒドララジン、ラベタロールとされ、20週以降では、ニフェジピンが使用可能となる。この場合、ニフェジピンは長時間作用型の使用が基本となり、カプセル剤の舌下は行わない。
授乳に関しては以下の薬剤の使用が可能とされた。
薬剤誘発性の高血圧についても、細かく記載され、抗VEGF抗体医療による高血圧の対応についても記載された。
糖尿病合併高血圧患者で腎機能が悪化していくに従い糖尿病の治療薬選択に制限が加わってくる。特にeGFRが30未満となると使用可能薬剤がほとんどなくなってくる。
G3bにおいてビグアナイド系薬剤が使えなくなり、G4以降ではチアゾリジン薬やSU薬も使用できない。αGIでもグルコバイやベイスンは問題ないが、セイブルは腎機能障害時に血中濃度が上昇することが報告されているので注意が必要である。
DPP?阻害剤も、軽度の腎障害患者では問題ないが、ジャヌビア、ネシーナ、エクア、スイニーは減量や慎重投与といった記載がある。トラゼンタとテネリアは肝臓排泄もあり、比較的安心して使用できる。
近年発売された、SGLT2阻害薬は、糸球体でろ過された糖の再吸収を、SGLT2を阻害することにより抑制して、尿からの糖の排泄を促進して糖代謝を改善する薬である。腎機能が低下してくると、糸球体からの糖の濾過が減少し、血糖低下作用も減弱するばかりでなく、副作用の発現の問題点からも、注意が必要である。