2014年7月22日 横浜市健康福祉総合センター
演題「高血圧UPDATE-JSH2014から尿細管レニンまで」
演者:横浜市立大学附属病院循環器内科准教授 石上友章 先生
内容及び補足「
今回の講演内容は、いくつかのテーマが盛り込まれていて、情報を追加しないとうわべだけのものになるため、かなりの部分石上先生の意向に沿うように勝手に判断して補っています。内容が膨大になったので、いくつかのパートに分けて掲載します。
Part 3 冠動脈ステント
話は変わって、冠動脈ステントの話に移る。
ステントという名称は、1900年歯科医のStent博士が歯に鉄鋼をかぶせたことによる名前であるが、最初にヒトの冠動脈にステント植込み術を施行したのは、1986年Sigwartであり、1987年NEJMに発表されたが、術後の閉塞例が多いので、否定的な見解であった。
N Engl J Med 316:701-706, 1987
1991年にSerruysらの報告で再評価され、ほぼ同じころバルーン型の拡張型ステントも開発された。
バルーンによる狭窄部の拡張はアテローマの圧縮と血管内膜〜中膜に至る鈍的な裂開の結果である。したがって下腿病変では拡張できないこと、どの部位に裂開が入るかは術者の意図とは関係なく生じる。この裂開が深くなりすぎて、冠解離による急性冠閉塞がある一定頻度生じることが避けられなかった。
1985年ごろから、ニューデバイスが開発され、1990年代半ばから硬い病変を削り取るrotablator、アテローマそのものを切り取るdirectional coronary atherectomy:DCAなどの器具と、冠解離を生じてもその部位を覆って急性冠閉塞を回避するステントと、バルーンの長軸に沿って、3枚〜4枚の刃を接着し、低圧で血管内壁に切開創を入れることにより冠解離を起こしにくくしたカッティングバルーンが実用化された。
どの方法を選んでも狭窄部位に対し傷をつけることに変わりなく、PCI施行食いには治癒反応が生じ、血管中膜から遊走してくる平滑筋細胞の増殖量が多ければ、血管内腔の再狭窄が生じ、狭心症を再発することになる。
バルーンとステントを除くニュー・ディバイスの再狭窄発生率は30〜50%であった。その予防的対策としてステントが作成されたが、ステントの再狭窄も20〜30%の症例に認められた。
再狭窄を減らす試みとして、1990年代中ごろから冠動脈内放射線照射療法の臨床治験が始まったが、短期的には有用であったが、長期的には新生内膜が遅れて増殖するLate catch up減少が明らかとなり、普及しなかった。1990年代後半から薬物溶出ステント:DESの臨床治験が始まった。シロリムス溶出ステントとパクリタキセル溶出ステントである。
RAVEL試験では、ステント挿入後、遠隔期の損失径がゼロとの報告がされ、その後のSIRIUSや認可後のデータでも、遠隔期損失径は0.17〜0.26?と従来のステントに比べ、新生内膜増殖量は激減した。
金属ステント(BMS)の再狭窄規定因子は、闘病であり、病変因子では2.5mm径ステントしか留置できない小血管病変、20mm以上のび漫性狭窄病変、分岐部病変の四つである。
DESのこれらの再狭窄規定因子の再狭窄率は一桁と低く著明に再狭窄が改善され、予後も改善すると期待された。
再狭窄の心配がないと考えられていたため、2005年ごろには、DESの浸透率は80〜90%にもなっていたが、2006年にスイスから、2007年にはスウェーデンからDESは留置後半年以降の死亡と心筋梗塞発生頻度がBMSよりも増加するとの報告がなされ、長期予後の安全性が問題視されるようになった。
留置後一年以上たっても発症する血栓症がその原因と考えられ、Very late stent thrombosis:VLSTと定義され、欧米で年0.6%、日本で年0.25%の増加率であった。
この数字は、従来ステント時代の再狭窄症例の9.5%が心筋梗塞となり、0.7%に死亡例が出たことに比較すれば、非常に低い数字ではある。
DES留置後何年たってもリスクが無くならないので、精神衛生上よくない状況であった。実際抗血小板剤を減量したり中止したりした例は、欧米で約30%、日本で10%程度であった。
CABGとPCIのどちらが良いかという遠隔成績の比較が2005年に報告された。長期予後に関しては、ステントよりもCABGのほうが良いというものであった。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa040316
BMSでの再狭窄の問題がDESで解決すれば、この差はなくなると考えられていた。
小倉記念病院からBMS留置症例を10年追跡したデータが報告された。
10年間にステント留置部位にイベントが再発する頻度は0.2%程度であり、新規病変がイベントの原因となる頻度は0.7%程度であり、BMS留置部は長期的に安定していると考えることもできる。DES症例においても新たな病変の発生頻度は変わらないのであるから、動脈硬化病変の進展を予防するための積極的な治療が必要であるといえる。
急性冠不全病変の病理研究から致死性プラークの性状は以下の3点である。
? 線維性被膜の薄さ
? 脂質コアの大きさ
? マクロファージの浸潤
であり、血管内空の狭窄率は問題にならなかった。→PCIなどの治療を行って血流を改善しても予後は改善しないのでは?
冠動脈疾患を合併した糖尿病患者における早期血行再建術+積極的薬物療法と積極的薬物療法単独を比較したBARI-2D試験が報告された。PCIかCABGのいずれかを選択するのは主治医に治療の判断をゆだねられていること、血糖コントロールだけでなく、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンを中心とした積極的薬物療法を徹底して行うことが特徴であった。5年間で血行再建術を施行した症例は42%いたが両群間で死亡を一時エンドポイントとした予後には差がなかった。本症例においては血行再建術の背景はCABG群でより重症冠動脈病変であり、薬物療法との比較では非致死的心筋梗塞の抑制効果が大であった。従って、血行再建術を行う上で積極的な薬物療法は不可欠であり、その上に糖尿病症例においては冠動脈病変が重傷化した場合には、CABGの方がPCIに優れるという結果であった。
http://circ.ahajournals.org/content/121/22/2450.full
SYNTAX研究という欧米85施設の冠動脈の3枝病変か左主幹部病変の患者さんを無作為にカテーテル治療(PCI)か冠動脈バイパス手術(CABG)に割り振り、その治療成績を比較したもので,PCIは第一世代のパクリタキセル徐放ステントが使用されている。赤がPCIで青がCABGである。
脳血管系事故は、CABGでは26.9%に対しPCIは37.3%と多く、心筋梗塞発症も、CABGで3.8%に対しPCIは9.7%と差があり、血行再建術もCABGでは13.7%に対し、PCIが25.9%と差が認められた(CABG:PCI=全死亡は11.4%:13.9%、脳卒中は3.7%:2.4%で有意差なし)。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoron/advpub/0/advpub_19.520/_pdf
この研究は、第1世代のDESでの結果なので、第2世代のDESで予後を改善できる可能性があること、心臓バイパス術も患者さんへの侵襲が少ないoff pump CABGが確立されたこともあり、さらなる研究がまたれる。