POEMS症候群 Crow-深瀬症候群
2016-02-15 08:14
川村内科診療所
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2015年2月5日 
演題「両下肢の浮腫、シビレ感、歩行障害を呈した64歳 女性」
演者: 厚生中央病院 総合内科 田島彬子 先生
内容及び補足「
68歳女性。X-4年2月に両下肢のシビレ感、浮腫、歩行障害のため受診。神経学的には両下肢近位筋の筋力低下、両膝以下の知覚低下、感覚性失調、腱反射消失を認めた。
神経伝導検査では腓腹神経の感覚神経伝導速度は正常だったが、腓骨神経は運動神経伝導速度、振幅ともに低下しCMAPの多相化が見られた。また図胃液検査では細胞解離を認めたためCIDPと診断し、γグロブリン大量静注(IvIg)、免疫吸着療法を行ったが効果見られず、2クール目のIvIgにてやや歩行は改善した。抗ガングリオシド抗体を含め、自己抗体は陰性であった。
血液中のVEGF 736 pg/dlと高値であり、POEMS症候群(Crow-深瀬症候群)と診断し、PLS投与による治療で改善した。
POEMS症候群(Crow-深瀬症候群)
1965年Crowは多発性骨髄腫に末梢神経障害を合併した2例を報告し、本邦では1968年に深瀬らにより「多発性神経炎および内分泌異常を惹起した孤立性骨髄腫」として報告され、その後、多発神経炎、内分泌異常、Plasma cell dyscrasiaは一つの症候群として把握すべきものとして、Crow-Fukase症候群、POEMS症候群、高月病、PEP症候群などと呼ばれるようになった。
1997年に本症候群の血清中に血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が異常高値となっていることが報告されて以来、VEGFが多彩な症状を惹起していることが推定されている。
1983年厚生省神経疾患研究委託費による全国調査が行われ、我が国における102例の臨床的解析が報告された。
高月は上記の102例に1991年までに報告された56例を加え臨床像を検討した。
男女比は1.5:120歳代から80歳だと発症年齢は広く分布しているが平均発症年齢は、男女とも48歳で、多発性骨髄腫よりも10歳若かった。
2004年の報告では340名とされており、王税よりも頻度の高い疾患と考えられている。

POEMS:症候群=多発性神経炎(Polyneuropathy)、臓器腫大(Organomegaly)、内分泌障害(Endocrinopathy)、M蛋白血症(M-protein)、皮膚異常(Skin changes)の頭文字から取られた疾患。
多発性神経炎: 手足の痺れ、震え、麻痺、脱力 が発生する症状です。POEMS症候群の患者に多く見られる症状です。
臓器腫大: 肝臓や脾臓などの臓器が大きくなったり腫れたりします。合わせて「肝脾腫」とも呼ばれます。
内分泌障害 :男性の胸が膨らむ女性化乳房、血液中の血糖を正常化する働きが弱くなる「耐糖能異常」、甲状腺の機能低下などがおきる場合があります。
皮膚異常: 体毛が増えたり、濃くなったりする「剛毛」、皮膚の色が赤黒くなる「色素沈着」、皮膚の表面などに現れる血管の固まり(いぼ)のような「血管腫」などがみられることがあります。
浮腫、胸腹水 体の浮腫み:(特に両足)胸やお腹に水がたまる症状です。
M蛋白血症: 腫瘍化した形質細胞によってM蛋白という物質が作られます。これが血液中に流れ、腎臓などの臓器に付着することで、その臓器の働きを鈍くするなどの影響があります。血液検査、尿検査で調べられますが、POEMS症候群の患者では、M蛋白の量はあまり多くない傾向です。
骨硬化性病変: 手足、腰などで、骨の組織の生成が多く行われ固くなることがあります。これにより、疼くような痛みを感じるなどの症状が現れることがあります。
乳頭浮腫 :目の奥、視神経の出口付近に乳頭と呼ばれる部分があります。この部分に浮腫みが生じることで、目の視界がぼやける、ちらつき、複視、見えにくくなることがあります。
血清VEGF高値: 形質細胞が増えることで、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)という特殊なタンパク質が多く生成されます。新しい血管を作るために作用するものですが、血管内の水分を体内に透過させやすくする性質があり、胸腹水・浮腫をはじめ、POEMS症候群の様々な症状の直接的な原因になっていると考えられています。
腎機能障害: 腎臓も血液中の老廃物をろ過する糸球体という部分が腫れることで、尿蛋白や血尿がでるなど腎炎・腎機能の低下などの症状が現れることがあります。

病因:増殖した形質細胞から分泌されるVEGFが多彩な臨床症状を惹起していることが実証されつつある。VEGFの血管透過性亢進および血管新生作用から浮腫、胸・腹水、皮膚血管腫、臓器腫大が説明されるが、多発神経障害の機序はまだ不明であり、IgGやIgAのM蛋白が神経障害を惹起する可能性は否定的である。末梢神経構成蛋白、糖蛋白やガングリオシドに対する抗体は陰性であり、神経生検組織像でも明らかなリンパ球やT、B細胞浸潤像はない。基本的な病理学的変化は脱髄であるが、下肢遠位部では軸索変性が認められる。

治療:孤発性の形質細胞腫が存在する場合は、腫瘍に対する外科的切除や局所的な放射線療法が選択される。明らかな形質細胞腫の存在が不明な場合や多発性骨病変が存在する場合には全身投与の化学療法を行う。
メルファラン大量間歇療法、自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法、サリドマイド療法、ベバシズマブ(抗VEGFモノクローナル抗体)療法がおこなわれている。
副腎ステロイド単独の治療は、一時的に症状を改善させるが、減量により再発した際に効果が見られないことが多く推奨されないとされている。

予後:副腎皮質ステロイド療法主体であった1980年代までは、平均生存期間は約3年であった。
メルファラン療法が中心であった1990年代には、平均生存期間は5〜10年と改善が見られたが、心不全、心嚢液貯留による心タンポナーデ、胸水による呼吸不全、感染、血管内凝固症候群、血栓塞栓症などで死亡していた。
自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法の中期予後は良く、長期寛解が期待されていたが、再発例の報告があり、今後の検討が必要である。
サリドマイド療法については、短期的には有効である可能性が高いが今後の証明が必要であり、長期予後は不明である。
http://www.nanbyou.or.jp/entry/241
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