虚血性心疾患の心電図診断と治療 小菅雅美先生
2013-09-24 08:34
川村内科診療所
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2013年9月11日 けいゆう病院
演題「虚血性心疾患の心電図診断と治療」
演者:横浜市立大学付属市民総合医療センター 心臓血管センター客員准教授小菅雅美先生
内容「急性冠症候群Acute Coronary Syndrome(ACS)はUA(Unstable Angina:不安定狭心症)、NSTEMI(Non-ST Elvation Myocardial Infarction:非ST上昇型心筋梗塞)およびSTEMI(ST Elvatioin Myocardial Infarction:ST上昇型心筋梗塞)そして突然死がある。その診断根拠となるのは、病歴、身体診察、心電図所見、血液中の心筋マーカーである
心電図の所見は

心筋梗塞の心電図の時間的変化は、先ず、該当する誘導で、T波の増高があり、STが上昇してきて、異常Q波(R波の減高)が生じ、冠性T波と言われる左右対称性の陰性T波が出てきて、その後に時間をかけて陰性T波が消失してくる。
この、最初の変化のacute hyper Tと言われるものに似ているのが、高カリウム血症の際のT波の変化です。血清K値の上昇に伴いT波が増高し、その後にQRS幅も増大してくる。

分かりやすく理解するために、心筋梗塞による変化を「とんがりコーン」に、高カリウム血症の変化を「バラのとげ」に例えられる。

心筋梗塞の際に心電図所見があまりひどくないように思えて、実は重症冠動脈病変である場合がある。

心尖部を超えて下壁の方まで左の冠動脈が灌流(Wrapped LAD)している場合には、左冠動脈の閉塞で(A)のように心電図が変化します。心尖部まで灌流していない場合には、心尖部心筋の活動がミラーイメージで加算され、STの低下がより強く出てくる。STの低下が軽い方がより広範囲の心筋が壊死している場合もある。
Clin. Caardiol. 21 562-566 (1998)
臨床症状:急性心筋梗塞と診断された796例中148例の臨床症状の検討(adjusted odds ratio, 95% confidence intervals)では、右腕への放散痛(2.23, 1.24-4.00)、両腕への放散痛(2.69、1.36-5.36)、嘔吐(3.50、1.81-6.77)、前胸部中央の痛み(3.29、1.94-5.61)、冷や汗(5.18、3.02-8.86)が多く、教科書的に記載されている心筋梗塞に特徴的だと言われている安静時痛(0.67、0.41-1.10)、左腕への放散痛(1.36、0.89-2.09)よりも頻度が多かった。
また、横浜市立大学付属市民総合医療センターを受診されたSTEMI457例(女性106:男性351)の検討では(女性の数:男性の数、有意差がある確率)、年齢(72:62、P<0.001)、高血圧の割合(70%:56%、P=0.019)、糖尿病の割合(36%:26%、P=0.047)、脂質異常症のある割合(51%:38%、P=0.019)、非特異的症状(45%:34%、P=0.033)、あご、ノド、首、肩、腕、手、背中などの胸部痛以外の痛み(20%:7%、P<0.001)、嘔気(49%:36%、P=0.013)と男女差があった。

 
ノドが痛いと訴えた患者さんは一般医からの紹介患者で、「ノドの痛み」をより詳しく聞くと、速足で歩くとノドが痛く、休むと痛みはなくなり、最近痛みが強くなり、冷や汗も出てくるようになったので受診したとのことで、UAを疑われ、精査・加療目的の紹介患者であった。症状を聞くだけで終わるのではなく、症状の付帯的状況や時間経過をより詳しく聞くことが大切であると実感させられる症例であった。
検査所見や治療方法においては男女において有意な差はなかった。

心筋梗塞の胸痛の強さで四段階に分類での頻度は、4/4:死を感じる痛み=9%、3/4:うずくまる痛み=49%、2/4:普通に動ける痛み=32%、1/4:ほとんど気にならない痛み=10%であり、ここから推察されることは、4/4+3/4の58%は救急車を利用する可能性が高いが、2/4+1/4=42%の患者は徒歩で来院する可能性が高いことである。予後に関しても、一般的には、胸痛が強いほど重症と思われるが、1/4の症例の院内死亡率がもっとも高く、症状が軽いため、受診までの時間経過が長いことや、受診しても、重病感がないため対応が遅れがちになることが関与していると思われる。
AMI患者連続1410例を対象とした観察研究(J-LOE P3)では、女性のAMI患者で発症から入院までの時間が、男性で平均7.2時間であるのに対し、女性は12.4時間と有意に長いことも報告されている。

非ST上昇型急性冠症候群NSTE-ACSにおいて予後不良因子の一つとして入院時心電図でのaVR誘導でのST上昇があり、この所見は左主幹部または三枝病変(LMT/3VD)が存在している所見と考えられ、横浜市大で症状出現後48時間以内に冠動脈造影を施行しえたNSTE-ACS症例367例の検討では、aVRに異常を認めなかったA群、aVRでST上昇0.5mm以上を認め、6時間以内に50%以上改善(ST resolution)したB群、ST上昇後も改善認めなかったC群の三群人比較において、それぞれの予後測定因子の数値は、年齢(66±11、69±8、72±10:p<0.001)、高感度CRP(0.534±1.351、0.617±1.121、0.960±2.049mg/dl:P=0.12)、心筋トロポニンT陽性例(39%、58%、64%:P=0.001)、LMT/3VD例(7%、32%、74%:P<0.001)であった。入院後30日のイベント発生(死亡、心筋梗塞)は1%、6%、21%(P<0.001)であった。多変量解析で、aVR誘導のST resolutionの欠如は入院後30日のイベント発生を予測する最も強力な因子だった(OR:5.62、95%CI:2.10-64.1 P=0.02)。
NSTE-ACSに対してクロビドグレル(プラビックス)の投与が勧められているが、重症三枝病変や左主幹部病変患者において施行されるCABG(冠動脈バイパス術)においては、投与日から5日以内に手術が行われた患者において、出血のリスクが上昇するため、プラビックスの投与を控えるべきだとの意見がある。しかし、入院中にCABGが行われる率は9~21%であり、しかも緊急CABGはもっと少ない。
572例のNSTEのACS症例においてCABGが必要だと考えられた左主幹部病変+三枝病変患者は112例であり、そのうち緊急でCABGが必要であると考えられる重症例は55例であった。この10%にも満たない症例のため、プラビックスの投与を躊躇することは一考を要すると考える。
参:心筋梗塞のまとめのHP
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