2013年10月29日 ホテルキャメロットジャパン
演題「心拍数から循環器治療を考える −β遮断薬の役割−」
演者:東京医科大学第二内科主任教授 山科章先生
内容及び補足(含質疑応答)「
1977年の健診を受けた40〜64歳の男性573人を1994年まで経過を見た。心拍数を60未満、60-69、70-79、80-89、90以上に分けたところ。60未満の群で一番死亡率が低く、90以上の群は60万の群に比較して38.2%も上昇していた。
安静時の心拍数と突然死の関係を見てみると、男性では、65未満に比較すると88以上は5倍以上に上昇しており、安静時心拍数が10拍/分上昇すると突然死発生率が約二倍増加することになる。一般市民を対象とする
5つの代表的な疫学研究結果をまとめてみても、心拍数が上昇するごとに死亡リスクが上昇することがわかる。
40歳以上の1780名の日本人で調べた
大迫研究では、早朝家庭心拍数が5拍/分上昇するごとに心血管死亡リスクが17%上昇する結果となった。家庭血圧が135mmHg未満でも、心拍数が70以上であれば、相対危険度は2.16と高くなった。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(10)61198-1/fulltext
心不全患者においても同様の結果であり、その変化はより顕著だった。(ただし心不全患者の場合65未満も危険度がやや上昇している傾向を認めた。)
135164人のうち6.5%にあたる8819人の人が入院中にイベント(死亡、心筋梗塞、脳卒中)になった。その人たちの心拍数の関係を見たのが下の表になる。60-69拍/分の群において一番イベント率が低く、50未満で1.43倍、130以上で1.43倍とリスクの上昇がみられた。
日本人のデータでも、心拍数が58以下の群、59-64の群、65-70の群、70を超える群に分けて経過を見てみると高血圧になるリスクはそれぞれ、4.5%:6.8%:6.0%:7.2%であり、1:1.53:1.35:1.61と高値になるにつれ上昇した。
日本人間ドック学会も2012年4月より、心拍数の基準値を変更し、40-44/分、86-100/分を要経過観察・生活改善群とし、39未満と101以上を精査群と心拍数の基準値を新たに創設した。
Circulationに掲載されたこの冠動脈造影の写真を見て分かるのは冠動脈のプラークのラプチャーである。
冠動脈プラークのラプチャー危険因子の解析結果を見ると、平均心拍数が80を超えると危険度が上昇することとなる。
HR indicates heart rate; IVS, interventricular septum; PPF, fractional pulse pressure; and ACE, angiotensin-converting enzyme.
2010年に出された循環器病の診断と治療に関するガイドラインでも取り上げられているが、心不全における大規模試験のエビデンスがあるβ遮断薬は、β1選択性の目とプロロールとビソプロロール、β非選択性でα遮断作用と抗酸化作用を持つ軽部字ロールの三種類のみであり、いずれもISA(-) で脂溶性である。
Japanese Coronary Artery Disease研究では脂肪性β遮断薬を処方されたものの予後が水溶性のβ遮断薬を処方されたものよりも予後が良好であったと報告されている。
過去のメタ解析でβ遮断薬の有効性を否定している報告は、すべてメトプロロールとカルベジロールを含んでいない研究の解析結果である。
心室筋の活動電位を遅らせ心拍数のみを低下させるIvabradineを心不全患者に投与する
SHIFT研究は、5拍の心拍数低下が、死亡率を18%低下させることを示している。
β1-AdrenoceptorのArg389がGly に変化している人はカルベジロールの効きが悪いが、メトプロロールに関しては、変化がないことが示された。日本人においては紺変異が比較的多く見られ、臨床的にカルベジロールが効きにくい人がいる理由の一つと考えられる。」