2013年11月23日 ホテルグランコート名古屋
演題「見逃される重要な腰痛・仙腸関節の痛み」
演者:仙台社会保険病院副院長 村上栄一先生
内容及び補足(含質疑応答)「椅子に座り続けることが困難で、仰向けに寝られない患者いて、整形外科で痛み止やブロック注射などいろいろと処方されるも痛みが改善せず、CTやMRIの画像検査でも異常所見がないため、身体表現性障害と診断され、精神科を紹介された。その紹介状には『知的能力低下』と記載されており、ペインクリニック専門医に紹介されるも、器質的な疾患もなく、治療効果も乏しく、当院受診となった。仙腸関節固定術により、痛みが減少し、現在は仰向きで寝ることができる様になっている。
別の患者さんですが、難治性腰下肢痛を主訴に受診。仰向けで寝られず、患側上側臥位でのみ寝られる状況でしたが、仙腸関節ブロックで症状が劇的に改善しました。
1905年Goldthwaitが仙腸関節炎を提唱しましたが、1934年Mixterが椎間板ヘルニアの概念を提唱してからは注目が低下してきました。
仙腸関節は後仙腸靭帯、骨間仙腸靭帯、前仙腸靭帯の靭帯区域とその上方の関節区域に分けられる。
仙腸関節の意義は二足歩行を可能としている重要な関節である。
生物の進化で魚類から四足動物への変化はヒレが体の速報に出ている四本の有りになる変化で同系列の変化と言える。四足動物が二足歩行を獲得することは異次元の変化であり、これを可能にしたのは骨盤が進化したことによる。腸骨が短くなり前後に広がること、仙骨が一つに融合することにより可能となった。
倒立振子の実験からわかることは、頭らか体のずれを補正する信号を出していたら、直立し続けることが困難であるということである。
人間の体の重心は幼少期においては胸椎にあるが、成長するにつれS2の前方に移動してくる。いわゆる『丹田』と言われる位置である。従って、立位を保つためには骨盤の回転が重要になってくる。
関節は足、肩、股関節の様な滑走関節と仙腸関節、肩鎖関節、手根管関節の様な半関節に分けられる。
仙腸関節の関節神経学は、負荷がかかった時の硬くなる『関節静的反射』とそのあとの動きを制御する『関節運動反射』に分けられる。カタツムリが瞬時に角をひっこめ、そのあとゆっくり出してくる動きに似ている。
上半身の荷重を仙腸関節で左右に振り分け、両下肢にかける働きをしている。この働きがあるので、木から飛び降りて直ぐに走り出すという動作が可能になるのである。
疾患分類としては、仙腸関節腔内の炎症(感染、SNSA、変形、外傷後、出産後など)と、仙腸関節のわずかなずれによる機能障害に分けられる。病態としては後方靭帯群の過緊張から疼痛が発生していると考えられる。
自分の勤めている病院に新たに来られた239人のうち仙腸関節障害症例は115人49%であり、腰椎椎間板ヘルニア32人13%より圧倒的に多かった。仙腸関節を専門に診療しているという特殊性はあるものの、腰痛患者のうちにこの仙腸関節の障害症例がかなり潜んでいる可能性がある。
すでに10代から80歳代の高齢に割ってこの疾患は存在し、やや女性に多いが男性にもみられること、出産とは関係なく見られる。
痛みの分布を示すと以下のようになる。
鼠蹊部に見られること大腿概則に見られることは通常の神経根症状とは異なることを示している。
診断方法としてはNewton testがある。
画像検査では今まで硫黄を認めないと言われていたが、近年仙腸関節炎が酷く長引いている時にはSPECT-CTで集積を認められるという報告が出てきた。
患者さんに人差し指で痛みの部位を示してもらうOne Finger testも有効である。
機能障害が出ている仙腸関節を圧迫するとねじれが増強し圧痛が強くなるので診断の助けになる。
また、骨盤の前方からの圧迫でも痛みが生じる。
治療としては骨盤ゴムベルトをまず行います。
改善が見られないときにはブロック注射を行う。
これでもダメで、日常生活がかなり障害されている場合には仙腸関節固定術を行います。
仙腸関節炎の特徴
? 硬い椅子に座ると痛みが酷くなり正座の方が楽
? 仰向けや患側下側臥位で寝られない
? 寝返りや立ちあがる時や朝方に痛い
治療としては、
? NSAID
? ノルスパンテープ
? モルヒネ
? 関節内ブロック(有効率62%)や関節後方靭帯のブロック(有効率96%)→関節後方靭帯の過緊張が原因と推察
? 仙腸関節固定術 1500例中30例 2%しか行っていない
参:
2008年10月14日掲載 村上栄一先生の投稿<仙腸関節障害の診断と治療>