2013年12月17日 横浜市健康福祉総合センター
演題「高齢者てんかんと認知機能」
演者:済生会横浜市東部病院神経内科部長 村松和浩先生
内容及び補足(含質疑応答)「
日本てんかん協会のHPがあり、いろいろな情報が掲載されております。
てんかんの定義は世界保健機構では『てんかんとは、種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作(てんかん発作)を特徴とし、それにさまざまな臨床症状及び検査所見がともなう。』としており、一回のてんかん発作では、てんかんと診断しません。
てんかん発作とは『大脳の神経細胞(ニューロン)は通常、規則正しいリズムでお互いに調和を保ちながら電気的に活動していますが、この穏やかなリズムを持った活動が突然崩れて、激しい電気的な乱れ(ニューロンの過剰発射)が生じることによって脳や体の働きや動きに変調が起きる発作』のことです。
発症年齢は、乳児期から高齢期まだいつでも発病しますが、3歳以下が多く、約80%の人は18歳以前に発病すると言われていましたが、近年高齢者人口の増加とともに高齢者の発病が増えてきています。
一部のてんかん拝殿疾患に伴って発病しますが、ほとんどのてんかんは遺伝しません。
てんかんの原因疾患としては、小児期の代表的なものは、出産時の脳障害で、側頭葉てんかんの原因の大半は、仮死分娩が関連しています。その他、髄膜炎や脳炎などの感染症の後や、予防接種後の高熱を出した際に脳炎用の症状を発現した後にてんかん発作が残ることもあります。それ以外に、子宮の中にいる胎生期の8-16週にかけて大脳の形成障害が起きると限局性皮質異形成が生じたりした結果、てんかん発作を生じることもあります。また脳腫瘍や血管腫などの疾患に伴うものもあります。
それに対して、高齢者のてんかんの原因疾患としては、1/3ぐらいが原因不明ですが、30-40%と一番頻度が多いのが脳血管障害で、続いて、頭部外傷、アルツハイマー病(神経変性疾患)、脳腫瘍が挙げられます。
脳血管障害発症から一年以内のてんかん発作発症の危険率は一般人口の23倍になると言われています。
Neurology 1996; 46:350-5.
てんかんの発作の種類としては、部分発作と全般発作に分けられます。
部分発作は脳の電気信号の異常が一部に限局される発作で、意識がはっきりしている単純部分発作と、意識を失う複雑部分発作に分けられます。脳の異常興奮する場所により症状が異なります。
部分発作の中には、脳波の異常が二次的に脳全体に広がり全般性の発作になるものもあります。
単純部分発作は、意識があるため、発作の始まりから終わりまで記憶があります。
手足や顔が突っ張ったり、ねじれたり、ガクガクと痙攣したり、体全体が片方に引かれたり、回転したりする運動機能障害や、小さな虫が飛んだり光が見えるような視覚発作や、人の話す声が聞こえる聴覚発作や、片側の足のしびれ、頭痛や吐き気といった症状のものもあります。
複雑部分発作は、単純部分発作と異なり意識を失うので発作中の記憶がありません。周りの人から情報を得る必要がある発作です。
意識はなくても倒れることは少なく、急に動作を止め、ボーとしてしまう発作(意識減損発作)や、あたりをフラフラと歩き回ったり、手をたたいたり、口をもぐもぐさせるといった無意味な動作を繰り返す自動症の症状が見られます。
全般発作は脳全体に脳の電気信号異常が広がり、発作直後から意識がなくなることが多く、全身に症状が出現する発作です。
強直性発作:突然意識を失い、手足を伸ばした格好で全身が硬く突っ張った格好になり、硬く食いしばり、呼吸が止まってしまいます。数〜数十秒間持続し、意識消失時に激しく倒れることが多く、けがをすることもあります。
間代発作:膝を折り曲げる格好をし、手足をガクガクと一定のリズムで伸ばしたり曲げたりする発作で、数十秒から1分前後の持続が見られます。
強直間代発作:強直発作と間代発作が合わさった発作で15〜30秒の強直発作と30〜90秒の間代発作が見られます。発作後は自然睡眠(終末睡眠)と呼ばれる30分から60分ぐらいの睡眠に移行し、その後は元の生活に戻ることもあります。発作直後は意識がもうろうとしており、物にぶつかったりして、発作時の事故よりも、発作後の事故が少なからずみられるので、発作が起きた際はしばらく安静にする方が良いでしょう。
ミオクローニー発作:頭部や両側の足の筋肉の一部分野身体全体の筋肉が強く収縮する発作で、瞬間的な症状であることが多く、自覚されていない場合もしばしばみられます。連続して起こることもあったり、転倒したり、持っているものを投げ飛ばす場合もあります。光によって誘発されやすく、寝起きや寝入りばなに起きやすい傾向があります。
欠神発作:運動系の異常を伴わない数十秒にわたる意識がなくなる発作で、急に会話が途切れたり、動作が止まったりします。「集中力がない」と周りに思われるだけで、てんかん発作と気付かれないことがしばしばあり、学童期や就学前に現れることが多く、女児に多いと言われています。
脱力発作:全身の筋肉の緊張が低下・消失する発作で崩れるように倒れてしまいます。数秒と持続時間が短いけれど薬が効きづらい発作です。
てんかんの診察の最重要なことは 、本人からの情報収集は大事ですが、意識がない場合や時間帯があり、その時の情報が重要なので、周りの人からしっかり情報を集めることが重要となります。本人も家族もそうですが、その人の癖や何気ない動作と考えていて、てんかん発作と結びつけていない情報が少なくないので、こちら側から、てんかん発作の可能性があり、その場合には、こちらから、てんかん発作の際に見られる症状を一つ一つあげ、患者さんやその周囲の人に確認してもらうような質問の形態が必要になります。要点を以下に挙げます。
てんかん発作の際の診察の流れは以下のようになります。
先ずは、問診の段階でてんかん発作の可能性を疑うことから始まります。
てんかん発作を疑った際に鑑別すべき疾患として以下のものが挙げられます。
高齢者のてんかん発作の主な特徴を以下に示します。
特に高齢者の場合にしばしばみられる記憶障害が主な症状として見られる一過性てんかん性健忘症は、以下の三疾患と区別する必要があります。
一過性てんかん性健忘症の診断基準と臨床的特徴を下記に示します。
治療に関しては、通常てんかん発作を認めた場合、初回発作(孤発発作)では、てんかんによるものでない可能性もあるため、原則抗てんかん薬の治療は開始しませんが、?神経学的異常、?脳波異常、?てんかんの家族歴がある、?高齢者(65歳以上)のいずれかが認められた場合には、再発率が高いことがわかっているので、薬物治療を考慮する必要があります。
治療薬としては、一般的には、下記の表のように考えられていますが、近年開発されたレベチラセタムは、発作の抑制率も高く、副作用も少なく、現時点では併用薬としてしか認可されていませんが、今後臨床データの蓄積などがあれば、第一選択薬として投与できるようになってほしい薬でもあります。
参:
高齢者てんかんのガイドライン