糖尿病による酸化ストレスと認知症 井口登與志教授
2014-04-14 08:57
川村内科診療所
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2014年4月6日グランドプリンスホテル新高輪
演題「糖尿病による酸化ストレスと認知症」
演者:九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点教授 井口登與志先生
内容及び補足「
H23年の厚生労働省の調査で20歳以上の人で糖尿病と言われたことがある人の頻度を示す。

60歳以上になると男性では4人に1人、女性で6人に1人の割合となる。
認知症になると有病率は60歳ごろから急増し始め、

75歳を超えるころから男女が逆転し、65歳以上の認知症の平均有病率は10%にも上る。
(1992年の大塚俊男らの報告をもとに作成:痴呆性老人の割合[65歳以上,昭和60年全国])。


久山町のデータで糖代謝の状態ごとに脳血管性認知症とアルツハイマー病の頻度を見てみると、脳血管性認知症よりもアルツハイマー病において耐糖能異常の程度が影響していることがうかがえる(講義ではレビー小体も表示があったが糖代謝障害の程度での変化はなかった)。


1997年にすでに糖尿病合併例の認知症例においてはアルツハイマー病でみられる特徴的な病理変化がみられないことが報告されている

糖尿病における認知症と早期認知症群においては病理像のみでなく臨床像においても異なることが認められており、早期認知症群においては時間に関する見当識障害や近似記憶障害を示す遅延再生が認められ、糖尿病群では注意力が有意に低下していた

それとは別の考え方がde la Monte先生の唱えている「アルツハイマー病はType 3 Diabetes」という考え方である。

脳の重要なエネルギー源はグルコースであるが、アルツハイマー病患者の場合、脳内でインスリン抵抗性が生じており、グルコースが有効に脳内で利用できないこと、βアミロイドの蓄積が生じ、神経細胞の変性・壊死が起こり、アルツハイマー型の病状が進行するという考え方である。
インスリンは適正量のブドウとともに投与されると記憶は促進され、細胞内からのβアミロイドの遊里を促進させ細胞内のβアミロイドの蓄積を抑制することが動物実験で報告されている。
通常インスリンは脳血管関門(BBB)を介して脳内に輸送されるが、高インスリン血症下においては、脳へのインスリンの移行が低下し、脳内のインスリ作用が低下して神経保護的作用が減弱すると考えられている。
またインスリン抵抗性下においては脂肪細胞から放出される遊離脂肪酸(FFA)がミトコンドリア機能を抑制し、BBBの透過性を亢進したり、βアミロイドを代謝するインスリン分解酵素(insulin-degrading enzyme:IDE)活性を抑制したりすることにより、アルツハイマー病の発症に関与する可能性が示唆されている

5年間の経過で血糖値と認知症になる相関を検討した研究がENJMの2013年に報告された。この報告の面白いところは、糖尿病群とそうでない群に分けて血糖値との相関を検討している点である。非糖尿病群では血糖値が低いほど認知症になる確率は低いが、糖尿病群ではU字型の変化を示している。低血糖発作が認知症発症及び進行に関与している可能性が示唆される。


糖尿病における認知症の発症・進行解釈モデルがLancet Neurologyの2006年に掲載
された。糖尿病が存在し、遺伝的な背景に、生活習慣病や、薬剤が関与して、動脈硬化性病変の進行、最小血管障害の合併、タンパクの糖化や参加ストレスの増大といった糖毒性に加えインスリンの作用不足や抵抗性が脳神経細胞に様々な影響を与えた結果として糖尿病性認知症が発症するといった考え方である。


この機序の中の参加ストレスについて行った実験の一部を紹介する。
六方向に放射状に延びた水路の一つに島を一つ作っておき、島以外のいろいろなところにマウスを放して、島に行きつくまでの各部屋へ行った回数を数える実験である。自然発症2型糖尿病モデルdb/dbマウスとコントロールとしてdb/+マウスで実験を行った。10週齢までは、有意な差はなかったが、20週齢になると明らかな差が出てきた。

この時のマウスの脳においては活性酸素の過剰産生を認め、NAD(P)Hオキシダーゼ構成タンパクや炎症サイトカインの発現の増加も認めていた。

高脂肪食を摂取したマウスの動脈硬化巣に不飽和脂肪酸が蓄積し、これがマクロファージを活性化して動脈硬化巣が進展していく。

脳内のマクロファージの機能は、ミクログリアが担っている

IFN-α、IL-1β、IL-6や活性酸素によりミクログリアが活性化される。

動脈硬化や老化の原因の一つとして酸化ストレスがあげられている。実際哺乳類においては、カロリー制限(Exp Gerontol 35:299-305, 2000; NEJM 337:986-994, 1997)とp66Shc遺伝子ノックアウト(30%の寿命延長 Nature 402:309-313, 1999)の二つの個体の寿命延長報告がある。

このp66Shc遺伝子はShc A、ShcBとShcCの三種類がありShcB/Cによってコードされるたんぱく質は脳・神経組織で発現、しShcAによってコ−ドされる蛋白質は脳神経以外のいろいろなところで発現されている。
N-(carboxyl) lysine(CML)を投与したWild miceでみられる糸球体硬化は、p66Shcノックアウトマウスにおいてはほとんど見られなかった。

Fig. 2 Histological appearance of kidney sections from representative
WT and p66Shc KO mice injected with MSA (a,b) or CML-modified
MSA (c,d) (PAS; original magnification: ×400)

近年使用されるようになった、GLP-1はインクレチン受容体に結合し、ATPからcyclic AMPを産生し、プロテインキナーゼA(PKA)を活性化する。PKAはcyclic AMP応答蛋白質(CREB)を活性化して細胞アポトーシスを誘発するカスパーゼ3を抑制し、膵β細胞死を抑制する。また、PKAはMAPキナーゼなどを活性化して膵β細胞の分化・増殖を促進する。


フェントン反応Fe2++H2O2 →Fe3++HO- +HO・ も過酸化物を出す反応のひとつである。この反応が生じるところにテネリアを添加しておくとテネリアよりも分子量が16増えたところに新たなバンドが出現する。つまりテネリアが酸素分子一個を補足したものが新たに生成していると考えられ、フェントン反応で産生された過酸化物をテネリアはトラップしているといえる。
構造式から考えてみると、テネリアおそらく右端の五印環のS基が酸素と二重結合を形成するものと考えられる。実際この構造はテネリアの代謝物M1の構造と同一のもので、通常のテネリアの代謝産物の14.7%をしめている。
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