2014年5月11日 ソラシティカンファレンスセンター
演題「ドライマウス全般の原因、診断、治療」
演者:大阪大学歯学部 阪井丘芳先生
内容及び補足「
口腔領域に症状を呈する疾患の頻度としては、
ドライマウス 10%
舌痛症(心因性) 2〜5%
扁平苔癬 1〜2%
白板症 男性:0.04% 女性:0.007%
口腔癌 0.000002〜0.00001%
唾液腺腫瘍 0.0000004〜0.0000026%
といわれており、ドライマウスが高率に認められているし、近年増加してきている。
唾液は舌下腺、顎下腺、耳下腺の三か所から一日1000〜1500ml分泌されいる。
唾液の成分は、99.5%が水分で、その他に、ナトリウム、カリウム、炭酸水素、無機リン、カルシウムなどの無機質とアミラーゼ、IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、ラクトペルオキシダーゼ、ムチンなどの有機質からなっている。
唾液の作用としては
粘膜保護作用(粘々したムチンで食塊を形成し、ノドや食道、胃を気付付けにくくしており、インフルエンザなどの感染にかかりにくくしている)
消化作用(アミラーゼを含み、穀物に含まれるでんぷんを分解して麦芽糖に変え、吸収しやすくしている)
抗菌作用(ラクトフェリン、リゾチーム、ラクトペルオキシダーゼ、免疫グロブリンIgAなどの抗菌物質を含み細菌やウイルスを殺す)
粘膜修復作用(上皮成長因子、神経成長因子などが含まれ、皮膚や粘膜が傷ついた時に傷跡を残さず修復する)
としての役割がある。
ドライマウスの症状としては、
口の中の乾燥、ネバネバ感 舌の痛み(舌痛症) 舌炎 口内炎 話しにくい
口の中のヒリヒリ感、灼熱感(口腔灼熱症候群) 喉のひっつき 口臭
口唇の乾燥、ひび割れ 乾燥した食品を食べるのが困難、飲み込みにくい
夜中に口の中が乾いて何度も目を覚ます 虫歯 歯周病 酸蝕症(酸蝕歯)
食べ物の味がしない(味覚障害) 口の中がすっぱい、苦い(味覚異常)
などがある。
ドライマウスになり易い人としては、
口で呼吸(口呼吸) 仕事や家庭などのストレス 薬の長期服用 更年期 鼻閉
生活習慣の乱れ(夜更かし、生活リズムが不規則など) 唾液腺の病気 外傷
食生活の乱れ(外食中心、朝食抜きなど) 精神的な病気(うつ病、不眠症など)
放射線治療 化学療法(抗がん剤など) 糖尿病 シェ−グレン症候群 喫煙
慢性関節リウマチ 脳血管障害 胃食道逆流症(逆流性食道炎) TCH
慢性腎臓病(腎不全、人工透析) いびき・睡眠時無呼吸症候群 歯ぎしり
の状況が挙げられる。
唾液が減少するドライマウスにおいて生じる障害として、
口の異常乾燥感・不快感、
上部消化管障害、
感染症、
口臭、
摂食嚥下障害、
会話困難、
舌痛症、
齲歯・歯周病、
口腔粘膜疾患
などがある。
ドライマウスの原因としては以下のものが挙げられるが、頻度的には薬の副作用が多い。
薬剤としては
催眠・鎮静薬:ハルシオン、レンドルミン、リスミーなど
抗不安薬:デパス、リーゼ、セルシンなど
抗精神病薬:ドグマチールなど
抗うつ薬:ルジオミールなど
抗めまい薬:ボナミンなど
抗てんかん薬:アレ「ビアチン、テグレトールなど
抗パーキンソン薬:アーテンなど
降圧薬:アダラート、アムロジン、ヘルベッサーなど
利尿薬:フルイトランなど
抗ヒスタミン薬:アレジオン、ポララミンなど
抗潰瘍薬:タケプロン、ガスターなど
抗コリン薬:バップフォー、ポラキスなど
多岐、多種類の薬剤にわたっている。
薬剤の副作用の他に、
糖尿病、シェーグレン症候群、腎不全、更年期障害などの病態に伴ったもの、
ストレス、食生活の筋力の低下、加齢といったものもある。
ドライマウスに対するケアとして
薬に頼らない生活
会話を活発に表情豊かな生活
良く噛む習慣を付ける
軽い運動で自律神経を活発にする
口腔の保湿(マスクの着用など)
ストレスをためない
十分な水分の摂取(カフェインやアルコールを含まないもので)
刺激物を避ける
口腔ケア
が大切である。
診断に際しては、問診表が重要である。一般的には次の四項目に対して、0:全然ない、1:たまにあるが気にならない、2:いつも気になる、3:ひどく我慢できない、の四段階で評価している。
◆口の症状
・口の乾きが3か月以上続いている
・顎の下が繰り返し、あるいはいつも腫れている
・乾いた食物を飲み込む際にしばしば水を飲む
・水をよく飲む
・夜間に起きて水を飲む
・乾いた食品が噛みにくい
・食物が飲み込みにくい
・口の中がネバネバする
・口の中が粘って話しにくい
・口臭がある
・義歯で傷つきやすい
◆目の症状
・3か月以上、目の乾燥に悩まされている
・目に砂が入った感じが繰り返しある
・目薬を1日に3回以上使う
・目がゴロゴロ・ショボショボする
・目が乾く・涙が出にくい
・朝起きた時に目が開けられない
◆関節の症状
・朝起きた時に手足がこわばる
・手足を曲げると痛い
・関節が腫れている
◆最近の生活
・忙しかった
・ひどくショックを受けるようなことがあった
・心配事があった
・恐い夢を見る
・職場や家の中で嫌なことが多い
・この頃心配事があって気持ちが落ち着かない
・はっきりとした原因がないのに、いろいろ不安になる
・人の言動が気にさわってよくイライラする
・緊張した時に、ひどく汗をかいたり震えたりする
・ちょっとしたことでも気になって仕方がない
・自分の健康のことが心配で仕方がない
・ひどく几帳面で、きれい好きすぎる
・寝つきが悪かったり、眠っていてもすぐに覚めやすい
・毎日くつろぐ時間的余裕がない
・人から神経質だと思われている
・いつも緊張してイライラしている
・恐い夢で目を覚ますことがある
検査としては、唾液分泌量の検査(ガム試験、サクソン試験)、涙の分泌量の検査(シルマーテスト)、口唇の生検がある。特殊な検査としては、耳下腺造影検査や唾液腺シンチなども行われることがある。
治療としては、
1.日常生活指導
2.口腔内のケア
1)口腔を清潔に保つ:プラークや歯石の除去
2)不適合義歯の修復治療
3)修復あるいは捕綴物の修理
4)歯牙の鋭縁の除去
3.口腔乾燥そのものに対する治療
4.口腔乾燥に起因する合併症に対する治療
5.定期的な経過観察
が中心となる。