3014年5月23日 ローズホテル
演題「鼻炎合併喘息の病態と治療戦略」
演者:東京女子医科大学病院 内科学第一講座主任教授 玉置淳先生
内容及び補足「
喘息患者のアレルギー性鼻炎の合併は多く、喘息の病状や、喘息の発症にも影響することなどから「one airway, one disease」として注目されている。
アトピー型喘息患者の75%に鼻炎の合併、
非アトピー型喘息患者の80%に鼻炎の合併
季節性アレルギー性鼻炎患者の10-15%に、通年性アレルギー性鼻炎の患者の25-40%に気管支喘息の合併がみられるといわれている。
両者の関係は
下図のように図示できる。
アンケート調査であるSACRA研究でも、日本のぜんそく患者において70%弱に鼻炎の合併を認めており、また鼻炎合併患者のほうが喘息コントロール不良患者が多いという結果であった。
また、喘息患者において救急受診したり入院したりした患者の鼻炎の治療状況を見たコホート研究では、明らかに鼻炎治療をしてない人が多かった。
これらの結果の蓄積もあり、アレルギー性鼻炎は喘息発症のリスクや増悪因子の一つと認識されるようになってきた。
鼻炎と気管支喘息の病態に差異は認められるが、両者とも粘膜下の好酸球の浸潤やCD4+ リンパ球の浸潤が認められている。
鼻炎患者とぜんそく患者の頻度について上記論文でまとめているものを見てみると鼻炎患者のほうが3〜4倍ほど多い。
鼻炎過敏症状の発現メカニズムとしては、鼻粘膜で日mン細胞からヒスタミンが遊離され、三叉神経知覚中枢が興奮し、その反射により副交感神経終末からアセチルコリンが放出され、鼻腺から水様性鼻汁が分泌される。この際、迷走神経を介した刺激で気管支が収縮する反応を鼻気管支反射nasobronchial reflexという。
鼻炎患者における喘息発作は小のメカニズムとして、
? 上記反射
? 炎症性メディエーターが鼻から気管支へのドレナージ
? 鼻汁の気道内吸入
? 全身性のアレルギー性炎症
が考えられており、最後の全身性のアレルギー性炎症が最近では有力視されている。
鼻粘膜にアレルゲンを投与した際の鼻と気道の変化を測定した結果を見ると、対照群に比べ、鼻炎患者においては、鼻汁の分泌の増加ばかりでなく、最大鼻急速流量 (peak nasal inspiratory flow: PNIF)、最大呼気流量(PEF)も有意に低下している。
気管支に抗原暴露した際の、24時間後の末梢血の中の好酸球数を対照群とアレルギー性鼻炎患者で比較したものである。対照群では変化ないが、鼻炎患者では好酸球数の増加ばかりでなく、鼻粘膜にIL-5 の発現も増加していた。
Number of peripheral blood eosinophils before (T0) and 24 h (T24) after segmental bronchial provocation. Grey boxes indicate allergic patients, open boxes indicate controls. Data are presented as median ± range. *p < 0.05, **p < 0.01.
COMPACT研究において鼻炎合併喘息患者に対してステロイドの倍量投与とシングレアの併用投与での比較試験が行われた。朝のピークフローで評価されているが、シングレア併用群の方が呼吸機能改善効果が大きかった。
また、鼻炎治療を行っている鼻炎合併喘息患者にステロイドの倍量投与とシングレアの併用投与での比較でも、有意にシングレア投与例で呼吸機能改善効果が大きかった。
喘息患者全体でステロイドの倍量投与とシングレアの併用群での変化の違いより、鼻炎を合併している患者においての方がシングレアの投与でより改善効果がみられた。
異常のことをまとめると、
喘息患者の2/3にアレルギー性鼻炎の合併がある。
鼻炎合併喘息患者はコントロール不良例が多い。
鼻炎と喘息の自覚症状の強さに相関関係がある。
コントロール不良・不十分な鼻炎合併喘息患者においてはシングレアの投与が有効である。
参考データ:
鼻炎の分類
1.感染性
a.急性鼻炎,b.慢性鼻炎
2.過敏性非感染性
a.複合型(鼻過敏症) :
i)アレルギー性:通年性アレルギー性鼻炎,季節性アレルギー性鼻炎
ii)非アレルギー性:血管運動性(本態性)鼻炎,好酸球増多性鼻炎
b.鼻漏型:味覚性鼻炎,冷気吸入性鼻炎,老人性鼻炎
c.うっ血型:薬物性鼻炎,心因性鼻炎,妊娠性鼻炎,内分泌性鼻炎,寒冷性鼻炎
d.乾燥型:乾燥性鼻炎
3.刺激性
a.物理性鼻炎,b.化学性鼻炎,c.放射線性鼻炎
4.その他
a.萎縮性鼻炎,b.特異性肉芽腫性鼻炎
アレルギー性鼻炎と非アレルギー性非感染性鼻炎の鑑別
アレルギー性鼻炎の年齢層別有病率
年齢別男女別喘息患者数:若年者に多く15歳ごろに一時軽快・寛解すし、患者数は減少するが、30代から増えてくる。
年齢別気管支喘息発症年齢:多くは幼少期に発症するが、高齢発症者も少なからずみられる。
喘息死患者の重症を見ると、重症例が一番多いのは理解しやすいが、中等症例や軽症例でも死亡されている症例があり、発作が軽いからと日常の治療を軽視するのではなく、きちんとした治療が必要である。
男女別年齢層別喘息死患者数:7個売れになればなるほど喘息死の患者が増加してくる。
喘息死亡に至る発作の誘因を見てみると、気道感染・感冒・下気道感染が圧倒的に多いが、過労・ストレスといった精神的な状況も無視できない。薬剤の中止による悪化もあり、症状がよくなったからやめるという自己判断は慎んでもらうことも重要であるが、β刺激薬の過剰使用やNSAIDの使用での悪化について、繰り返し注意喚起していくことも重要である。