糖尿病・肥満とがんの関係 鈴木亮先生
2014-06-09 08:51
川村内科診療所
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2014年6月4日 横浜ベイシェラトンホテル
演題「糖尿病・肥満とがんの関係」
演者:東京大学大学院医学研究科 糖尿病・代謝内科講師 鈴木亮先生
内容及び補足「
2012年においては予備軍が減少して来ているが、日本において糖尿病が強く疑われる人は増加の一途をたどっている。

日本人は欧米人に比べてインスリンの分泌能が約半分程度であり、それに加え、高脂肪食、運動不足が糖尿病患者数の増加に寄与していると考えられている。
糖尿病患者の死因を原因ごとに米国と比較してみると(米国2009年、日本2007年のデータ)、ガン(27%:34%)、虚血性心疾患(43%:20%)、腎関連死(3%:7%)、感染症(7%:14%)と米国では虚血性心疾患での死亡が多いのに比べ日本では癌による死亡が多い。
ではどういった癌が糖尿病患者に多いのかを見てみると、肝細胞癌、膵癌、子宮内膜腺癌が多くみられるとするものが多い。前立腺癌が少ないのは、女性ホルモンである、Estrogenが上昇することに起因している可能性が指摘されている。


日本においての状況はどうかというと、相対リスクが高いものを上げると肝癌1.97、膵癌1.85、子宮内膜癌1.84となる。日本においても前立腺癌は0.96と低率である


がんセンターのHPに今までの発がんリスク研究のまとめが掲載されている。
糖尿病と関連するものとしては、ほぼ確実なものとして、肝臓癌、膵臓癌、可能性ありとして、子宮内膜癌が挙げられている。
肥満が関係するものとしては、確実なものとして女性の乳癌、ほぼ確実なものとして、肝臓癌、大腸癌、可能性のあるものとして、子宮内膜癌がある。


糖尿病が存在することによる発がんが増加する機序が推察され提唱されている。
高インスリン血症のため、腫瘍細胞のインスリン受容体が刺激され腫瘍細胞のアポトーシスが抑制される機序やインスリン抵抗性のために肝臓におけるIGFBP(インスリン様成長因子結合蛋白)の産生が低下し、その結果としてFreeのIGF-1が増加し、腫瘍細胞のIGF-IRを刺激して、腫瘍細胞のアポトーシスを抑え、増殖を刺激する機序が推定されている。

http://www.nature.com/nrc/journal/v14/n5/abs/nrc3720.html
2007年に日本人男性において、C-peptide高値は血糖直腸がんの指標になることが示された。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ijc.22556/full
肥満者に伴い、脂肪細胞では、アロマターゼや17βヒドロキシステロイド脱水酵素(17β-HSD)による?4アンドロステンジオンからテストステロンやエストロンを介した活性型エストロゲンへの変換が促進される。また同時、インスリン抵抗性に伴い高インスリン血症が生じた結果、肝臓では高インスリン血症により性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の合成が低下する。これらの作用により活性型エストロゲンの量の上昇が生じると考えられる。活性型エストロゲンの作用は臓器により異なり、乳腺上皮や子宮内膜では、アポトーシスの抑制や増殖の亢進により癌化につながり、前立腺組織においては、発癌抑制に働いていると考えられる。

肥満の原因の一つである高脂肪食により、マウスの腸内において、普通食ではほとんど検出されなかったClostridiumクラスター??あるいはClostridiumクラスター???aに分類されるグラム陽性細菌が増加していることが明らかになった。これらの菌はデオキシコール酸を産生する。培養細胞を用いた研究において、デオキシコール酸は活性さんをを介して細胞のDNAの損傷を誘導し、発癌を促進する可能性が報告されている。
肥満により増加したグラム陽性腸内細菌の産生する2次胆汁酸デオキシコール酸が腸肝循環を介して肝臓に運ばれ、肝星細胞の細胞老化や細胞老化関連分泌現象を誘導し肝癌発症を促進していることが明らかになった。

http://first.lifesciencedb.jp/archives/7410
明らかにいくつかの研究において体重の減少が癌のリスクを減少させている。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1463-1326.2011.01464.x/abstract
胃バイパス手術によるおける予後改善効果は女性においてのみ認められている。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/joim.12012/full

運動の効果を見たものとして結腸直腸がんの頻度を検討したものがある。大腸ポリープ、大腸腺腫、さらに進行した病変において有意に減少している。

http://www.biomedcentral.com/1756-0500/5/312

Food Nutrition, Physical Activity and Prevention of Cancer:a Global Perspectiveでがん抑制効果があるものとして、非でんぷん性野菜、ネギ類野菜、果物などがあげられている。

逆に発癌を促進するものとしては、赤い肉、加工肉、広東風塩辛などがあげられている。

http://www.dietandcancerreport.org/cancer_resource_center/downloads/Second_Expert_Report_full.pdf

体重が減少することにより発癌が抑制され、体重減少が大きいほどその効果が大きいと推察される。その因子としては、腸ペプチドの変化や腸内細菌叢の変化が推察されている。
肥満で発癌が促進される原因の一つとして、高インスリン血症が考えられる。そうなってくるとインスリンを使って糖尿病の治療を行うことの是非が問題となってくる。
インスリン治療をおこなった2型糖尿病患者群とおこなわなかった2群で結腸直腸癌の頻度を検討した研究がある。インスリン治療で3160例中197(100000人/年)に対してインスリン非治療群21758人中124(100000人/年)の結腸直腸癌発症頻度であり、インスリン治療により1.21倍のリスクと計算された。

http://www.gastrojournal.org/article/S0016-5085(04)01236-3/fulltext
年齢、性、喫煙状況、BMIを補正したものを示す。FBSが6mmol/liter(110mg/dl)を超えたあたりから癌死の頻度が上昇してくることがわかる。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1008862
高血糖が悪いのか、高インスリン血症が悪いのか?
一連の研究がDiabetologiaの2009年VOl.52の1732ページから1777ページに掲載され、インスリン投与で、癌が増加すると報告された。
http://download.springer.com/static/pdf/73/art%253A10.1007%252Fs00125-009-1418-4.pdf?auth66=1402360365_98f099573e126fa10bb2d42581826cdb&ext=.pdf
http://download.springer.com/static/pdf/546/art%253A10.1007%252Fs00125-009-1444-2.pdf?auth66=1402360446_9bb30a19a7cb6bcac0970ff8c9a3b757&ext=.pdf
http://download.springer.com/static/pdf/717/art%253A10.1007%252Fs00125-009-1453-1.pdf?auth66=1402360478_b76b06b8008a046a69d62e96bd94d805&ext=.pdf
http://download.springer.com/static/pdf/386/art%253A10.1007%252Fs00125-009-1440-6.pdf?auth66=1402360506_49eb27f394129662fbd1dc8c27956886&ext=.pdf


http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1203858#t=articleResults

最近よくつかわれるようになったDPP-?阻害薬やGLP-1作動薬の影響も気になる。
2004-2009年のデータベースを集め検討したものが以下のものである。Exenatide(バイエッタ)やSitagliptin(ジャヌビア、グラクティブ)投与により膵炎や膵癌の上昇がみられ。バイエッタは甲状腺のC細胞を増やす可能性が指摘されており、甲状腺癌の増加も気になるところである。この解析で気を付けていなければならないことは、この解析データベースは、副作用報告のデータベースであり、もともと臨床研究としてデザインされた研究結果では何ということである。これらの薬は、膵炎や膵臓がん、など他の癌の副作用が心配されている薬剤であるため、偶然の併発症も薬剤の副作用の可能性があるため、報告として挙がってくるが、以前から使用されている他の薬剤のデータはこういった観点から情報を集めていないので、この副作用データベースには報告バイアスがもともと存在している(より多く報告されやすい)。したがって、副作用データベースからの解析では、薬剤とその投与により発症したとされる状態や病態の因果関係を示すことはできない。

http://www.gastrojournal.org/article/S0016-5085(11)00172-7/fulltext

Matteo Monamiらは2011年にメタ解析の結果DPP-?阻害薬投与では悪性腫瘍は増えないとした。
http://informahealthcare.com/doi/abs/10.1185/03007995.2011.602964
KPNC研究の中間報告では累積投与量が上昇するに従い、膀胱癌が増えると報告され

(http://www.mochida.co.jp/dis/kaitei/img/pio2306.pdf)
CNAMTS疫学学研究では、男性において投与量が多く投与期間が長くなると膀胱癌の頻度が上昇することが指摘された。
(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001hbq8-att/2r9852000001hd4v.pdf)
以上のことを受け、フランスやドイツでは新規処方が禁止されたが、日本では膀胱癌の発生頻度挙げないとする報告も多く存在するので、
? 膀胱癌治療中の患者等には使用を控える
? 膀胱がんのリスクについて患者への説明を行う
? 血尿等の兆候について定期的に検査する
という使用上の注意の改訂を指示することとなった。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001le8l-att/2r9852000001lenp.pdf
実際に膀胱癌の頻度は日本人6.9に対し欧米人は15.6と頻度に違いがある。
参:日本人の年齢調節した膀胱がんの罹患率は男性において10万人当たり12人、白人の膀胱がん発生率は10万人当たり20人程度(JACR Monograph No. 12)

メトホルミン投与においては癌の発生率は減少することが示されている。特に、結腸直腸癌、肝癌、肺癌において有意に減少している。


http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0033411

その機序は正確には分かっていないが、メトホルミン投与によりAMPキナーゼがリン酸化されて活性化し、それにより肝臓における糖新生が抑制され、インスリンに対する感受性が上昇すること、その結果インスリンや活性型IGF1を減少させることによる効果と、がん細胞でPI3キナーゼやAKTの下流で細胞の増殖を制御しているmTORを抑制することにより癌の発生を抑える可能性が示唆されている。

まとめると
糖尿病や肥満により癌のリスクは上昇する
インスリン抵抗性や高インスリン血症、高血糖、炎症、アディポカインの変化、腸内細菌叢の変化が寄与していると考えられる
体重の減少でリスクが減る
薬と癌の関係は確定していないので、今後注意して使用していく必要がある
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