合併症予防を目指す糖尿病治療  横手幸太郎教授
2014-06-12 08:52
川村内科診療所
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2014年6月4日 横浜ベイシェラトンホテル
演題「合併症予防を目指すこれからの糖尿病治療」
演者:千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学教授 横手幸太郎先生
内容及び補足「
2014年4月4日に人間ドック学会などが作る専門委員会が減じあの基準値で正常とされる数値の範囲を大幅に緩める出来だとする調査結果を発表した。
この数値は2011年人間ドックを受けた150万人の病気にかかっておらず、薬も飲んでいないきわめて健康な男女を約1万人選び、27項目の検査データを解析し新基準をして来年の4月から運用する予定だという。
血圧値は147/94まで、BMIは男性で27.7、女性で26.1、コレステロールは男性で254、女性は年齢により異なり、44歳までは238、64歳までは273、65歳から80歳までは280と今までのいろいろな学会などが提唱する基準値よりも大幅に緩和される結果となる。

多数例のデータをもとにしているので、インパクトの強い結果のように思われるが、このデータは、現在一見健康に見える人の、その場のデータの解析結果でしかないという点が問題である。
長寿国である日本で暮らしている自分たちは、現在の身を生きているのではなく、これから先何十年と健康で生活していくために現在の生活習慣を是正する必要があるのである。
NIPPON DATAが日本人のデータを経年観察し、心臓病や脳卒中などの循環器疾患発症の危険因子を検討してきた。
男性を19年間追跡した調査においては、120未満の血圧とそれ以上の血圧では循環器疾患脂肪の相対危険度は明らかに異なる。

男性において、年齢、BMI、血圧、糖尿病、飲酒、喫煙といった因子の影響を調節して14年間経過を見ていくと、総コレステロール値が200を超えた時点から冠動脈疾患脂肪のリスクが男性において増加し、240を超えるとより増加が顕著になる。

http://www.env.go.jp/council/former2013/07air/y078-04/mat01_2.pdf
疾患があって、治療されている人は、今夏イン人間ドック学会の基準値改正惑わされることがなく必要な治療は継続する必要がある。
糖尿病の合併症としては最小血管が障害される糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害と大きな欠陥が障害される脳梗塞や虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症などの大血管障害、近年話題になっている、歯周病、認知症、先ほどの鈴木先生の講義内容の悪性腫瘍がある。

UKPDSで治療された2群は試験当初においてはHBA1cの差は認めたが、その後の治療では両者間に差はなく、2002年の時点では1997年に比べ約HBA1cで0.5程度の低下であった。

細小血管障害においては、最初の報告時点から両者間において有意な差を認めていた。

心血管障害は最初の報告時にはP-0.052と有意な差にはならなかったが、その後の解析時にはP=0.014と有意差が出たし、

総死亡においても有意さが出てきた

つまり血糖低下療法の効果は、大動脈血管障害にも有効であるが、その効果は遅れて出てくるものであり、Legacy Effect:遺産効果ともてはやされたが、病初期(5年以内)の治療が有効である。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0806470#t=articleBackground
こういった血糖値の治療からすると驚くべき発表が2004年Lancetに掲載された。
Atrovastatin(リピトール)を使ってLDLを低下させた際には4.75年の中間報告時点において37%のイベント減少効果を認めたのである。
これだけ有効な治療法があるにもかかわらず、プラセボを投与継続していくことには倫理上の問題があるとして、臨床研究が打ち切られたのである。

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(04)16895-5/fulltext

http://www.lipidsonline.org/commentaries/cme_pdf/commentary_054.pdf
ではどうして短期間で効果が確認できるのか?
動脈硬化巣の形成メカニズムを考えてみよう。血管壁内皮を通過して内膜下の細胞外マトリックスに沈着する。沈着後酸化変性を受け、酸化脂質などの化学メディエーターを分泌したり、さらには周辺の細胞からMCP-1(moncyte chemotactic protein-1)やMCSF(macrophage colony-stimulating factor)などのサイトカインを放出させたりする。これらは、血管内皮細胞における細胞接着因子の発現誘導と共同して、流血中の単球を内膜下に遊走・固定する。ここで、単球は成熟マクロファージに分化し、酸化LDLを貪食して、泡沫細胞となり、様々な炎症性サイトカインや増殖因子を分泌し、血管平滑筋細胞を遊走・増殖させ、動脈硬化巣が進展していく。Atrovastarin投与によりLDLの量を減らすことで、これらの一連の変化を抑制することができる。

集中的多因子療法群はHBA1c<6.5%、TC<175?/dl、TG<150?/dl、SBP<130mmHg、DBP<80mmHgを治療目標としていたSteno-2研究で、介入試験完了後継続参加した集中的多因子群67例と標準治療群63例の観察試験で、集中的多因子治療が標準治療に比べ、心血管死に対して有効であることが示された。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0706245#t=articleBackground
日本人においては集中的多因子治療群:標準的治療群の治療目標として、HBA1c 6.2%:6.9%、血圧120/75:130/80、LDL-C 80:120、TG 120:150、BMI 22以下:24以下のJ-DOIT3試験が進行中である。現在の平均測定値はそれぞれ、HBA1c 6.2±4.3:6.7±5.5、SBP 123±18.1:128±12.2、DBP 62.8±4.3:78.2±10、LDL-C 72.4±16.3:93.2±20と治療状況に差が出ており、今後の結果が楽しみである。
糖尿病の今までの治療薬は、ほとんどが体重増加を来すものであり、そのことが問題となっていた。
食事療法や運動療法でも減量がうまくいかない患者が多く、外科的な治療方法が開発されてきた。
減量手術の種類としては以下のものがある。
食べられる食事の量を減らす手術(restrictive procedure)
   腹腔鏡下調節性胃バンディング手術(LAGB)
   腹腔鏡下袖状(スリーブ)胃切除術(LSG)
   腹腔鏡下調節性胃バンディング手術(LAGB)
   *内視鏡的治療:内視鏡的胃内バルーン留置術
栄養の吸収を阻害する手術(malabsorbtive procedure)
   腹腔鏡下胃バイパス手術(RGB)
   腹腔鏡下袖状(スリーブ)バイパス手術(LSGB)
   腹腔鏡下胆膵路バイパス+十二指腸変換手術(BPD-DS)
手術の適応としては、現在日本肥満症治療学会の最新のガイドラインによると『減量が主目的の場合はBMI 35以上』『糖尿病をはじめとした肥満合併症の治療が主目的の場合はBMI 32以上』となっている。
千葉大学の川村功先生が我が国に導入した腹腔強化袖状胃切除術(Laparoscopic Sleeve Gastrectomy)がある。

短期的な生成期では術後1年で体重の減少は平均59?で超過体重減少率は59%と報告されている。
http://www.islandbariatric.com/cn_surgery/bariatric_procedure.html

薬剤でSGLT2阻害薬が発売された。
通常腎臓の糸球体で濾過されたブドウ糖の約90%をSGLT2が再吸収している。このSGLT2をブロックすると、SGLT1での再吸収する量が増加するが、1日約50〜80g腎臓から排泄されることになる。

スーグラを投与すると、HBA1cは1.24%、体重は1.47?減少する。

尿糖が50g毎日排泄されると、50g×4kcal/g=200Kcalのカロリーが排泄され、200÷7=29gの脂肪が減少することに相当する。29×7日×12週=2.3?が3カ月で減少する計算となる。
ウエストの変化も、プラセボ群で―0.41?に対してスーグラ群で―1.61?減少するが、内臓脂肪だけでなく、皮下脂肪や筋肉も減るのが問題点である。
その他にもいくつか懸念される状況があり、適正使用のためにという注意点を念頭に置いてこの薬を使用する症例を選別すべきである。

副作用の口渇は1カ月以内に自覚される症例が多く3カ月ほどでほとんど認められなくなるが、逆に症状がある間は血液の濃縮・脱水が心配である。
HBA1cの変化は、腎機能により異なることがわかっている。eGFRが60-90では-0.70の変化であるが、30-60になると-0.31と効果が半減する。つまり使用すべき症例ではないと考えたほうがよい。

HBA1cが8.4%未満では-1.05の変化であるが、8.4%以上だと-1.49と効果が高く、他の傾向糖尿病薬と同じ結果が出ている。しかし、BMIを25で分けた際には、25以上では−1.06の変化であるが、25未満においては-1.39と減少が大きいことは問題であり、筋肉量が少ない人、体重が少ない人においては、注意して使用する必要がある。


ドイツ医師Otto Wernerにより「強皮症を伴う白内障症例」として1904年に初めて報告された常染色体劣性遺伝疾患であるWerner症候群(WS)という思春期以降さまざまな老化徴候が出現する早老症候群がある。
第8染色体短腕上に存在するRecQ型DNA/RNAヘリカーゼのホモ接合体変異により生ずる疾患で、100万人に1〜3人の割合といわれ、神奈川県内の一般住民1000人を対象にした検討では6人が体表的なWRNヘリカーゼ遺伝子変異をヘテロ接合体として保有していた。
ホモ接合体でなければ発症せず、世界の1500例の報告症例のうち810例が日本人で、我が国に多い早老症候群である。


http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/clin-cellbiol/werner/
主な兆候は
1. 早老性毛髪変化(白髪、禿頭など) 20歳ごろから
2. 白内障(両側) 30歳ごろから
3. 皮膚の委縮・硬化、難治性潰瘍形成
4. 軟部組織の石灰化(アキレス腱など)
5. 鳥様顔貌
6. 音声の異常(甲高いしわがれ声)
その他の徴候と所見
1. 糖・脂質代謝異常 30歳ごろから
2. 骨粗鬆症など
3. 非上皮性腫瘍または甲状腺癌 40歳ごろから
4. 血族結婚
5. 早期に現れる動脈硬化(狭心症、心筋梗塞など) 40歳ごろから
6. 原発性性腺機能低下
7. 低身長及び低体重
があり、 主要徴候の全て。もしくは3つ以上の主要徴候に加え、遺伝子変異を認めるものは確定診断となり、 主要徴候の1、2に加えて主要徴候やその他の徴候から2つ以上あるものが疑い例となる。
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/clin-cellbiol/werner/#container
メカニズムは不明であるが、アキレスけんの石灰化はWSの診断に有用である。奈良県立医科大学整形外科で手術を行った非WS患者228例456足の単純Xpではアキレス腱の石灰化は4足(0.88%)に過ぎず、全国のアンケート調査の回答ではWS患者の92例中70例(76.1%)に石灰化を認めており、有用な検査であるといえる。アキレスけんの石灰化のある患者さんがいたら、是非千葉大学にご紹介お願いします。

http://www.m.chiba-u.jp/class/clin-cellbiol/werner/pdf/guideline.pdf
ヘリカーゼの変異で内臓脂肪が委縮し、インスリン抵抗性、高インスリン血症をきたし、耐糖能障害、高血圧、脂質異常症をきたし、粥上動脈硬化症を発症する。
これらの異常に対して治療を行ってきた。
WSの平均寿命は、1996年では42.4歳だったのが、1997-2006年には51.8歳、2007年以降では54.8歳と延長してきている。スタチンやDPP-?阻害薬などの治療効果かもしれない。
実際WSではグルカゴンが高値であり、DPP-?阻害薬によるグルカゴンの低下が影響している可能性がある。

川村から横手先生への提案:内臓脂肪を減らすために『腹ペコトレ』を取り入れてやってみたいのですがご検討ください。
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