2014年7月15日 横浜市健康福祉総合センター
演題「日常診療における結核対策」
演者:慶應義塾大学医学部 感染制御センター准教授 長谷川直樹 先生
内容及び補足「
(遅れて参加したため、導入部は勝手に作りました)
明治時代から昭和20年代までは結核は「国民病」「亡国病」と恐れられていたが、国を挙げての対応で死亡率は往時の百分の一以下に低下してきた。現在も減少傾向にはあるものの平成24年一年間の新登録結核患者数は21283人であり、罹患率は16.7である。
新登録患者の半数以上は70歳以上(H20年48.9%→H24年55.6%)であり、結核患者の高齢化が進行しており、80歳以上患者が全体の3/1と高率である。(罹患率=人口10万対:H20 87.6→H21 88.3→H22 84.2→H23 85.6)が効率である。
都道府県別に罹患率を見ると、大阪27.1→東京21.7→沖縄21.2→徳島県21.1→・・・・北海道10.7→山形10.0→宮城9.9→福島9.9→長野9.5
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou03/dl/12sankou.pdf#page=1
諸外国に比べても数倍と高値である。
近年結核に抵抗力を持たない若い世代に増え、集団感染・院内感染が問題となってきている。どこで結核感染するかというと、事業所が圧倒的に多いが、無視できないのが、家族・友人といった生活の場での感染が20%近くあることである。医療従事者と指摘を付けなければいけないのは、病院等の医療機関での、患者さん受診の際の感染の拡大であり、社会福祉施設での集団感染である。
結核菌の感染したものの約10%が発症し、その半分は2年以内に発症する。
病型としては以下の2型に分けられる。
★初感染結核症
感染後1年以内に初期浸潤、肺門・縦隔や頚部のリンパ節炎、胸膜炎で発症する病型。
乳幼児では、粟粒結核や、髄膜炎などの重症型が多い。
HIV感染者や結核未感染の乳幼児〜若年者は結核に感染しやすく、発症しやすい。
★慢性結核症
感染1年以降に発症する結核病型。
両肺の上背部で潜在感染していた結核菌が再活性化して発症する。
上肺野中心の、空洞形成や散布影を伴う、浸潤影・結節影やびまん性粒状影を示す。
HIV感染、腎移植・透析、ステロイド・抗がん剤、免疫抑制剤投与、TNFα阻害療法、コントロールの悪い糖尿病、胃切除などが発症の危険因子になる。
咳・タン・微熱の2週間以上の持続で肺結核を疑う。
*結核感染の基礎知識*
結核菌を空気感染で吸い込むと、胸膜直下の初感染原発巣には、滲出性病変が形成される。
免疫成立前の比較的早い時期に結核菌を細胞内に含む一部のマクロファージは、リンパ行性に所属の肺門リンパ節に移行し、肺門リンパ節病変を形成する。これらを合わせて初期変化群と呼ぶ。
初期変化群の病巣は、一般に被包化、石灰化などの経過を経てよく治癒するため大部分の人は発病することなく一生を過ごす。
一部の菌はリンパ行性、あるいは血行性に肺尖部に達する。これらの部位でも、菌は宿主の細胞性免疫から逃れ、あるいは形態を変えることによって、perisister(存続生物)として生存し続ける。
初感染を受けた人の中に、肺の初感染原発巣、肺門リンパ節巣、またはその両者に、初感染に続いて進行性の病変が形成される。これを初期結核症(一時結核症)と呼ぶ。
肺門、縦隔リンパ節結核、頚部リンパ節結核はもちろん、胸膜炎も細胞性免疫の成立が不十分な時期におけるリンパ行性の進展である。
さらに、縦隔内の静脈角リンパ節から血行性に散布することにより、粟粒結核(早期蔓延)を生じ、肺の他に、骨髄、肝、腎、副腎、脾、中枢神経系などの諸臓器に病変が形成される。
通常は、感染後4〜8週間で結核菌成分による感作に対して免疫が成立する。そのため初感染成立後は、外来の際感染はきわめてまれであり、初感染後長い年月を経て発病する成人型の慢性結核症(二次結核症)も、基本的には潜在していた初感染由来の菌による既感染発病である。つまり、persisterとして残存していた結核菌が眠りから覚めて増殖をはじめた内因性再燃による病変が管内性に進展したものである。
通常肺尖部(S1、S2)ないしS6から進展することが多い。
宿主の免疫機能が正常であると、結核菌体蛋白を抗原とする遅延型過敏反応の結果、組織の陥落壊死が生じ、この乾酪物質が液化して、所属する気管支に排出されることにより空洞が形成される。
この開放性空洞内では、結核菌が非常に増殖しやすく、大量に排菌する状態になり易く、事故の健常組織や他人に対しての感染源となりえる。
肺内の活動性病巣から健常肺組織への進展は管内性(経気道性)に生じ、段階的に進展することからシューブ(Schub)とも呼ばれている。
肺では、一般的に背側上方から前下方、一側から体側へと広がる。
咽頭結核、気管・気管支結核、腸結核も管内性進展である。一方成人に見られる粟粒結核(晩期蔓延)は血行性に散布したものである。
初感染からすぐに発病する一時結核と、内因性再燃による二次結核の発生病理には本質的な際はなく、時間的な差である。
局所における菌量または毒力と宿主の細胞性免疫能とのバランスにより決まる。
BCG免疫は、この初期変化群形成後のリンパ行性、血行性の進展を阻止することによって、特に一次結核(胸膜炎、粟粒結核、髄膜炎など)の発病を阻止すると考えられている。
人の結核では、外来性再感染は稀であるが、菌の暴露量が多い場合や、HIV感染者のように宿主の免疫能低下が著しい場合には起こり得る。
結核病巣の形態学的な治癒過程には、消退、線維化、被包化、石灰化の四つがあり、通常はこの四形態が混じた形で治癒する。空洞の治癒としては、
*閉鎖性治癒:壊死物質が残ったまま誘導気管支が閉鎖して被包乾酪巣となったもの
*開放性治癒:壊死物質が完全に排除され、空洞壁が膠原線維のみとなったもの
*瘢痕性治癒:空洞が閉鎖して結合織の塊となったもの
しかしこれらの病巣は形態学的な変化であり、殺菌的治療が行われない限り、治癒病巣とされている病巣内部に結核菌はpershisterとして残存している。
参:空気感染(飛沫核感染)と飛沫感染
飛沫感染:患者の咳やクシャミ、あるいは気道の吸引などによって飛散する体液の粒子が他人の粘膜に付着することで感染が成立するもの
5μm以上の大きいものは2メートルほど飛ぶ。
麻疹、インフルエンザ、ジフテリア、風疹、コロナウイルスや多くの細菌性肺炎
飛沫核感染:飛沫として空気中に散布した病原体が、空気中で水分が蒸発して5μm以下の軽い飛沫核となってなおも病原性を持つもので、単体で長時間浮遊し、3フィート以上の長距離を移動する。呼吸により粒子を吸いこむことにより感染する。埃と一緒にウイルスを吸いこんでも発症する。
麻疹、水痘、結核が代表的とされてきたが、ノロウイルスやロタウイルスでもこの形態で感染が広がったと考えられる症例があるので注意すべきである。
http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/0702keiro.html
結核菌を検出する検査は大きく分けて
1. 塗抹検査
2. 培養検査
3. 遺伝子検査
に分けられる。
1. 塗抹検査:塗抹検査には直接塗抹法と、集菌塗抹法がある。
直接塗抹法は、喀痰の一部を直接スライドグラス上に塗抹し、染色して標本を作製し、顕微鏡で調べる検査である。
集菌塗抹法は、前処理として喀痰を溶解・均一化し、汚染物を除去して、抗酸菌のみを集めて種々の染色をし、顕微鏡で観察するよう法である。
両者ともに迅速に結果がわかるので便利であるが、喀痰1ml中に菌が5000〜10000個必要であること、結核菌と非結核菌の区別ができないこと、薬剤感受性ができないことが欠点である。
2. 培養検査。喀痰を集菌法と同じく前処理し、抗酸菌のみを選択的に培養する検査。前処理法NALC-NaOH法を以下に図示する。
前処理に1〜2時間かかる。培養陽性には10〜数百個/mlで検出可能であり、分離菌を用いて菌種の鑑別・同定や薬剤感受性検査を行うことができる点が利点であるが、結核菌の発育が遅いため1〜2か月時間が必要である点が欠点である。
小川培地に生えた結核菌と非結核性抗酸菌を図示する。
3. 遺伝子検査:喀痰を前処理し、結核菌のDNAを抽出して、増幅し結核菌を調べる検査で、培養検査よりも短時間で結果が出せ、抗酸菌の菌種まで同定できる。PCR法が用いられていたが、近年LAMP法も行えるようになった。検査の時間も数時間で結果が出るところにまで来た。
PCR法:ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)法の略。反応温度の上げ下げによる変性、プライマーのアニール、DNA鎖の伸長反応を利用してDNAの合成を繰り返し、DNAを増幅する技術。
LAMP法:Loop-mediated Isothermal Amplificationの略。わが国で開発された遺伝子増幅法である。標的遺伝子の6つの領域に対して4種類のプライマーを設定し、遺伝子、プライマー、鎖置換型DNA合成酵素、基質などを混合して、一定温度で反応させる。検出までの工程を1ステップで行うことができ、目的とする標的遺伝子の配列の有無を判定できる。
結核感染の検査としてはツベルクリン反応検査が確立されているが、このツ反で利用されるTuberculin Purified Protein Deribative(PPD)溶液にはBCGに含まれるたんぱく質と高い類似性を持つため、BCG接種歴のある人の多くはツ半検査が陽性に出るため、判定基準が下記のようになっている。
また、PPD液は結核以外の抗酸菌の抗原性とも類似性を持つため、非結核性抗酸菌感染でも陽性となる。
そこで開発されたのがinterferon-gamma release assay(IGRA)テストである。
http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1012_04.pdf
BCGには存在しない結核菌の特異抗原検査である。これには2つの方法があり、オーストリアのCellestis社が開発したQuantiFERON(QFT)とイギリスのOxford Immunotec社が開発したT-SPOTである。
これらの検査で問題となるのは感度特異度が高くても患者の数が少ないか多いかによって陽性的中率が異なってくる事である。
有病率が50%の場合に99%近くある陽性的中率は、有病率が1%になると50%未満となる。
参考:
治療法:基本的にはRFP+INH+PZA+(EB or SM)の4剤で2ヶ月治療後、RFP+INHで4か月。
またはRFP+INH+ (EB or SM)の3剤併用で2ヶ月治療後RFP+INHで7か月。
一部のニューキノロンに結核菌に対しても治療効果があるものがあり、多剤耐性菌に対して、投与が行われている。その中でフル悪露木の論は重要な薬剤として挙げられている。
http://www.kekkaku.gr.jp/ga/Vol.85(2010)/Vol85_No10/Vol85No10P757-760.pdf
参考HP
http://www.kekkaku.gr.jp/books-basic/index.html
http://www.otsuka.co.jp/health_illness/kekkaku/kekkaku01.html
http://www.jacr.or.jp/topics/08tuberculosis/02.html