2014年8月4日 Web講演会
演題「ロタウイルスワクチンの有用性」
演者:新潟大学医歯学総合病院 小児科助教 大石智洋先生
内容及び補足「
ロタウイルス:レオウイルス科のロタウイルスに分類。11分節の二重鎖RNAゲノムを有する直径約100nmの粒子です。
構造はコア、内殻、外殻の三層構造であり、内殻タンパク(VP6)の抗原性により A〜G群に分類されています。
A群はヒト、サル、ウマ、トリ、イヌ、ブタ、マウス
B群はヒト、ブタ、ウシ、ラット
C群はヒト、ブタ
D群はブタ、ウサギ、鳥類
E群はブタ
FおよびG群は鳥類を宿主とする
日本では、「G1」、「G2」、「G3」、「G4」、「G9」という5つの型が多くみられ、年度により流行する株種が異なります。
症状:24〜72時間の潜伏期間があり、嘔吐(1日3〜6回:1〜2日で収まる)で始まり、発熱(半日〜2日で解熱)、腹痛、下痢(白色水様性下痢、しばしば5〜7日持続)が始まります。
生後6か月〜2歳の乳幼児が多く発症(ロタウイルス感染症の2/3が2歳未満)し、母親が子供から感染することは多いけれど、症状は軽く、数日で治癒します。
患者さんの便1g中に10(10個程度で人に感染)〜100億個ものウイルスが排出。
通常の環境下で、ウイルスは安定しているので(長生きしている)、汚染された、水や食物を介して、または汚染されたものの表面(ドアノブやトイレのスイッチなど)を触った手から人の口に入って感染します。
5歳までの急性胃腸炎の入院患者の40〜50%はロタウイルスが原因。
年長になるに従い、症状のない不顕性感染となる頻度が増えてくる。
日本の患者推計では、年間80万人ぐらい発症し、15〜43人に1人(26500〜7800人ほど)が入院している。
世界的には年間70〜100万人の乳幼児がロタウイルスに感染し、生後5年以内にほとんどすべての小児がロタウイルスに感染します。
発展途上国では、十分な予防やワクチン接種が困難であることや、衛生状態のよくないこと、水分補給や点滴などの加療が適切に受けづらいことなどから、200人に1人死亡し、年間約66万人の小児死亡の直接原因になっているとされています。
合併症として、痙攣、肝機能障害、急性腎不全、脳症、心筋炎、髄膜炎、ライ症候群、ギラン・バレー症候群、出血性ショック脳症症候群などがあり、けいれんは難治性で、38%の症例に後遺症が残ったという報告もある。
意識の低下やけいれんなどの症状が出現した際には、速やかに近くの医療機関を受診しましょう。
治療薬はないため、ワクチンによる予防が主となります。
下痢止めは重篤化することもあり、使用しません。治療のメインは脱水症状の改善であり、スポーツドリンクやOS1などでの水分補給や点滴による治療になります
ロタウイルス胃腸炎は初回感染の症状が重篤であり、二回目以降症状が軽くなることから、二回目、三回目に感染する子供の数が減少すること、感染後の抗体価が高くなることなどからワクチンの有用性が高いと考えられている。
実際単価ワクチンであるロタリックスで、G1とG9のウイルスが流行している状況下で、重症下痢症の85%、すべてのロタウイルス性下痢症に対して72%有効であったとの報告がある。
ロタテックにおいても重症胃腸炎で98%、入院95.8%、頸症例を含む外来受診86.0%の抑制効果があるとされている。
ワクチン接種の問題点は、
? 米国で発売されていたRota Shieldで11000人に1人の頻度で腸重責を起こす疑いが出たため(発病症例は生後3か月から7か月であり、それよりも早く、初回投与を生後0〜4週、二回目を4〜8週に投与すれば、腸重積の危険を回避できる!?)、市場から撤収されたことで、ロタリックスやロタテックで同じ副作用が出た場合に、販売が中止になる可能性があること。
? 弱毒ワクチンであるため、充分量が腸管内で増殖し、しかもある一定量以上にならないうちに抵抗力がつく必要があること。
? G1〜G4でカバーできていた時代が終わり、G9、G8,G5が問題となってきていること。
? 発展途上国や最貧国においてのワクチンのテイク率を挙げなければいけないこと。
などがある。
感染予防のためには、嘔吐物の処理の際には、マスク、手袋をすることが重要であるが、
マスクをしても、隙間があるために、マスクの内側に、ティッシュペーパーを折りたたんだものを入れ、息を吸うときに口や鼻に吸い付くようにしておくとより防御効果が高くなる。使用後は、反対に折りたたんで、一回きりの使用で廃棄しましょう。
消毒に関しては、ノロウイルスも同じでアルコール消毒の効果がなく、次亜塩素酸で消毒しましょう。キッチンハイターなどの消毒液を薄めて使用しましょう。
【参考:簡易なハイター等の薄め方】(市販の漂白剤:塩素濃度約5%の場合)
0.02%・・・環境消毒に使用:家庭や施設において、発生時にトイレのドアノブや手すりなど、多くの人が触れる場所の消毒に使用
0.1%・・・おう吐物・ふん便が付着した場合の処理に使用
(注)次亜塩素酸ナトリウムは金属を腐食させるため、金属部分に使用した場合は10分程度たったら水拭きしてください。また、塩素ガスが発生することがあるので、使用時は十分に換気をしてください。
希釈方法
0.02%(200ppm) 2リットルのペットボトル1本の水に10ml:(原液をペットボトルのキャップ2杯)
0.1%(1000ppm) 500mlのペットボトル1本の水に10ml:(原液をペットボトルのキャップ2杯)
嘔吐した際には口の中にもウイルスがいるため、嘔気がある間は口を付けたお箸は自分のお皿周りだけにして、取り橋を使って、大皿から食べ物を取るようにしましょう。
うがいのコップも使う前、使った後に口を付けたところをこすって洗いましょう。
水様便の時には、トイレの水面でウイルスがはねてお尻中に跳ね返って、ウイルスが付着している可能性があるので、お尻を拭く方の手の衣服がお尻につかないように、袖まくりをして拭き、肘から先を洗うようにしましょう。便やおう吐物をトイレで流す際には、便器のふたをして流しましょう。
米インターネットニュースMail Onlineによるとイギリス リーズ大学Mark Wilcox教授の研究結果ではトイレのふたを閉めずに水を流した場合の微生物の飛距離と滞空時間は最大飛距離26?、滞空時間90分であったとしています。
http://www.dailymail.co.uk/health/article-2081680/How-leaving-toilet-lid-flushing-aid-spread-winter-vomiting-bug.html
流すボタンを押す前にしっかり手を洗いましょう。
お風呂に関しても、水様便の間は、湯船につかるのは避ける方が無難です(または、最後に入って、お湯を捨てる)。水様便でなくなっても、必ず、湯船につかる前には、お尻を良くお湯で流してから入るように気をつけましょう。