読売onlineで減塩の対応法を掲載した際に頂いたコメントに対して、後程、塩のコメントを書きますとHPで表示させていただきました。
そのまとめの文章が出来上がりましたので、掲載します。ご興味のある方は、ご一読ください。
塩の種類
塩にはイオン交換樹脂膜電気透析法により化学的に作られた生成塩と天然塩そして再生塩に分けられます。
天然塩は海水を干して塩にした天日塩、天日塩を平釜で煮詰めて作る平釜塩、自然界に塩の塊である岩塩・湖塩(塩分濃度が濃い湖水を蒸発させて結晶化させたもの)、天日塩をミネラルの豊富な地下水で溶かしたり、にがりを添加したりして再生した再生塩があります。
塩の産生量
世界中で一年間に産生される塩は、約1億8000万トンです。そのうち海水から作られる塩分は約1/4で残りは岩塩・湖塩が多く、欧米では海水塩のほうが高級で『Sea salt』と表示されているものもあります。
2003年には2億1000万トンの塩が産生され、アメリカ、中国、ドイツ、インド、カナダで約半分を占めています。
海水に含まれている代表的な成分の味と性質を示したものが下図です。
生成塩はすぐに水に溶けますが、海水塩には、これらの成分が存在するので、水に溶かすと、いったん薄く白濁したのちに透明になります。水に溶けにくいカルシウム分が白濁の原因になります。
(
http://shio-ya.com/general_salt/index.htmlより)
語源
サラダの語源はラテン語のSal(塩)で、ヨーロッパでは、古くから生野菜西をかけて食べる習慣があり、本来サラダは塩で調理したものという意味だったそうです。
サラリー(Salary)の語源について説が、二つあり、一つは有名な、
塩が給与として兵士に支払われていたので手当全般をSalariumといったという説で、もう一つは、
塩の貯蔵施設を奪ったり、ローマに続く塩の道を守るための軍事行動に対する給与をSalariumといったという説があります。
兵士といういみのSoldierもSal dare(塩を与えること)という説と、Gold Solidus(ローマ時代の金貨であるソリドゥス)が兵士の給与を支払うのに使われていたためという説があります。
塩の歴史:
動物の内臓を食べていた時代には、内臓や血液、骨髄に塩が多く含まれていたので、塩としてとる必要はありませんでしたが、農耕が発達し、米などの穀物や野菜をもに食べるようになってから、塩として塩分の摂取が必要になったようで、縄文時代の終わりごろから日本でも塩の製造や交換が行われるようになったといわれています。
海草を焼いて残った灰に混ざっている塩を使う方法から、6〜7世紀になると干した海草に海水をかけ「かん水」といわれる濃い塩水を作る「採鹹(さいかん)」という段階と、かん水を煮詰めて塩にする「煎熬(せんごう)」という段階を経て、脱水、塩にする方法がとられるようになりました。
8世紀になると海草の代わりに塩分が付着した砂を利用してかん水を取る方法である「塩地」にかわり、煎熬も土器から焼いた貝殻、灰、土を塩水で練って作った土釜が使われるようになりました。
9世紀になると採鹹の方法は塩浜に変わり、干満の差が大きい内海や河口を利用した「入浜式」の塩浜と広い土地がない場所では人力で海水をくみ上げる「揚浜式」の塩浜が発達しました。
明治政府は税収確保(日露戦争)のため、1905年に塩の専売制を実施し、その目的は、海外から低価格な岩塩が輸入されるようになると、国内の製塩業の保護・育成・安定供給が主な目的に変わりましたが、1997年までこの専売制は続きました。
この塩は動物においても必要で、草食動物は岩塩や塩湖のあるところに塩舐め場ができ、動物が集まるようになりました。その一つとして、バッファローが集まっていた塩舐め場がニューヨーク州のバッファローという地名になったといわれています。
オオカミも塩と使って飼いならすことに成功して、犬という人間の忠実なパートナー的な動物種になったといわれています。
野生動物や人間が塩を必要かといえば、進化の過程で海洋時代の名残だと考えられています。
生命を維持するためには、身体の各臓器に必要な物質を運び、不要となった代謝産物を運び去って外界へ排出する必要があります。その役割を担っているのが体液や血液であり、その液量を維持したり、物質が溶けたりする機能を理解するためには浸透圧という概念が重要です。
http://square.umin.ac.jp/optical/komajo/%89%F0%96U%90%B6%97%9D%8Aw/%82V%91%CC%89t%81E%91%E3%8E%D3%81E%91%CC%89%B7.pdf
浸透圧を主に作り出すものの量の調節により、血液の圧が調節されるのです。サメなどでは尿素が浸透圧の主な部分を占めていますが、多くの陸生動物の場合にはナトリウムが担っています
陸に上がってしまうと簡単には塩を摂取することが困難となるため、塩分をできるだけ有効活用できる機能を構築した動物種が生存に有利になり、その機構を進化したものが生き延びたと考えられています。
人の場合においては、レニン・アンジオテンシン系というホルモン系が、塩の調節の中心的な働きをしています。
このレニン・アンジオテンシン系の機能亢進が高血圧を引き起こしているため、この系を抑える薬剤が近年降圧薬の主流として使用量が増加しています。ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体阻害薬、直接的レニン阻害薬、抗アルドステロン薬などがあります。
自分のホームページの循環器系 2014年8月11日掲載の『心疾患治療におけるRAASの重要性 瀬在明 先生』や2014年8月5日掲載の『新しいRAA系の話 石上友章准教授』に最近のレニン・アンジオテンシン系の情報を載せていますので、ご興味のある方は一度覗いてみてください。
http://www.kawamuranaika.jp/blog/jyunkanki/
ナトリウムの働きとしては
? 神経の刺激を伝達する
? 筋肉の男性を維持する
? 消化液や分泌液のpH調節機能
? 浸透圧や生体機能を調節する
という機能に分けることができます。
先ほど見てきたように、塩分を体に残す機構が発達することで人類は進化してきたのですから、塩分が足りない状況は、身体にとって非常によくない状況です。
『熱中症の予防として、水分補給だけでなく、塩分(ナトリウム)もしっかり補いましょう』と、近年いろいろなところで言われるようになってきています。
その際には、スポーツドリンクが手軽で、推奨されています。
各飲料会社から、様々なスポーツ飲料が出されていますが、それらの金属イオン比較を見てみましょう。
http://www.kawasaki-m.ac.jp/soc/mw/journal/jp/2008-j18-1/43_takemasa.pdf
すべてのナトリウムが食塩由来だと考えるとナトリウム(?)×(23+35.5)/23≒塩(?)の関係式が成り立つので
ポカリスウェットやアミンバリューでは49?/Lの表示となっていますので
ナトリウム490?×(23+35.5)/23=塩1246?
したがって、1リットルスポーツドリンクを飲むと1.2g相当の塩分を取ったことになります。
通常の生活では、これらの機能が働くため、ナトリウム不足になることはありません。つまり、通常の汗をかいた場合には、腎臓で水分と塩分の排泄量が調節されるので、塩分不足となることはありません。
したがって、水分補給をスポーツドリンクで行っていた場合には、塩分過剰になる場合も見られます。
特に高血圧の方は、ナトリウム過敏性があるので普通の人並みの塩分摂取でも血圧が上昇しやすいので、スポーツドリンクを飲む際には、水で半分に割るか、水とスポーツドリンクを交互に飲まれることをお勧めします。
急激に多量の汗をかいて、腎臓が対応できない場合であったり、食事がとれない状況が続く場合や急性の下痢や嘔吐がひどい場合などには、低ナトリウム血症が生じ、吐き気、脱力感、筋肉のけいれんなどの症状がみられるようになり、より重篤になってくると、錯乱、こん睡、全身のけいれんが生じ、危険な状況になることも稀ですがあります。
この際には、上記スポーツドリンクのナトリウムの量では足りない状況となります。
そういった場合には、大塚製薬から出されているOS1(オーエスワン)がおすすめです。
スポーツドリンクに比較して、含まれる
塩分量は、約二倍の量です。
http://www.os-1.jp/lineup/
塩分の過剰摂取が引き起こす疾患・病態としてよく知られているのが高血圧です。そのほかには、狭心症や心不全の増悪、脳出血を主とした脳血管障害(脳梗塞の場合には、血圧の他の要素も関与してくる)、胃癌が挙げられます。
まずは血圧からみていきましょう。
チンパンジーを用いた実験で食塩摂取を20か月かけて15g/日まで漸増するとコントロール群に比べて収縮期血圧/拡張地期血圧が平均で33/10 mmHg上昇することが報告されている。(Denton DらNature Med 1:1009-10116, 1995)
しかし、ヒトにおいて、塩分のみを変化させた食事を続けることは困難であり、研究によって減塩と血圧値の変化については、様々な結果となって報告されている。
疫学調査のデーターをいくつか見てみよう。
食塩摂取が低い集団においては、高血圧者の頻度は少なく、加齢に伴う血圧上昇も見られないことが知られている。その代表例が南米のYanomamo Indianで彼らの通常の食生活をしているときの一日の尿へのNa排泄量は1mmolに過ぎず、40歳代の男性の平均血圧は107/67 mmHg、で女性は98/62 mmHgに過ぎない。
32か国52地域集団の24時間蓄尿による食塩摂取量の推定と血圧測定を行った結果を下の図に示す。塩分の摂取量と集団の平均血圧には強い正の相関がある。
(川崎晃一:食塩摂取と高血圧。高血圧の病態と治療、丸善、東京、7-36ページ,1985)
1966年にミネソタ大学で行われたセミナーで世界各国の塩分摂取量と年齢と平均血圧の相関図を下に示す。塩分摂取量の少ない集団においては、加齢に伴う血圧の上昇がほとんど見られていないことがわかる。
良く引用されるアメリカのフラミンガム研究の非高血圧者の血圧レベルによる疾患発症率をみてみると、より低い値の者のほうが心血管系の発症率が低いことがわかる。
日本においても同様のことが久山町研究において示された。
脳血管障害の発症だけでなく、死亡率においても差が出てくることが示されている。
それでは、減塩により血圧は低下するのでしょうか?
降圧薬1剤のみを飲んでいる収縮期血圧145 mmHg未満、拡張期血圧85 mmHg未満の60〜80歳の老年者高家鬱圧患者975名を対象に、585名の肥満者には減塩、減量、および減塩+減量を、390名の非肥満者には減塩を指導し、通常の管理をしている人を対象にその有用性を検討した研究がある。生活指導開始後に降圧薬の中止を試み、中止成功例のうち、喜寿ウンチ以上の高血圧の出現があったか降圧薬治療が必要であった場合、あるいは心血管合併症が発症した(血圧の薬が再度必要になったか病気が出てきた)場合をエンドポイントとした研究である。減塩は一日排泄Na量4.5gを目標としそれを維持した。
降圧薬中止が可能であった症例は、対照群で86.8%、減塩群、減量群、減塩+減量群は92.6〜93.3%であった。指導開始から投薬中止までの血圧低下は、対照群の−0.8/−0.8mmHgにたいして減塩群−3.4/−1.9mmHg、減量群−4.0/−1.1mmHg、減塩+減量群−5.3/−3.4mmHgと指導群においてより大きな血圧低下が認められ、下図に示すようにイベントの発生頻度も大きく、減塩+減量においてより大きな効果が得られた。
(WheltonらJAMA 279:839-846,1998)
それでは胃癌においてはどうでしょうか?
国立がんセンターのHPに10年間追跡調査における塩分摂取量を5群に分けた集団からの胃癌の発生状況が掲載されている。
男性においては摂取量と正の相関があり、女性においては最も多い群において胃癌の発生率の上昇がみられている(本当は群に分けての比較でなく、絶対量での関係を見る必要がある)。
減塩をすると胃癌の発生頻度が異なるかどうかも重要である。厚生労働省の資料で55年と63年のデーター比較が載っていた。
減塩を行っても胃癌の死亡率に変化がない地方もあるし、増えている地域もなくはないが、多くの地域において減少していることがうかがえる。
http://www.geocities.jp/t_hashimotoodawara/salt6/salt6-03-12.html
胃癌の他に、鼻咽頭がん、食道癌も増加するというデータもあります。
減塩をどのように行えばよいかいろいろな人がいろいろな工夫をされています。
まずは、食品の塩分量を認識することが最初の一歩になります。
調味料の塩分量を下記に示します。
薄口醤油は、色が薄いためについている名前で、塩分は濃い口醤油よりも多いことを忘れないでください。
調味料の塩分量を減らす工夫として、カリウムやマグネシウム、カルシウムを少し混ぜる方法や、お酢やダシを上手に使うといった工夫もありますし。
はなまるマーケット2013年2月8日で紹介された佐久式減塩調味料は、だし:しょう油:酢=5:3:2の割合で混ぜるもので、豆腐や焼き魚、おひたしなどによく合うそうです。しかも冷蔵庫などで、1週間大丈夫だそうです。
http://tukurepo100.blog118.fc2.com/blog-entry-9346.html
すしのネタを下にして食べるという工夫もあります。
減塩しょうゆを使っても醤油の付ける量が増えてしまえば元も子もありません。
そういう方は
スプレーしょうゆを使ってみてはいかがでしょうか?
個々の素材の味を楽しむために一口サイズを小さくし、一口ごとにお箸をおいて、今食べているものを見つめて食べることをしていただけると、塩や醤油、ドレッシングなどもいらなくなりますよ。
実際自分が今まで濃い味が大好きで醤油をつけまくっていたり、サラダにドレッシングをたっぷりとかけていたりしたのですが、最近はドレッシングを一切わずに、サラダもおいしく食べられています。
食品の塩分が多いものをいくつかあげます。外食の際に何を食べようかと悩むのであれば、塩分が少ないものを選ぶといった方法もあります。
http://home.c06.itscom.net/maruko/08foods/enbun/enbunhayawakari.html
ゆっくり味わって食べるようになってみると、濃い味のものが、以前は美味しく感じていましたが、最近では食べるのがつらくなってきました。慣れるのにはかなり時間がかかるといわれていますが、食べ方や、価値観の意識を変えることができれば、我慢せずに、変わった自分がいましたので、是非、数倍高い食材を食べているのだと自分の脳みそをだますことを絶えず意識して食事をする(思考実験をする)ことを試してみてください。
味の相互作用
甘いものに食塩を少し加えると甘みが引き立つことがわかっていました。実際に砂糖を溶かした際に食塩をどのくらい添加した場合が最も甘みを強く感じるかを、1976年に浜島さんが調べた実験があります。単純にお汁粉との砂糖の濃度が20%とすると、最も甘みを強く感じさせるには食塩を0.15%加えた場合です。甘みを引き出す塩が入っている200mlの汁粉を飲んだ際には、0.3gの塩分が入っていることになります。
http://www.saltscience.or.jp/symposium/4-hatae.pdf
血圧が高い方は、減塩を心がけていて、塩っぱいものを食べるときには膝窩息を付けている方でも、甘いものを食べるときにはつい気が緩んでいる人もいらっしゃいます。いろいろな甘い食品に塩が入っていることが少なくないので、注意しましょう。
その他に料理における塩の効果があります。
料理における塩の効果をまとめてみましょう。
? 塩味をつける
(ア) 塩味の味付け:一度つけすぎると直し難いので、自分の中の基準を付けておくとよいでしょう。塩をして少し時間を置くと肉質を感じされるようになります。
? 味の相互作用(甘みを引き立てる、苦みを減らす)
(ア) 先ほど見たように、程よい量だと砂糖の甘みを引き立てます。
(イ) 酢の酸っぱさを和らげます
(ウ) 苦さを和らげます
? 蛋白質への作用
(ア) 蛋白質の熱凝固の促進:魚や肉を焼く前に塩をしておくと表面が固まり、身くずれしにくくなります。ゆで卵の際の殻が割れても卵白が流れ出にくくなります。
(イ) 蛋白質の溶解作用(弾力維持作用):かまぼこや魚のすりに身を作るときに溶かします。熱を加えると蛋白質を固めますが、3%以下の薄い塩分濃度で熱を加えないと独特の粘りのある弾力を作ることができるのです。
(ウ) グルテンの形成促進作用:小麦粉蛋白のグルテンに作用し、強い粘りを作り出すので、パンのもっちり感やうどんなどの麺類の腰を強くする作用があります。
? 色出し効果と変色防止作用
(ア) 色出し効果:塩は緑色を出しているクロロフィルを安定させ発色させるので青野菜を色よく鮮やかにゆで揚げることができます。ただし茹でたら冷水にさらして色止めをしないと色あせします。
(イ) 変色防止作用:リンゴや桃の皮を剥いた時に塩水につけることにより変色が防止されます。
? 脱水、防腐、発酵調整作用
(ア) 脱水効果:キュウリモミや塩漬け
(イ) 防腐効果:肉や魚を一定以上に塩分濃度に調節すると脱水効果が強くなり、微生物の繁殖を抑制し、防腐効果が出てきます。たらこ、塩から、塩鮭、干し魚、干し肉などがあります。
(ウ) 発酵調整作用:味噌、醤油、チーズなどの発酵食品では、塩の効果で、発酵酵母の好塩微生物の活動を活発になるように、その他の有害微生物の繁殖を抑える働きがあります。
http://ameblo.jp/yamarai/entry-10586593693.html#main
http://ameblo.jp/yamarai/entry-10587488262.html
http://ameblo.jp/yamarai/theme-10057325985.html
日本高血圧学会も、積極的に減塩に取り組むための支援情報をホームページに掲載しています。ご興味のある方や、減塩が必要な方は、ぜひ一度目を通してみてください。
参考HP
https://www.jpnsh.jp/general_salt.html
http://altertrade.jp/guerande/basics
http://humgen.lab.nig.ac.jp/inoueColumn_02.php