2014年9月10日 横浜市健康福祉総合センター
演題「成人肺炎球菌ワクチンの最新の話題 〜小児ワクチン接種が及ぼす影響と定期接種導入〜」
演者:埼玉医科大学呼吸器内科 金澤實教授
内容及び補足「
2012年には脳血管障害を抜いて肺炎の死亡率が第三位になってしまった。
10万人対で99人となっており、試算では2030年には194人に、2055年には305人に急増することが推察されている。
厚生労働省が健康日本21(第2次)の中心課題として『健康寿命の延伸』を挙げている。
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/21_2nd/pdf/4_2_1.pdf
その?番目として『高齢者の肺炎予防の推進』が挙げられておりその具体的な対応として
? 齢者への誤嚥性肺炎を予防するため、介護予防の取り組みとも連携した口腔ケアを推進する。
? 高齢者に対する成人用肺炎球菌ワクチンの接種を推進する。
ことが挙げられている。
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401250-Hokenkyoku-Iryouhitekiseikataisakusuishinshitsu/0000019923.pdf
この経済効果として8兆円の医療費が削減されると試算されている。
日本呼吸器学会も2014年1月に『ストップ肺炎キャンペーン』を開始し、その内容の一部を修正したものを3月にホームページで公開している。
https://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=63
一般用パンフレット
http://fa.jrs.or.jp/guidelines/stop-haien_general_02.pdf
とともに医療用パンフレットも作成されている。
http://fa.jrs.or.jp/guidelines/stop-haien_medical_02.pdf
主な内容はインフルエンザと23価肺炎球菌ワクチン接種、栄養管理と摂食への配慮、口腔ケアと肺炎予防、タバコについてである。
コクランライブラリイー2013年の記載では、ワクチンの予防効果は0.26(74%の減少効果)、ワクチンでカバーされている感染の予防効果は0.13(87%の減少効果)であるとされている。原因が肺炎球菌と確定している成人の敗血症や髄膜炎などの侵襲性肺炎球菌感染症(Invasive Pneumococcal Disease:IPD)では12のトライアルの結果予防効果は0.26(74%の減少率)であるとされている。
実際日本のデータで、65歳以上の786例の人でインフルエンザワクチン接種のみの392名と、インフルエンザワクチンとニューモバックスを接種した394名の2群間の2年間の観察比較において、すべての群では有意さを認めなかったが、75歳以上の群では41.5%、歩行困難患者においては62.7%の頻度で肺炎による入院を有意に減少させた。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X10011199
Nursing Homesで23価の肺炎球菌ワクチンを接種した502名と生食を打った504名での研究では、肺炎球菌肺炎は14名(2.8%)対37名(7.3%)と有意差を持って肺炎球菌ワクチン接種が肺炎球菌肺炎の発症及び死亡に関して有効であった。
http://www.bmj.com/content/340/bmj.c1004
ただしこの23価のワクチンは蛋白質を抗原としていないので、B細胞のみに作用し、メモリーT細胞を誘導できないため、2歳以下では免疫原性が低く、脾臓を提出している人においては、有効性は低く、5年程の経過で抗体価が低下してくるため、再接種が必要となる点である。
小児においては、蛋白質を人工的に結合させたプレベナー7が使用され、2011年からは13種類の型に増えたプレベナー13が使用されるようになった。ニュウモバックスとは異なり、メモリーT細胞を誘導できるので、肺炎球菌の定着を阻止し、集団免疫効果が期待できる。
プレベナー13の接種状況は、2011年では40〜60%、2012年では80〜90%の子供において接種されていると推計されている。
そして2014年6月から成人へも適応が拡大された。
IPD症例の年齢分布を見てみると1歳前後と60-70歳代に多いのがわかる。
小児由来の肺炎球菌株の分布と高齢者由来の肺炎球菌株の分布が異なることが下の図からわかる。プレベナー13でカバーしている6Aが23PPVには含まれていない。
http://www.sochinf.cl/sitio/templates/sochinf2008/documentos/reduccionsostenidadeenfermedadneumococica.pdf
米国においてプレベナー(PCV)7が使われ始める前後のIPD患者さんの年齢別頻度を示す。
導入年度から5歳以下のグループでIPD患者の数が顕著に減少し始めている。65歳未満のグループでは、大きな変化はないが、65歳以上のグループでは、徐々にIPD発症者数が減少してきている。
5歳未満のグループと65歳以上のグループにおいてPCV7でカバーされている菌株と19Aと、それ以外の菌株で変化を分けてプロットしてみるとある事実に気が付く。
5歳未満の小児への予防接種の結果、5歳未満のグループでのPCV7カバー株が著減する。その効果が65歳以上のグループに影響して、65歳以上のグループでも徐々に減少してくる。
小児においては19Aの上昇が徐々に見られ、それ以外の菌株には著変がないが、65歳以上のグループにおいては、徐々にPCV7でカバーできていない菌の感染の症例数が増加しているのがわかる。
肺炎球菌感染症の成立を考えてみると、保菌者の咳やくしゃみで空気中に飛沫した肺炎球菌を吸い込み、その菌が鼻咽頭粘膜に定着し、増殖をする。それらの菌を誤嚥した際に肺炎になり、血管の中に入った際に敗血症となるのである。
イスラエルの研究であるが6歳未満の小児の鼻咽頭粘膜への肺炎球菌の定着率は404例中53%であったのに対し18歳以上の成人においては1300例中3.7%と大きな差がある。
小児においては、保育所に言っている症例、兄弟がいる症例、抗菌薬が使われていない症例においては高率に保菌していることが判明した。
この事実から類推すると、乳幼児において肺炎球菌が50-70%の割合で鼻咽頭粘膜に定着し、菌が増殖し、発症した症例の飛沫感染により成人が菌を貰い受け、一部の人は発症し、3-5%の人の鼻咽頭粘膜に定着することが想定される。
PCV7を小児に打つことにより、1998年から1999年では10万人対24.3人いたIPDの患者が2001年には17.3人に減少した。
この現象は1-2歳児で顕著であった。
小児の減少効果とともにほかの年代でもIPDの減少が確認された。
より顕著に減少した年齢層は、65歳以上であった。
どういった菌株の変化があったかというとPCV7でカバーされたものが著減し、影響のない菌株においては変化を認めなかった。
つまり幼児にワクチンを広く行うことにより、その菌株が減少し、高齢者のIPD発症が抑制されルこと、その際に、ワクチンがカバーした菌株は著減し、それ以外の菌株による感染の危険が残存すること:セロタイプリプレイスメントが起こることがわかった。
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa022823
小児から検出されている肺炎球菌でPCV7がカバーできると考えられる菌株の頻度は、2010年で73.3%、2011年で54.8%、2012年で14.7%とワクチン接種の広まりとともに、変化している。
成人から検出された肺炎球菌の最近のデータでみてみると、PCV7でカバーできるのは16.7%、PCV13でカバーできるのは48.0%、ニューモバックス(PPV23)でカバーできるのは69.6%とかなりの差がみられる。
PCV13で半数近くカバーできるので、今年、来年あたりはPCV13での肺炎球菌予防効果は期待できるが、乳幼児へのPCV13のワクチン接種がきちんと行われると、PCV13の有効菌株がより減少するセロタイプリプレイスメントはもっと変化していくため、ワクチンの予防効果としては、プレベナーよりは劣るが、カバーできる菌種がより多いPPV23の予防効果の方がより大きいことが理論上推察される。そのこともあり、今回高齢者の肺炎球菌ワクチン補助の対象からPCV13は除外されることになった。
肺炎球菌ワクチンの医療費削減効果としては、小児においては29億円、成人においては5115億円と試算されている。単純に考えると、IPDの予防率から考えて小児においての医療費削減効果がより大きいと思われるが、現実においては、肺炎球菌感染症による小児での死亡率は1.4%、遺残後遺症を認める頻度が2.7%であるのに対して、成人においては、死亡率が19.9%、遺残後遺症を認める頻度が7.8%と圧倒的に成人において、重症例が多いことがこの数字の差になっている。
IPD発症予防、肺炎球菌感染症減少、医療費削減のために肺炎球菌ワクチン接種を広げてください。