2014年9月12日 ハイアット リージェンシー 東京
演題「糖尿病患者における冠動脈硬化の特性と二次予防」
演者:日本医科大学医学部内科学系循環器内科学分野 廣 高史准教授
内容及び補足「
冠動脈の断面図を見てみると、内側から内膜、内弾性板、中膜、外弾性板、外膜の5層構造となっている。
冠動脈と脳動脈には血管の構造に違いがあり、冠動脈は内弾性板のところどころに穴が開いていて非連続性であり、このため、中膜の平滑筋細胞が遊走してきて内膜に侵入しやすい。脳動脈は内弾性板に穴がなく連続性であり、脳血流関門が機能しやすくなっている。
その他に、冠動脈では中膜が著明に発達し、血管の活発な収縮・弛緩に関与している。脳動脈では中膜、外膜は薄く、外弾性板とともにほとんど見られない。
http://www.miyake-naika.or.jp/05_health/doumyakukouka/kandoumyaku_puraku.html
血管内皮が障害され、LDL粒子が血管内膜に入り込み、酸化・糖化などの修飾がおこる。それとともに、単球が血管内皮に接着し、内皮化に入り込み、マクロファージとなり、修飾されたLDL粒子を取り込み、泡沫細胞へと分化していく。その泡沫化した細胞が集簇して動脈硬化巣が形成される。内弾性板の隙間から中膜の平滑筋細胞が集まってきて、増殖しより動脈硬化巣が肥厚してゆく。
http://nv-med.mtpro.jp/jcoron/pdf/20111702/127.pdf
そうして出来上がった粥状硬化巣は以下のような断面となる。
糖尿病患者と非糖尿病患者に分けて、動脈硬化巣の断面を検討したものがある。糖尿病患者と非糖尿病患者では動脈硬化巣の面積中に占める動脈硬化巣の面積比率(percent atheroma volume)は有意に糖尿病患者で大きいが、血管内腔を含めた断面積(lumen volume)には、有意な差を認めていない。通常、粥状硬化:プラークが形成されると、血管系が大きくなるリモデリングが生じるが、糖尿病患者ではそうした変化が見られないようである。
http://content.onlinejacc.org/article.aspx?articleID=1139058
動脈硬化巣のリピッドコアは糖尿病があるとより厚くなっていた。
特にリピッドコアの面積が0.28mm2以上の症例は糖尿病患者が多かった。
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/123456789/31985/2/c200500533.pdf
血管内エコー(intravascular ultrasound; IVUS)を用いて組織性状を診断することができるようになってきた。組織像で青い部分がfibrofattyな部分で、緑の部分が脂質コアの部分であり、黄色の部分がFibrousな部分である。カラーIVUSも次々と市販され、より良いものへと変化してきている。
IVUSと冠動脈造影を用いて血管壁に沿った冠動脈内のシェアストレスの三次元カラー表示法をKramsらが提唱した(Arterioscler Thromb Vasc Biol 1997; 17: 2061-2065)。
しかしこの方法では計算に膨大な時間がかかるので、新しい技術が開発された。
この方法は多くの過程を用いて計算しているため、シェアストレスの絶対値について考えることには問題があるが、分布や相対値については、大きな誤差はないので、定性的な評価として考えると有用な情報がもたらされる。
破たんした冠動脈プラークのある血管の内腔形状においては、カラー表示により、シェアストレスや壁伸展血圧が局所的に高くなっている部位を限局的に表示できる。つまり、プラークの破たん部位を予測する有用な手段となりえる可能性を示唆していると考える。
http://nv-med.mtpro.jp/jcoron/pdf/20101601/68.pdf
近年ではGrey scale IVUSやcolor IVUSから3D画像を構築して、血管の中を及ぶように画像を表現したり、プラーク内の脂質コアの分布を立体的に表示できるようになってきた。
ただし、見栄えはよいが定量的な評価ができない点が問題点でもある。
下図は、急性心筋梗塞発症数日後、自然に血栓が溶解した後に観察したプラーク破綻部の血管内エコー所見である。
Circulation 2000;101:E114- E115
プラークからのエコー信号のウエーブレット解析によって脂質コアを同定することができる。
有限要素法を用いた構造力学シュミレーションプログラムを用いて仮想血管モデルにおけるプラークの形状や組織成分を様々に変化させてプラーク内のストレス集中への影響を検討した。
仮想血管モデルについては、プラークの形状がひずんでいる箇所や、狭窄率の低いプラーク、また陽性リモデリングを呈している所や線維性被膜が菲薄化しているところ、ならびに脂質コアが存在しているところのプラークの表面にストレスが集中しやすいことが判明した。
http://coebrain.w3.kanazawa-u.ac.jp/symposium/PDF%20file/summary_pdf/17hiro.pdf
冠動脈分岐部では、曲がる外側にプラークができる。この部分にズリ応力が働き血管内皮が変化し、いろいろなサイトカインを文ピルするためと考えられるが、高血圧や脂質異常症の場合と異なり、糖尿病症例においては、外側だけでなく内側にも、いたるところにプラークが出現する。
スタチンによる脂質低下療法により、冠動脈疾患のイベントが減ることが確認された。
幾つかの臨床研究からLDLコレステロールの管理値と心血管イベントの発生頻度に強い相関がみられることが判明した。
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa050461
以前から糖尿病があること自体が、心筋梗塞発症のリスクとしては、心筋梗塞の既往がある状況と同じことが良く知られていた。
NEJM 339:229-234,1998
日本人のAcute coronary syndromeの患者さんでリバロ(Pitabastatin)とリピトール(Atorbastatin)の投与でプラークの変化を見た試験がある(the Japan-ACS Trial)。
両者で治療効果に有意な差は認めず、LDLコレステロールはリバロで130.9mg/dlから81.1mg/dlに、リピトールでは133.8mg/dlから84.1mg/dlと良好に低下し、プラーク容積はリバロで-18.1%、リピトールで-17.5%の退縮率であった。
性、糖尿病の罹患率、総コレステロールレベルで補正しても、有意な差は認めなかった。
http://content.onlinejacc.org/article.aspx?articleid=1139894
この対象群の変化を別の見方で解析しなおしてみると、糖尿病の有る無しで、LDLコレステロールの変化には変わりがないが、プラークの退縮率で差が認められた。糖尿病症例においては、プラークの退縮率が悪い結果がでたのである。
しかも、LDLコレステロール値のレベルとプラークの退縮率の相関を見てみると、非糖尿病群では、有意な相関はなく、糖尿病症例において相関を認める結果となった。
このことは、非糖尿病患者においては、スタチン製剤の投与自体が意味があり、糖尿病患者においては、スタチンの投与により、LDLコレステロールがきちんと低下することが意味があるという解釈になる。
しかもHBA1cが7%以上の症例においてLDLコレステロールレベルとプラーク退縮率に相関があり、血糖コントロールの悪い患者においては、LDLコレステロールをしっかり下げる必要があるということになる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/74/6/74_CJ-09-0766/_pdf
幾つかの臨床研究のLDLコレステロール値とプラークの退縮率を比較してみると、安定型冠動脈疾患よりも、また、欧米人よりも日本人のほうがスタチンによるプラーク退縮効果が強いことが示唆される。
PP-?阻害薬はGLP-1を介して機能して、高血糖、脂質異常、高血圧を改善し動脈硬化信仰の抑制作用とGLP-1を介さない直接血管内皮機能を改善し、マクロファージの泡沫化を抑制し、平滑筋の遊走を抑制する効果とがあると考えられる。
Angiology Frontier Vol.12 No.1, 39-44, 2013