2015年3月4日 東京ステーションコンファレンス サピアタワー
演題「ワクチン接種に必要な基礎知識」
演者:帝京大学医学部付属溝口病院小児科 渡辺 博 先生
内容及び補足「
ワクチンの効果
アメリカで1980年以前に認可・推奨されたワクチンが予防する感染症による罹患数、死亡数の比較を見てみると下図のように、ジフテリア、麻痺性ポリオ、天然痘は、数万人いた患者数が2006年にはゼロになり、死亡数で見れば上記疾患に加え麻疹、おたふくかぜ、風疹、先天性風疹症候群も、2004年時点で死亡数がゼロになっている。
破傷風やおたふくかぜは患者数が10分の1以下に、死亡数でも100分の1以下に低下している、百日咳は依然として患者数は多いものの10分の1以下に減少しており死亡数も200分の1以下に低下しており、予防接種は非常に意義のあるものであることがわかる。
アメリカで1980年から2005年に認可・推奨されたワクチンが予防する感染症による罹患数、死亡数の比較を見てみると、侵襲性肺炎球菌感染症を除き、10分の1以下に減少している。
侵襲性肺炎球菌感染症の減少率は低いが、患者数は2万例死亡数でも2000人以上の減少を認めている。
Hibワクチンが開始される前と後で、米国の細菌性髄膜炎患者数は、1〜23ヵ月齢児で顕著に減少しており、2〜18歳でも有意に減少しており、その多くがヘモフィルスインフルエンザ菌bによる髄膜炎の減少と考えられている。
イスラエルの五歳未満小児の血清型別侵襲性肺炎球菌感染症の罹患率変化を見てみると、PCV7の定期接種化前に比べPCV7でカバーされる菌株(左の図)は顕著に減少し、PCV13に変更されても、変化は乏しい。
しかし、PCV13に変更後はPCV7ではカバーされないがPCV13でカバーされる菌株(真ん中の図)はPCV13導入後顕著に減少している。
一方、PCV13でもカバーできない菌株は徐々に増加してきている。
アメリカにおいて、PCV7定期接種導入前後の、年齢別平均肺炎入院率の変化を見てみると、定期接種開始以前の青い線からオレンジ、緑と年代が変化するにしたがって、2歳未満児の感染が減少しているばかりでなく、ワクチン接種をしていない75歳以上の高齢者、特に85歳以上の高齢者の肺炎入院率の低下が大きく、肺炎球菌ワクチン接種には、集団免疫効果があることが推察される。
ワクチンの二つの効果として
? 個人防衛効果:接種を受けた本人が感染から守られる。
? 集団免疫効果(Herd Immunity):
◆接種を受けた人から排泄されるワクチン株病原体が周囲の人に入り込み、ワクチン接種と同等の効果を発揮する(経口生ワクチン)。
◆接種率が上昇すると感染症の流行が沈静化する。
ワクチンは生ワクチンと不活化ワクチンに分けられる。
1 生ワクチン(感染して働くワクチン):人に対する病原体が弱い牛などの他の動物の病原体を利用するもの。
ヒトの病原体を他の動物細胞中で継代培養すると人に対しての病原性が低下する。
2 不活化ワクチン(感染なしで働くワクチン):病原体の成分を使用。
日本で使用されているワクチンで生ワクチンはBCG、麻疹・風疹、水痘、おたふくかぜ、ロタウイルスのみで、それ以外は不活化ワクチンである。
生ワクチンは体内で増殖し、軽い全身の感染症を起こすが、不活化ワクチンは注射局所に留まる。
ワクチンの違いにより、摂取方法や副作用が異なる。病原性は生ワクチンの方が強いので接種回数は2回でよく、一回目接種後より効果が出てくるが、不活化ワクチンは複数回の摂取が必要であり、効果が出てくるのには、2日目接種後以降である。
生ワクチンは長期の免疫効果が得られるが、不活化ワクチンの場合には6か月後以降の追加接種が必要である。
免疫応答は抗原の種類や量によって異なり、多価抗原は樹状細胞により多くの抗原が提示され、B細胞レセプター集積の増加が起こり、ヘルパーT細胞との共存時間が増加し、免疫効果の持続は長期となるが、破傷風トキソイドのように単価抗原の場合にはB細胞レセプターの集積がなく、ヘルパーT細胞との共存時間が短く、免疫効果の持続は中期〜長期に留まる。
ニューモバックスのように多価非蛋白抗原の場合にはヘルパーT細胞との相互作用がなく、免疫記憶が生じないため、免疫効果の持続は短期間となる。
不活化ワクチンの接種間隔
不活化ワクチンの場合には、複数回のワクチン接種が必要となるが、初回免疫と2回目の間隔は、免疫応答の強さを考えると4週間以上あける必要があり、追加免疫との間隔は6ヶ月以上が望ましい。
感染が流行しているような状況下では、短期間に免疫応答が生じる必要があるため、初回との間隔はDPT-IPVワクチンでは3週間、日本脳炎ワクチンでは1週間、追加免疫との間隔は最低4か月としているのが現状である。
もし間違って、短期間で摂取した場合には、接種のやり直しをする必要がある。
スケジュール通りの間隔よりも間が空いた場合には、気が付いた時点から通常通りのスケジュール間隔で接種を再開する。
疾患の発生状況や衛生状態が異なるため、ワクチンの接種開始時期や間隔は国によって異なっている。
日本においてのワクチン接種開始月齢・年齢は以下のようになっている。
ワクチンの接種場所と効果・副反応
ワクチンの種類や国によってうつ場所は異なっている。
生ワクチンを接種した場合には、感染が成立した状況となる。
したがって、接種後ウイルスが生成し、本来の感染臓器に移動するため、非下でも筋肉内でも接種は良いが、感染効率の高い場所が良いため、通常は皮下が選ばれる。
腸管内や鼻腔内に接種した場合には、粘膜免疫が誘導される。粘膜免疫が誘導された場合には粘膜から感染する病原体の感染防御にも有効であり、筋肉内注射や皮下注射では得られない効果が得られる。
不活化ワクチンの場合には、接種された場所で免疫応答が起こる。
皮下は血流が乏しく、食細胞や樹状細胞は少なく、リンパ球やマクロファージが届きにくいため、抗原処理効率が悪く免疫反応効率は悪いが、貯留傾向があるため、異物としての刺激が持続するため、局所反応が強く出やすい。
幾つかの報告があるがいずれも、筋肉内接種に比べ皮下接種の方で局所反応が強い。
アメリカでのワクチンの接種部位を見てみると、3歳児以降に上腕に接種する頻度が増えている。
三角筋に接種する場合には、安全に摂取するために解剖学的な知識を念頭において行う必要がある。
HPVワクチン接種の3回目に肩峰下関節包内に接種したために強い滑液胞炎を起こした症例報告がある。
ワクチンの同時接種
乳児期の予防接種スケジュール過密である。
同時接種を行うことは、接種率を著明にあげることができ、同時に接種したワクチンにより免疫原性が強くなる可能性がある。
大部分のワクチンを同時に接種しても安全で効果にも問題はなかった。
しかし、MMRVワクチンの初回接種は、MMRワクチンと水痘ワクチンを同時に接種した時よりも別々に接種したほうが、発熱と熱性けいれんの頻度が少なかった。
CSL社製のインフルエンザワクチンとプレベナー13の同時接種後にけいれん発作を起こす危険性が高くなることが報告されているが、他の社のインフルエンザワクチンでは問題はない。
同時接種のする場合、注射器と接種部位は別々にしなければならない。局所反応を鑑別するために少なくとも2.5?以上は離して接種すべきである。
不活化ワクチンとヒト免疫グロブリン製剤を同時に接種する場合は、別々の解剖学的部位に接種するべきである。
岡部信彦監訳:最新感染症ガイドR-Book 2012:33-34
最近100年間のワクチンに含まれる抗原蛋白と多糖体の数の一覧を下記に上げる。
以前に比べて、アジュバンドの開発が進んだこともあり、抗弁蛋白と多糖体の数が少なくなっていることがわかる。
ワクチンスケジュールの過密化、ワクチン同時接種経験の蓄積により、同時接種を行うアメリカの開業医>研修医師数が増加している。
アメリカにおいては、同時接種の回数の推奨数を徐々に増やしている。
その効果もあって、同時接種する医師数ばかりでなく、本数も増加してきている。
同時接種を躊躇する理由としては以下のものがあるので、十分な情報を親に提供する必要がある。