2015年3月5日 クイーンズタワーB棟
演題「憩室出血の予防対策 〜ゴボウ茶の有効性の検討〜」
演者:けいゆう病院 水城 啓 先生
演題「大腸憩室出血に対する内視鏡治療 〜クリップ方からEBLへ〜」
演者:聖路加国際病院 消化器内科 石井 直樹 先生
内容及び補足「
両講演の内容のうち大腸憩室出血に関する内容をまとめました。
憩室は腸管の内壁の一部が外側に向かって袋状に飛び出したもので、内視鏡で観察した際には、窪みのように見える。
腸壁そのものが飛び出す真性憩室と腸壁の隙間から腸粘膜が飛び出す仮性憩室の二種類があり、そのほとんどが後者の仮性憩室である。
腸管内圧の上昇に伴い、大腸壁の筋肉層の弱い部分から粘膜が脱出して憩室が生じると考えられている。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM200001133420202
大腸憩室症の治療が必要な病態の一つに大腸憩室出血がある。
欧米ではS状結腸憩室が多いのに比較して、日本では異なっており、以前は70%近くが右側結腸であったが、近年はS状結腸が増加してきており、右側型50-60%、左側型15%、両側に認めるものが20-35%と報告されている。
http://www.coloproctology.gr.jp/topics/2009/02/12/post-19.php
大腸憩室出血の症状
突然出血することが多く、腹痛や下痢を伴わない。
憩室の中にある血管の破たんにより出血する。
多くは、高齢者、アスピリンなどの抗血栓薬服用者、鎮痛薬の頻回の使用、高血圧、動脈硬化などが誘因となる。
大腸憩室出血の出血量は様々で、重篤な出血の頻度は3〜5%で、70〜80%は自然に止血する。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem/33/3/33_523/_pdf
大阪市立大学で、下部消化管出血を認め緊急大腸鏡検査を行った内訳は、虚血性大腸炎:29.8%、大腸癌:14.1%、大腸憩室出血11.6%であり、出血部位としては上行結腸56%、横行結腸22%、S状結腸22%であった。
http://www.nmckk.jp/pdf.php?mode=magsample&category=CLGA&vol=24&no=8
2000年にDennisらにより、憩室出血に対して大腸鏡止血術が有効であることが示された。
彼らは、憩室からの出血源としてActive bleeding、nonbleeding visible vessel、an adherent clotと定義して、大腸憩室出血例の内視鏡的治療や手術療法が必要であった症例の検討を行った。
治療効果及び副作用の状況は以下の表で示されている。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM200001133420202
欧米では、大腸憩室症の合併症の10〜30%が憩室出血であり、そのうち35〜50%は大量出血で輸血が必要であり、出血例の20〜35%が手術対象になっている。
1985年の日本の報告では、憩室からの顕性出血は4%であり、そのうち輸血が必要なものは7%に過ぎないと報告されている(Jpn J Med 24 ; 39−43 : 1985)。
近年は、心血管疾患の増加に伴い抗血栓薬の使用頻度が増加するに伴い、憩室出血例は増加しており、内視鏡的治療や緊急手術が行われている。
緊急内視鏡による止血術が積極的に行われているが、出血部位が同定されないと止血ができない点が問題である。
広島市立市民病院で2005年1月科r2009年3月までに大腸憩室出血と診断し入院加療をした95例の後ろ向きで、造影CT後の大腸鏡検査と、大腸鏡検査のみの症例を検討した報告がある。
患者背景は以下のとおりで大きな差はなかった。
下部消化管内視鏡検査(CS)は、先端に透明フードを装着して試行し、出血部位に対してはクリップ法で止血治療を行っている。
出血憩室部位の診断に関しては、造影CT検査で血管外露出像を推測し、
CSでは、憩室からの活動性出血、憩室内の露出血管やびらんの所見で診断している。
CT先行群ではCS単独群に比べ、上行結腸が多く、活動性出血が少ない傾向があった
CT先行群で出血部位の同定ができ、内視鏡的クリップ止血が可能だった症例は32例中31例(96.9%)であったのに対して、造影CT検査で血管外露出像が描出できなかった28例では、出血憩室の同定は13例(46.4%)にとどまり、CS単独群での出血部位同定率51.4%と比較して有意差は認めなかった。
内視鏡的治療を可能にするためには、出血早期に造影CT検査で出血部位を推定することが重要となる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/108/2/108_2_223/_pdf
参:バリウム注入による止血
Adamsらは1970年に高濃度バリウムを中朝造影検査のように行って充填し止血したと報告した(Auch Surg 101 457-460;1970)。
近年大田原赤十字病院で5例のバリウム充填注腸法による止血の報告もある。
重篤な出血に対して行われる治療法として、
HSE(エピネフリン加高張ナトリウム液)を局注し、憩室開口部を隙間なくClipping法、IVR、手術療法がおこなわれている。
Clipping縫縮法は、出血血管をクリップで挟み止血する直達方法と、憩室を閉じるようにクリップをかける縫縮法がある。
後ろ向きの検討であるが、けいゆう病院では、再出血や塞栓症、外科手術移行例はHSEとクリップの併用例が多かった。当然止血困難症例であったために、併用療法となった可能性が高い。
聖路加病院で2009年6月から2012年10月までの間にendoscopic band ligation(EBL)を68例に行った。
早期再出血は9病変(14%)、晩期再出血は9病変(14%)であった。
EBL施行例では再出血率は29%であり、既報の38%に比べ長期経過は良好であることが示唆された。
http://archive.jsge.org/congress/detail/69812
参:亀田総合病院のEBL施行例の報告
2015年2月13日-14日に開催された第11回日本消化管学術集会で報告された亀田総合病院の2004年1月から2014年7月に大腸憩室出血で入院となった129症例中、出血源を同定し内視鏡的止血術を施行した76例の検討結果でも、EBL法(演者の石井直樹先生の導入した方法)20例とクリップ法を比較した際、30日以内再出血率はEBL群0%、クリップ群44.6%(P<0.001)、止血後在院日数の中央値はそれぞれ7日、10日(P=0.006)とクリップ法よりも止血効果が高い安全な止血術で得ある結果であった。
問題点はEBL法を実施する際に、一度内視鏡を抜去し、バンドを到着して再挿入する必要があるため、施術時間が長時間に及ぶ点であり、今後の検討課題であると演者の山内先生は述べていた。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201502/540844.html
現在まだ入手できていませんが、下記のような書籍での石井先生が分担された書籍があります。
『大腸憩室出血においてEndoscopic band ligation(EBL)はクリップ法の弱点を克服できる』
http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/201302254708176474