知っておきたい凝固メカニズム  根岸 耕二先生
2015-07-30 08:39
川村内科診療所
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2015年7月24日 ホテル横浜キャメロットジャパン
演題「10分でわかる!知っておきたい凝固メカニズム −教科書には載っていなかったヒトの体内で起きている凝固反応−」
演者: 横浜市立市民病院 循環器内科部長 根岸 耕二 先生
内容及び補足「
本日の内容は北海道医療大学歯学部 内科学分野教授 家子正裕先生の受け売りです。
健康人においての外傷などで出血した場合に止血目的で形成される血栓を正常止血血栓と呼び、血栓・塞栓症などの病的血栓と区別される。
まず、血管破たん部位の内皮下にvon Willebrand因子を介して血小板が付着結合することにより血小板が活性化される。
活性化された血小板から放出されたADP(adenosine diphosphate)などにより、近傍の血小板が活性化され、凝集塊が形成され、血小板血栓、一次血栓、白色血栓と呼ばれる。
同時に障害された、血管内皮細胞に発現した組織因子(tissue factor:TF)によって凝固反応が活性化され、最終的にトロンビンが生成される。
形成トロンビン量が膨大になると、フィブリノゲンから可溶性フィブリンが形成される。
可溶性フィブリンは活性化凝固第??因子(??a因子)により架橋され安定化フィブリンとなり、互いに重合してフィブリンネットを形成する。
フィブリンネットは赤血球など血球を取り込んでより堅固なフィブリン血栓を形成し、二次血栓、赤色血栓と呼ばれる。
凝固反応で形成されたトロンビンは血小板を活性化し、活性化血小板の膜表面には陰性荷電を持ったリン脂質が発現して、凝固反応の場を提供する。
血小板活性化と凝固反応はお互いに協力し合い、急速にフィブリン血栓を形成し、血餅退縮、血餅収縮により、より強固な血栓となる。
やがて、線維素溶解(線溶)反応により、フィブリン血栓は招待する。フィブリン上で、plasminogenがtissue-plasminogen activator (tPA)によってplasminに変換される。
フィブリンはplasminによりfibrin degradation products(FDP)やD dimerに分解され、
体外に排出される。


生体内で生じている凝固反応をHoffmanらが提唱した細胞性凝固反応を用いて説明する。
物理的・化学的凝固刺激が血管内皮細胞や単球に与えられると、細胞膜表面にTFが発現する。
凝固開始期:
TFに血流中の?a因子が結合し凝固反応が開始される。
極めて微量の?a因子が産生され、次いで極めて少量のトロンビン(初期トロンビンinitial thrombin)が産生される。
凝固増幅期:
初期トロンビンは、近傍の血小板および凝固因子を活性化する。
活性化血小板の膜表面の陰性荷電リン脂質上で、?aなどの活性化された内因系凝固因子が集合しTenase(?ase)を形成する。
?aseにより?因子から?a因子が産生される。1分子の?a因子より46分子の?a因子が形成される。
?a因子は、活性化血小板膜表面の陰性化全リン脂質上でCa2+を介して、?a因子とプロトロンビナーゼ複合体(prothrombinase complex)を形成する。
この複合体により、プロトロンビンからトロンビンが産生される。
1分子の?aより138分子のトロンビンが産生される。プロトロンビナーゼ複合体を形成することにより、free ?a因子の10万〜20万倍の速度でトロンビンを産生できることになる。
このトロンビンは再び近傍の血小板や凝固因子を活性化し、?a因子の産生、次いでトロンビン産生(凝固増大期)が繰り返される。
膨大なトロンビンが形成されると、フィブリノゲンからフィブリンが形成される。
フィブリン形成には、血小板や凝固因子の活性化に要求されるトロンビン濃度の数百倍のトロンビンが必要である。
トロンビンは、血小板や凝固因子を活性化するのみならず、トロンボモジュリン(thrombomodulin:TM)と結合することにより、凝固制御作用、線溶抑制作用、炎症抑制作用をしめす。

家子正裕:NOACの薬理、血管医学 14;133-141,2013
正常止血血栓形成の場合にはこの秒子反応を制御する生理的インヒビターが作動して、病的血栓となるのを防いでいる。
アンチトロンビン(antithrombin:AT)は血管内皮細胞上のヘパラン硫酸やヘパリンを補酵素として、トロンビン、?a因子、さらには?a、??a、??a因子を阻害する。
また産生されたトロンビンは血管内皮細胞や単球膜表面に発現するTMと結合することにより、凝固活性を失い、トロンビン-TM複合体はプロテインCを活性化し、活性化プロテインChaプロテインSを補酵素として?a及び?a因子を不活化することにより、凝固反応にnegative feedbackをかける。
ヘパラン硫酸上には組織因子経路インヒビター(tissue factor pathway inhibitor:TFPI)も結合しておりTFPIは?a因子と結合することにより、TF-?a複合体を阻害する。


トロンビンの生理作用は多彩であり、まとめると、
トロンビン単体では、凝固促進、炎症促進、線溶促進に働く。
トロンビンは、血管新生、細胞増殖に寄与し、TMとの複合体は抗腫瘍作用、アポトーシス抑制にも関与する。
非常に多彩な作用を有するトロンビンを長期に完全に阻害することは問題を生じる可能性が高い。
トロンボモジュリンと結合した複合体を形成すると、トロンビンはほぼ反対の作用を示し、抗凝固、抗炎症、抗線溶の性格を有するようになる。少量のトロンビンは凝固、線溶、炎症ノバランサーといえる。

抗凝固療法の目的は、血栓形成を引き起こす過剰なトロンビンの産生を抑制することである。
直接トロンビン阻害薬(DTI)では、産生されたトロンビンを直接阻害する。
一方、ワルファリンや?a阻害薬は、トロンビンの材料となる凝固因子や活性化凝固因子を抑制することで、間接的にトロンビンの産生を抑制する。

DTIはトロンビンの活性部位に結合する化合物で、半減期は短く血中濃度にピークとトラフが存在する。
ピーク時にはトロンビンは完全に阻害されるが、トラフ時には生理的に必要なトロンビンは体内に残り、必要な生理的作用を行うことができon-off現象を示す。
このon-off現象があるので、NOACは脳出血という副作用が少ないといえる。

NOACの場合は、決められたタイミングで飲まないと、抗凝固活性が消失するし、より多く飲みすぎると、このon-off現象がなくなるため、安全性のメリットがなくなってしまうので、きちんと飲んでもらうことが必要である。

参考:Clinician 2013、624;1032-1037
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