2016年3月16日
演題「スパイスアレルギーについて」
演者: 神奈川県立こども医療センターアレルギー科 田中 裕 先生
内容及び補足「
スパイスSpices:香辛料とは調味料の一種で、植物から採取され、調理の際に香りや辛味、色をだすものの総称である。食事をおいしくしたり、食欲を増進させたりする。香料として食品に添加されるものも多数ある。
ハーブ(Herb):一般的に料理の香り付けや保存料、薬、香料、防虫などに利用されたり、香りに鎮静・興奮などの作用がある有用植物で、緑の葉を持つ草、茎のやわらかい植物などを指すことが多い。
フェヌグリークというスパイスアレルギー症例を経験した。
フェヌグリークはハーブ・香辛料の一種で豆亜科の一年草植物で、地中海地方原産で古くから中近東、アフリカ、インドで栽培され、日本には享保年間に持ち込まれたが農作物として栽培されることはなかった。
全草を牧草とするほか、種子をスパイスとしてカレー粉などに用いたり、もやし(スプラウト)としても利用されており、アフガニスタンではデザートとして種子を入れた甘い粥を作ったり、イエメンでは種子を水に浸してズーグという調味料を作っている。種子から抽出されたエキスは、タバコのフレーバーやイミテーションのメープルシロップの添加香料などに使われる。
ヨーロッパでは古くから口腔病、胃腸障害の薬草として広く使われ、漢方では補腎や強壮、健胃によいとされている。2011年動物実験では、フェヌグリークが脂肪蓄積抑制や血中コレステロール低下に関与することが報告された。
http://ci.nii.ac.jp/naid/10031143672
本症例においては卵、牛乳、ピーナッツにもアレルギーがあり、緩徐免疫療法を行っていたためか、幼少時においてはわずかな量の摂取で、血圧低下する状況に位なったエピソードがあったが、思春期になった時点で試験暴露を行った際には1280?まで反応が出なかった。緩徐免疫療法により反応が出にくくなっていた可能性が考えられる。
食物アレルギー:
我が国の有病率は乳児で5〜10%、幼児で約5%、学童期以降が1.5〜3%と考えられている。
臨床型として以下のように分類されている。
臨床症状としては以下のようなものがみられる。
即時型食物アレルギーの主要原因食物は鶏卵、牛乳、小麦である。
年齢別にその頻度は異なり、学童期では甲殻類、果物類が増加してくる。
http://www.foodallergy.jp/manual2014.pdf
スパイスアレルギー:
10000人4-13人の頻度といており、女性に多いといわれている。
小児の報告は少ない。ペッパーやサフラン、ディルシードなどの報告もあり、
花粉―食物アレルギー症候群(pollen-food allergy syndrome:PFASまたはPFS)として発症する量例も少なくない。
セロリに対するアレルギーがある人は多く、生だけでなく料理したものに対してもアレルギー反応を示すことが少なくなく、スパイスに対してもアレルギーがると考えられる。セロリに反応する人はmugwort(ヨモギ)や幾つかのスパイスにも交差反応するため、"celery-mugwort-spice-syndrome"と呼ばれている。1985年の報告では、35人のセロリアレルギーの人の85%が女性であった。ぷリックテストで88.6%、RAST検査では66%が陽性であった。
交叉反応は人参、パセリ、アニス(セリ科の一年草。中近東地方原産。高さ約60センチメートル。種子を薬用・香味料とするため,栽培される。)、フェネル(香辛料の一。茴香(ういきよう)の種子を乾燥させたもの。ほろ苦さと樟脳(しようのう)に似た香りが特徴。魚料理や中国料理・キャンディーなどに用いる)、キャラウェー(セリ科の一,二年草。ヨーロッパ原産。種子を香辛料・香料に,またウイキョウの代用品として健胃・駆風薬などに用いる。ヒメウイキョウ。)にも見られ、人参は約半分の人に見られ、臨床的に見逃してはいけない点である。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3983587
花粉―食物アレルギー症候群:PFAS
口腔アレルギー症候群の中で感作アレルゲンが花粉の場合をいう。
口腔症状が主で、感作花粉の飛散時期に発症・症状の増悪を認め、原因食物を繰り返し摂取することにより症状が重篤化し、アナフィラキシーショックとなることもある。
食物アレルギーは消化管で消化吸収されて感作が成立してアレルギー症状が誘発されるクラス1と感作の成立したアレルゲンとは別の食べ物で、アレルゲンの交差性により症状が誘発されるクラス2に分けられている。
交差性を有するアレルゲンとして植物生体防御蛋白質であるPR-10があり、白樺花粉の主要アレルゲンであるBetv1およびブナ目花粉の主要アレルゲンはいずれもPR-10で強い交差性が認められている。
生体防御蛋白質:defense-related protein
食物が病原菌の感染や障害、化学物質や金属、大気汚染物質や紫外線などの様々なストレスを受けた際に、自身の身を守るために誘導されるたんぱく質を生体防御蛋白質と呼ばれ、由来する食物に関係なく、アミノ酸配列の相動性や血清学的・免疫学的な相関性、酵素活性の特徴に基づいて、17のファミリーに分類されている。
これらの生体防御蛋白質は、抗カビ活性や害虫防除活性を有することから、遺伝子組み換えによる抵抗性作物の創出など、植物育種への応用面で高い関心を集めている蛋白質源でもある。しかし、近年、果物や野菜、花粉、天然ゴムラテックスなどに含まれる交差反応性アレルゲンが、これらの生体防御に関与するたんぱく質群であることがわかってきたため、遺伝子組み換えにより口腔アレルギー症候群などのアレルギー疾患の誘発原因となる蛋白質が農作物中に多数存在する可能性が出てきたため、遺伝子組み換え手法を用いて作られた農作物においては、アレルギー誘発性を含めた安全性が始原中に検討・評価されることになってきた。
http://dmd.nihs.go.jp/latex/defense.html
口腔アレルギー症候群:新鮮な野菜や果物を食べても、口腔・咽頭部に痛みやかゆみなどを生じる病態で、花粉症の人に多く認められる
http://odevivi.com/allergy/alerugy/info/a-7d.htm
食物アレルギーの治療法として経口免疫療法がある。
経口免疫療法:緩徐経口免疫療法と急速経口免疫療法、段階式急速経口免疫療法がある。
緩徐免疫療法(slow oral immunotherapy:slow OIT)
まず負荷試験で症状が出現する閾値を決定し、その1/4〜1/2量を外来で負荷、その後は週2回以上自宅で同量を負荷し、1〜2か月ごとに外来で1.5〜2倍に増量(例えば、卵焼きで卵1/2〜1個、牛乳100〜200mL、小麦:うどん100〜200gを摂取)することを目標とする方法。最終量(規定量)をどう設定するかは、6歳以下であれば卵1/2個、牛乳100mL、うどん100gあるいはトースト6枚切り1/2枚で、6歳を超えた場合はおおむねその倍量とする。
卵焼きは良く焼くか焼いた後に10分間蒸す方法をとっている。牛乳の場合はヨーグルトを代わりに用いることもある。
自宅での負荷回数は週に2〜3回を原則とするが、毎日摂取しても構わない。毎日摂取すると増量スピードや耐性獲得率は上がるものの、誘発症状が出やすく、週末のアレルギー症状の対応に苦慮することもあり、週3回程度として、週末は摂取しないという方法を取っている。
牛乳に関しての成績は不良で、slow OITは適切とは思えない。
急速経口免疫療法(rush OIT)
花粉やダニの休息減感作療法を、2009年に栗原らが食物アレルギー用に応用・開発したもので、数日間で一気に負荷量を増やす方法である。まず負荷試験での閾値の1/10量から開始し、1.2〜2倍ずつ、1日に2〜5回増量する。
増量幅を大きくすれば誘発症状が必至であるが、入院期間を短縮できるメリットがある。負荷増量を連日行い規定量となったら退院。さらに自宅で週3回以上、その量で負荷を継続する。この方法では、自宅で規定量を負荷し続けることで、誘発症状も多い。自宅での対応を十分理解できるまで、教育し緊急時に医療機関にすぐ区搬送できる患者の診にこの方法が推奨される。
段階式急速経口免疫療法(stepwise OIT)
急速法と同様に入院して負荷試験を行い、閾値の1/10量から1日4回、1回1.2倍で増量し、強いアレルギー症状が発現すればそのひとつ前の量で維持に入る。維持に入れば自宅で維持量を連日摂取し、また2〜3か月後に入院して増量する。これを繰り返すことで規定量に増量することができる。
例えば閾値が極めて微量で増量が困難な症例では、3〜5回ほどに分けて入院で増量し、1〜2年で規定量まで到達できる。
http://www.nakayamashoten.co.jp/bookss/define/pdf/978-4-521-73532-0.pdf
食物依存性運動誘発アナフィラキシー
最近注目されている食物アレルギーとして「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」がある。
原因となる食物後2時間以内に一定量の運動(昼休みの遊び、体育や部活動など患者によってさまざま)をすることによりアナフィラキシー症状を起こす状態。
原因食物としては小麦、甲殻類が多い。
頻度は2006年の調査では、小・中・高校生1万人に1人程度とされている。
発症した場合には、じんましんからはじまり、高頻度で呼吸困難やショック症状のような重篤な症状に至るので注意が必要。
原因食物の摂取と運動の組み合わせで発症し、食べただけや運動しただけでは症状は起きない場合が多い。多くの場合食事摂取後2時間以内に発症。
アスピリン製剤の使用により誘発されやすくなる。小麦の原因抗原はω-グリアジン・高分子量グルテニンであることがわかっている。
肥満細胞からヒスタミンが放出され、気管支の収縮による呼吸困難、血管透過性亢進による血管外への体液の漏出によるむくみや血圧の低下が起こる。
男女比は4:1で男性に多く発症頻度は0.0085%というデータがある。
発症に関する要因
運動:負荷量、酒類、食後の間隔、入浴
食物アレルゲン:量、種類、組合せ、
全身状態:疲労、寝不足、感冒
気象条件:気温(高温、寒冷)、湿度(高い)
自律神経系:ストレス
薬剤:NSAIDs(特にアスピリン)、アルコール
家族性
月経:女性ホルモン
分娩
花粉:野菜、果物
化粧品:加水分解小麦含有
原因食物n=149
小麦:62%、甲殻類28%、ソバ3%、魚2%、フルーツ1%、牛乳1%
発症時の運動n=143
球技38%、ランニング28%、歩行17%、自転車3%、水泳3%、ゴルフ3%
中には食後の入浴や、新種後に発症したり、運動後の食事摂取で発症した例もある。
生活指導:
1. 運動前に原因食物を摂取しない。
2. 原因食物を摂取した場合には、食後最低に時間は運動を避ける。
3. 皮膚の違和感や蕁麻疹など前駆症状が出現した段階で、運動を直ちに中止して休息する。
4. ヒスタミンH1受容体拮抗薬、ステロイド薬、アドレナリン自己注射器を携帯する。
5. 感冒薬や解熱鎮痛薬を内服した場合は運動を避ける。
参:
食物アレルギー診療ガイドライン2012ダイジェスト版
食物アレルギーの診療の手引き2014
食物アレルギーとは:日本ハム