脊髄小脳変性症 山口滋紀 先生
2016-11-21 14:42
川村内科診療所
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2016年11月02日 
演題「脊髄小脳変性症
演者: 横浜市立市民病院神経内科部長 山口 滋紀先生
場所:神奈川県総合医療会館
内容及び補足「
概念:歩行時のふらつきや手の震え、呂律が回らないなどの小脳性運動失調(動かすことはできるが、上手に動かすことができない)を主症状とし、病理学的に小脳あるいはその連絡路に主座を持つ原因不明の変性疾患の総称。
有病率は10万人当たり5〜10人。
遺伝性と孤発性に分けられる。
病変部位によって小脳求心路障害と遠心路障害に分けられる。
小脳は大脳の後下方、脳幹の後ろ側に位置する臓器である。

脊髄小脳変性症は以下のように分類される。

https://medicalnote.jp/contents/160428-002-EJ

小脳性運動失調:
歩行障害:歩行時のふらつき、転倒が多くなる。
四肢失調:手足を思い通りに動かせない。(箸を使えない、字が上手くかけないなど)構音障害:呂律が回らなくなる。
眼球運動障害(眼振):姿勢を変えたりした時やある方向を中止した時に眼振がみられる。
姿勢反射失調:姿勢がうまく保てず倒れたり傾いたりする。
自律神経症状・不随意運動:
起立性低血圧:急に起きあがった時に血圧が低下し、めまいや失神が生じる
睡眠時無呼吸
発汗障害
排尿障害(神経因性膀胱):排尿困難や頻尿がみられる。尿路感染症を併発しやすい。
ミオクローヌス、舞踏病、ジストニアなどの不随意運動がみられる。

皮質性小脳萎縮症CCA:Cortical Cerebellar Atrophy
中年期以降に発症し、小脳性運動失調症状が主体で、パーキンソニズムや自律神経症状は認めない。
進行は緩徐で生命予後も良好である。
アルコール、薬物など二次的な小脳萎縮症との鑑別が重要である。
小脳の上極に萎縮が強い


多系統萎縮症MSA:Multiple System Atrophy
主に、歩行時にふらつく、腕や手がうまく使えない、言葉が不明瞭になるなどの症状が出る「オリーブ橋小脳萎縮症」、筋肉が固くなり、動きが遅くなるなどの症状が出る「線状体黒質変性症」、排尿障害や立ちくらみ、発汗障害などの自律神経にかかわる症状が主な「シャイドレーガー症候群」の三つの総称。
小脳系、大脳基底核、脊髄、自律神経系など複数の系統が障害される。

www.kamagaya-hp.jp/center/kc_mind/pdf/120123_01.pdf

オリーブ橋小脳萎縮症OPCA:Olivo-pontio-cerebellar Atrophy(MSA-C)
中年以降に発症する孤発性疾患であり、遺伝性はない。初発・早期症状として、小脳性運動失調が前景に現れ、経過とともにパーキンソニズム、自律神経症状を呈する。小脳・橋(特に底部)の萎縮を認める。
MSAの約70%を占める。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11960896

病因は不明である。病理は小脳全層の細胞変性、胸核ニューロンの消失、黒質メラニン含有細胞の脱落を認める。
広範囲にリン酸化αシヌクレイン陽性となる封入体がみられる。αシヌクレオパチーと呼ばれる。
MSAの病理は進行するとMSA-C(小脳症状優位のもの)、MSA-P(パーキンソン症状優位のもの)ともに共通の病理像を呈する。

https://www.nichirei.co.jp/bio/tamatebako/pdf/diag_06_dr_haga.pdf

症状:発症年齢は40〜60歳代で小脳症状から発症する。
失調性歩行を呈し、進行とともに上司の失調、眼振、緩徐言語、断綴(だんてつ)言語(発語が爆発的であり、急に速度が落ちたり途切れたりする、急に調子が変わり音節が不明瞭で聞きにくく酔っぱらいのような話し方)を呈する。
小脳症状発症から2〜5年後にパーキンソニズムや自律神経症状が加わる。
進行すると仮性球麻痺による嚥下障害や喉頭喘鳴(声門開大不全)を認める。

診断
問診・臨床経過、CT/MRIなどの画像診断によって行う。
小脳失調があって家族内発症がなく、CTやMRIで胸底部の著明な萎縮を認める。
症候性小脳萎縮症(アルコール中毒、癌性、フェニトイン中毒、甲状腺機能低下)との鑑別が必要。

治療
著効を占めるものはないが、プロチレリン(注射、内服)がある程度有効である。
画像では脳幹中心部に十字サイン(Hot Cross burn sign)を認め、脳幹・小脳客の萎縮を反映し第四脳室の拡大を認める。


線状体黒質変性症(MSA-P)SND:Striato-nigral Degeneration
疫学・概念:
線状体(特に被殻)の神経細胞変性によりパーキンソニズムを呈する。
パーキンソニズム優位の多系統萎縮症(MSA-P)とも呼ばれる。
発症は平均約58(35〜79)歳。本邦では、特定疾患のうちMSAとして約1万1千件のうち約30%が本性と思われる。有病率は10万人当たり1〜3人。

症候:
筋固縮、無動(動作緩慢、動作の減少)、姿勢反射障害などのパーキンソニズムが中心。
安静時振戦は少ない。進行とともに歩行時のふらつき、構音障害など小脳失調症状や排尿障害、起立性低血圧などの自律神経症状や錘体路徴候が加わる。
夜間の喘鳴や睡眠時無呼吸などが早期から認められることがあり突然死の原因となる。

診断:
初期はパーキンソン病との区別は困難
徐々に後パーキンソン病薬の危機が悪くなり、小脳失調症状や自律神経障害が加わってくる。
MRI所見で、線状体の被殻の萎縮、T2低信号、外側の線条の高信号に加えて、小脳や橋の萎縮、T2強調画像での橋の十字の高信号(Hot Cross burn sign)、中小脳脚の高信号(中小脳脚サイン)、錘体路病変を示唆する内包、放線冠、運動野直下のT2高信号などが見られればより積極的な診断が可能。
MIBG心筋シンチグラムではほぼ正常の取り込みがある。

線状体の異常信号http://www.kawazoe-nshp.or.jp/info0211/q&a/biyou/02parkin.html

治療
抗パーキンソン病薬は、初期にはある程度有効であることがおおい。
自律神経症状や小脳失調に対しては対症療法が中心となる。
呼吸障害には非侵襲性陽圧換気法などの補助療法。
嚥下障害が高度な場合、胃瘻などの経管栄養が必要となることも多い。
リハビリテーションは残っている運動機能の維持に有効であり、積極的に行う。
寝たきりになることを少しでも遅らせることが大切である。
予後
抗パーキンソン病薬は、その標的である線状体の神経細胞が障害されてしまうため、パーキンソン病に比べると聞きが悪い。
小脳症状や自律神経障害も加わってくるため全体として進行性に増悪する。
発症後平均約5年で車椅子使用、10年で臥床状態になり死に至ることが多い。
睡眠中に呼吸が止まることがあり、突然死の可能性がある。

覚醒時の吸気時には、声帯は横に広がり(A)、呼気時には狭くなる(B)。麻酔薬で寝た状態では、吸気時に声帯の隙間がスリット状に狭くなり(C;矢印)、息を吸いにくい状態となる。この状態を声帯開大不全と呼ぶ。息をはく時には少し声帯の隙間が広がる(D)。
http://www.bri.niigata-u.ac.jp/~neuroweb/laboratory/research_clinic_001.html
MSA発症にかかわる遺伝子としてコエンザイムQ10合成酵素遺伝子COQ2が発見され、コエンザイムQ10大量投与療法に期待が寄せられている。
https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/054120969.pdf
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