胃癌切除後の排便障害 根本洋先生
2016-12-24 08:27
川村内科診療所
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2016年12月3日 
演題「胃癌切除後の排便障害とアミティーザによる治療効果」
演者:昭和大学藤が丘病院 消化器・一般外科講師 根本 洋 先生
場所:
内容及び補足「
幽門側胃切除の場合、小彎のリンパ節廓清、迷走神経の切除が行われル為、胃切除後に、酸の逆流、消化不良、便秘、下痢、腹痛などの術後症状を認めることになる。

胃癌幽門側切除術後の再建はビルロート1法、2法、Roux-en-Y法があるが、当院ではビルロート1法とRoux-en-Y法を行っている。
いずれの術式をとっても、横行結腸との癒着が強く生じる。

種々の症状が術式によって違いがあるかどうかで、自験例で検討をしてみた。
217名の胃がん切除例は、幽門側切除例が64%、胃全摘例が36%、腹腔鏡手術が61%、開腹術が39%、ビルロート1法が48%、R-Yが52%、胃癌のステージで見てみると、1期61%、2期15%、3期20%、4期4%という内訳であった。
便秘のスコアとして、CAS(The Japanese Version of the Constipation Assessment Scale)というものがある。
お腹の張った感じ(ない、ときどき、いつも)、排ガス量(普通または多い、時々少ない、いつも少ない)、便の回数(普通または多い、少ない、とても少ない)、直腸内の充満感(全然ない、時々ある、いつもある)、排便時の肛門の痛み(全然ない、時々ある、いつもある)、便の量(普通または多い、少ない、とても少ない)、便の排泄状態(らくにでる、時々出にくい、いつも出にくい)、下痢または水様便(ない、時々ある、いつもある)の8項目について、0〜2点の三段階評価でスコア化したものである。5点以上で便秘傾向と判断する。
217名のスコアは、張り:0.57、排ガス:0.36、回数:0.63、充満感:0.66、痛み:0.28、量:0.54、状態:0.84、下痢:0.45といった状態で、便が出にくく、回数が少なく、張り、便の量が少ないという傾向があった。
便秘の自覚ない人が60.4%で、自覚がある人が39.6%でCASの点数はそれぞれ1.3±0.3、5.8±0.2と差があった。
便秘の自覚があるか無いかでそれぞれの項目のスコアは、張り0.78:0.22、排ガス0.54:0.06、回数0.64:0.00、充満感0.95:0.19、痛み0.42:0.06、量0.80:0.11、状態1.25:0.17、下痢0.46::0.46
http://www.jsnr.jp/test/search/docs/102001002.pdf

癒着による再入院は手術臓器や手術術式により異なり、胆摘:開腹7.1%、腹腔鏡0.2%、結腸手術:開腹9.5%、腹腔鏡0.43%、子宮全摘:開腹15.6%、腹腔鏡0%、卵巣摘出術:開腹23.9%、腹腔鏡0%であった。

横行結腸の便の状態をCTで確認してみると便秘症状が有る無しで比較してみると、
便秘症状あり:なしでは、変化なし18%:45%、ちょっと悪化23%:24%、腸の拡張、便の硬化59%:30%と大行結腸の便量の増加が認められた。
便秘の有る無しでの症例の比較をしてみると、年齢71.7:68.7、術前BMI 23.4:23.0、術後BMI 19.3:20.8、体重減少3.5:2.7、体重減少率14.7%:11.1%と便秘症例での体重減少が顕著であった。
便秘対策としては、マグネシウム製剤42%、モサプリド27%、センナ23%、大建中湯17%であった。

酸化マグネシウム(MgO)は、胃酸(HCl)と反応し(MgO+2HCl→MgCl2+H2O)となり制酸作用を発揮します。
塩化マグネシウム(MgCl2)となった後、腸内において難吸収性の重炭酸塩(Mg(HCO3)2)または炭酸塩(MgCO3)となり、浸透圧維持のため腸管から水分を奪い、超内容物を軟化させることにより緩下作用を示す。
In vitroの実験においてpH4.5とpH1.2においては、酸化マグネシウムの溶解度は1/40に減弱しているというデータがある。
したがって、PPIやH2ブロッカー投与時においては、胃酸が抑制されており、PPIを定期的に服用している場合には、pHが4以上を示す割合が70〜80%あり、この時間帯での服用では、効果が期待できないことになり、酸化マグネシウムの増量が必要となる。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009796493
http://benpiyaku.sakura.ne.jp/wp/2015/06/30/%E8%87%A8%E5%BA%8A%E8%96%AC%E7%89%A9%E7%99%82%E6%B3%95%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%83%83%E9%85%B8%E5%88%86%E6%B3%8C%E9%98%BB%E5%AE%B3%E5%89%A4%E3%81%A8%E9%85%B8%E5%8C%96%E3%83%9E%E3%82%B0/
その点クロライドチャンネルアクチベーターであるアミティーザは作用する際に胃酸は不要であるので、胃切除後の便秘患者に投与量を考慮する必要がない薬剤と言える。
腸管の水分分泌には、黒ライドイオンが関与しており、粘膜上皮細胞の基底膜側にあるNa+-K+-2Cl-共輸送体などを介して粘膜上皮細胞内に取り込まれたCl-は、小腸上皮頂端膜(腸管内腔側)に存在するClC-2クロライドチャンネルを介して腸管内腔に移動する。それに伴い、Na+も受動的に腸管内腔に移動し、その結果、腸管内腔へ水が分泌される。
アミティーザは、小腸上皮頂端膜に存在するClC-2クロライドチャンネルを活性化し、腸管内への水分分泌を促進し、便を柔らかくし、腸管内の輸送を高めて排便を促進する。

アミティーザを処方すると前出のCASは6.5点が3.2点と改善した。
それぞれの項目のスコアは、張り0.76→0.50、排ガス0.56→0.25、回数0.69→0.27、充満感0.95→0.50、痛み0.45→0.13、量0.85→0.25、状態1.33→0.41、下痢0.84→0.42と改善した。
アミティーザを使用した25例中、有効であり継続投与となったのが6例、他の下剤を減量できたのが3例、屯用で対応できたのが7例、他剤と併用した例が3例、副作用で中止となったのが5例、効果なしという判定になったのが1例という内訳であった。
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