開業医も知っておきたい輸入感染症 天野 皓昭 先生
2017-06-12 08:24
川村内科診療所
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 2017年6月3日 
演題「開業医も知っておきたい輸入感染症」
演者: 湘和会 湘南記念病院 在宅診療部長 天野皓昭 先生
場所:
内容及び補足「
島国である日本であるから使われている言葉であり、世界的には輸入感染症という言葉はない。
内容で考えると以下のような表現となる。
Infectious disease originating overseas entering the country through an infected traveler or goods.
国立感染症研究所は『すべてが、あるいは主に海外で感染して国内に持ち込まれる感染症』としている。
独協医科大学の春木先生はその特徴を
1. 日本にはなく、海外で流行している感染症が国内に持ち込まれる場合
2. 日本にもある感染症が海外から持ち込まれる場合
3. 日本にも存在する病原体(細菌)が多剤耐性化したものが国内に持ち込まれる場合
4. 食品や動物など輸入品に付着した感染症が国内に持ち込まれる場合
に分類している。

これとは少し立ち位置が異なるが、『新興、再興感染症』という分類がある。
新興感染症:『かつて知られていなかった新しく認識された感染症で局地的、あるいは国際的に公衆衛生上問題となる感染症』で
SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、ウエストナイル熱、エボラ出血熱、MERS(中東呼吸器症候群)、クリプトスポリジウム症、クリミア・コンゴ出血熱、HIV(後天性免疫不全症候群)、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)、腸管出血性大腸菌感染症、二パウイルス感染症、日本紅斑熱、VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)感染症、マールブルグ病、ラッサ熱
があるが、HIVはすでに新興感染症の範疇では考えられていない。
再興感染症:『既知の感染症ですでに公衆衛生上問題とならない程度までに患者数が減少していた感染症のうち、再び流行し始め患者数が増加したもの』で
狂犬病、デング熱、自家熱、マラリア、ペスト、ジフテリア、結核、サルモネラ感染症、これら、黄熱、リーシュマニア症、エキノコックス症
がある。
2001年の沖縄サミットで国際機関が協力して『The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria』を設立し、三大感染症に取り組むことを宣伝した。
この時点でHIV/AIDSの患者数3330万人、死亡者数180万人、結核年間発生数940万人、死亡者数170万人、マラリア年間発生数2億2500万人、死亡者数78万人であった。
NTDs:Neglected Tropical Disease
しかし、これら以外の感染性疾患は多数あり、WHOは顧みられない熱帯病(NTDs:Neglected Tropical Disease)も提唱した。
NTDsとは、WHOが「人類の中で制圧しなければならない熱帯病」と定義している17の疾患群の。こと
世界149の国と地域で蔓延し、感染者数は約10億人にも上り、深刻な社会問題となっており、この内100の国と地域では2種類のNTDsが蔓延し、30の国と地域では、6種類以上ものNTDsが蔓延しているといわれている。
NTDsは主に貧困による劣悪な衛生環境などが主な原因となって蔓延しており、このことがまた労働力や生産性の低下を招き、貧困から脱出できない原因にもなっている。これらの疾患にかかると、重度の身体障害が残る場合もあり、経済活動や社会生活を送る上での大きな足かせとなっている。また最悪の場合には死に至ることもある。開発途上国や新興国では,NTDsの蔓延が経済成長の妨げともなっており、国が抱える重大な課題の一つになっている。
NTDsは三大感染症と比べて、世界からあまり関心が向けられておらず、十分な対策が取られてこなかった。2008年のG8北海道洞爺湖サミット首脳宣言を契機として、焦点が荒れられるようになってきた。

2012年のロンドン宣言で表明された10のNTDsの患者数であるが、統計の取り方により、実際の疫学を反映しているとは言えないものの、おおよその広がり具合がわかる。
特に土壌伝播寄生虫の回虫症としての数は、どのような視点から計算されているかは不明である。土壌伝播寄生虫は、靴を履く習慣を広めることにより感染者は激減している。
生活習慣が、これらの感染症の分布にも影響しており、糞尿を農業の肥やしとしていない、アフリカにおいて回虫症はほとんど見られず、東南アジアでよくみられる感染症となっている。

輸入感染症の重要性とその変化
日本からの海外旅行者数は1997年以降大きな変化はないが、日本への外国人旅行者数はここ10年で3倍に増加している。

また外国人労働者及びその家族の増加が顕著である。

 
これらの人たちが住んでいた環境で感染した慢性疾患の知識も必要となることがある。
出身国別で見てみると、韓国・朝鮮からの人は減少し、ブラジル人は頭打ちとなり、中国やフィリピンからの人が増加している。
ブラジル人であれば、シャーガス病による特発性心筋症や巨大結腸症、中国人であれば、有鉤条虫による嚢虫症からくる痙攣や麻痺があり、基礎疾患としての寄生虫疾患を念頭に置く必要がある。

その他に生鮮輸入食品の増加や交通システムのスピード化・国際便の増加がこういった感染症の拡大に拍車をかけている。
しかし、日常診療においてこれらの疾患の絶対数が少なく、関心も少ないため、医師の知識が不足していることが問題であるばかりでなく、容易に相談・対応できる医療機関・専門家が少ないことも問題である。
これらの疾患の多くは、根本的な治療薬が存在せず、あったとしても入手困難なものが多く、適切・迅速な治療が困難な状況にある。
また、迅速な感染拡大防止対策が困難であり、現在行われている、国際空港における水際作戦(体温の上昇を調べ対象者を絞り込む)の有効性に疑問がある。
海外から一日に700機来ている。30000人ほどになる人対象に行って年300件ほど検出されているという。デング熱など不顕性感染(感染しているけれど発熱していない)場合には検出不可能であり、サーモグラフィーによる検出には疑問が呈されている。

そこで重要になってくるのが、旅行歴・暴露に関する問診である。国立感染症センターの笏那先生は以下の問診を進めている。
1. 渡航の出発日と帰国日
2. 渡航先と経由国
3. 田舎か都市部か
4. 現地の気候、季節
5. 咬傷の有無;蚊、ダニ
6. 動物暴露
7. Sick contact
8. 現地での性交渉
9. 食事や水の摂取
10. ワクチン接種歴
11. 旅行の種類:ツアー、ビジネス、バックパック
12. 外傷歴
症状が出るまでの潜伏期間も重要な情報となる。


デング熱 Dengue Fever
デングウイルスはフラビウイルス化フラビウイルス族のRNAウイルスである。

デングウイルスゲノムは約11000の塩基からなっており、血清型でDENV-1〜4の四つのウイルス型に分類される。ある血清型に感染するとその血清型に対する終生免疫を獲得するが、他の血清型に対する防御は短期間に留まる。また、二度目の感染が他の血清型の場合に重篤化することが報告されている。この機序がデング出血熱のおきる機序として唱えられているが、小児では初回感染でも出血熱の発症があり、強毒株がデングウイルスの中に存在し、その感染によって発症すると唱えている人もいる。


WHO地域事務所別に見たデング熱患者数は以下のようになっている。

しかし、アフリカ各国の集計データがないので、正確な感染者数を反映しているものではない。2016年デング熱の流行があったところは下記のようにしめされている。

デング熱はネッタイシマカやヒトスジシマカにより媒介される。

ネッタイシマカ

したがってこれらの過の生息地域がデング熱のリスクのある地域になる。

http://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name33.html

地球の温暖化に伴いヒトスジシマカの分布地域が北へ拡大することが予測されている。


デング熱の臨床像
デングウイルスに感染しても8割は無症状で、それ以外でも軽症が多い。しかし、5%の感染者では重症にまで発展し、さらに極一部で生命を脅かすこともある。

潜伏期間は、3〜14日であるが、ほとんどの場合4〜7日である。帰国後14日以上経過した後で発症する可能性は極めて低い。子供の場合、風邪や胃腸炎(嘔吐や下痢)とよく似た症状がたびたびあらわれ、症状は大人よりも軽いが、ときに重度の合併症をきたす。
症状は、突然の発熱、頭痛(目の奥の痛みと表現されることが多い)、筋肉や関節の痛み、発疹である。

40度以上の発熱となることがよくあり、全身の痛みや頭痛を伴う。このような症状が2〜7日持続し、この時期に50〜80%の人に発疹が認められる。1〜2日目に紅斑が現れるか、4〜7日の頃にはしかに似た発疹が現れる。また、点状出血や毛細血管の破綻が現れることもある。口や鼻の粘膜から軽度の出血を認めることもある。1〜2日で急に熱が上がって下がるという二相性を示す。
デング出血熱:感染者の中には重篤化する人もいる。高熱から回復した後に悪化する。
毛細血管の透過性が増、し水分の漏れが増加し、胸腔や腹腔に多量の水分貯留を認め、循環血液量の減少により、循環性ショックが生じることがある。この段階で、臓器障害や大量出血が消化器系で起きることがある。
デングショック症候群と呼ばれる循環性ショックやデング出血熱が発症する割合は5%未満である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%B0%E7%86%B1


デング熱の国内報告者数の推移を見てみると、2014年代々木公園で国内感染拡大があったがそれ以外はほとんどが輸入例である。

海外感染者が代々木公園イベント参加した人から広がったと一部で報道されたが、発症直前にインドネシア舞踏団の講演があり、その人たちからの感染の可能性を指摘している人もいる。

デング熱ワクチンが開発されている。違う方の再感染の際に重篤化するので開発が困難と思われていたが、四種類同時にワクチンを接種することにより、重篤化を避けられるとの発想で作成された。60%以上に予防効果が認められ、第三相試験まで進んでおり、2015年からメキシコ、2016年からフィリピンなど10か国で9歳以上に使用が開始されている。

マラリア

マラリアは世界90か国以上の国々で公衆衛生上大きな問題であり、これらの地域は世界人口の40%24億人がその感染症と向き合っている。WHOの最新データによると毎年3〜5億の人が罹患し(その90%はサハラ以南のアフリカの人々)、年間の死亡者数は100万人を超えている。

マラリアはマラリア原虫が人体に寄生することによって引き起こされる。

ピンク色の丸い形のものが赤血球、矢印で示した輪状(左図)または鎌状(右図)のものが赤血球に感染したマラリア原虫
媒介動物はハマダラカである。


細胞内寄生の原虫で、ヒトの体内では無性生殖、媒介蚊であるハマダラカの体内で有性生殖で増殖する、人に寄生するマラリア原虫は以下の四種類で、下記の潜伏期間である。
1. 熱帯熱マラリア原虫:Plasmodium falciparum 7〜14日
2. 三日熱マラリア原虫:Plasmodium vivax 12〜17日あるいはそれ以上
3. 卵形マラリア原虫:Plasmodium ovale 11〜18日あるいはそれ以上
4. 四日熱マラリア原虫:Plasmodium malariae 18〜40日あるいはそれ以上
注意すべき点は、熱帯熱マラリア以外のマラリアの場合、潜伏期が長期化する例が少なくないことであり、抗マラリア薬を内服していた場合はさらに長期化する例がある。海外寄りの帰国時には全然症状がなく、その後に発熱が出現するという経過をたどることが多い。流行地に滞在しなくても、熱帯地より航空機とともに運ばれてきたハマダラカに刺され発症する場合もあり、空港マラリアと呼ばれている。輸血や針刺し事故による伝播や経胎盤感染も稀にある。

マラリアの生活史と形態:
マラリア原虫はハマダラかによって媒介され、吸血時に蚊の唾液腺から感染型のスポロゾイトが人の血液中に注入される。スポロゾイトは数分以内に肝細胞に侵入し、そこで分裂を繰り返す。肝細胞内で増殖を終えると、寄生細胞を破壊し、メロゾイトを放出する。メロゾイトは数十秒以内に次の赤血球に侵入し、ヘモグロビンを摂取して成長する。侵入48時間後には20〜30個のメロゾイトが形成され、このメロゾイトは赤血球を破壊して、次の赤血球に侵入する。なお、三日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫では、一部の肝細胞内原虫が休眠型(ヒプノゾイト)を取り、数か月〜数年後に増殖し、マラリア再発の原因となる。
マラリア原虫はヒトの体内での発育のほとんどを細胞内で過ごすので、免疫が容易には成立しない。
赤血球内の虫体の一部は雌雄のガメトサイト(生殖母体)に分化する。ガメトサイトはハマダラ化の吸血によって蚊に移ると、その中腸で雌雄の生殖体(ガメート)になり、受精して接合体を形成する。接合体(ザイゴート)はオーキネートになって中腸壁に侵入し、そこでオーシストを形成する。その中で虫体は分裂を繰り返し、多くのスポロゾイトを形成する。スポロゾイトは唾液腺に移行して成熟し、次の感染の機会を待つ。なお、ゲノムが2倍体になるのは接合体の時期だけで、その後すぐに減数分裂が起こり1倍体となる。ヒト体内でのマラリア原虫の全発育期は核相は1倍体である。ヒトでは1倍体の時期は精子と卵子の時期なので、発育史におけるゲノムの倍数性はヒトとはかなり異なる。

http://www.biken.osaka-u.ac.jp/biken/BioScience/page22/index_22.html#04
発育を繰り返すうちに一部は雄性と雌性の生殖母体となる。生殖母体は蚊に吸われることで有性生殖するが、人体内では死滅する。三日熱および卵形マラリアでは、肝細胞内で休止期に入ったヒプノゾイトが、数か月後に分裂を開始し、再発する。一方、熱帯熱および四日熱マラリアはヒプノゾイトが存在しないため再発しない。


                            輪状体         アメーバ体   分裂体        生殖母体(雌) 生殖母体(雄)
熱帯熱マラリア  
三日熱マラリア         
四日熱マラリア         
卵形マラリア         
http://www.idimsut.jp/didai/kansensho_09.html

マラリアの三大主徴は、特有の熱発作、貧血、脾腫であるが、これらの症状が認めらえるときは病状がかなり進行している状況にあり、一刻を争って適切な治療を行わないと救命が困難な場合がある。
悪寒期:不定の前駆症状の後に悪寒、戦慄、体温上昇が出現、1〜2時間持続する。
灼熱期:悪寒は消失し、つぎは熱感を感じ、頭痛、顔面紅潮、結膜充血、関節痛、悪心、嘔吐を伴う高熱が4〜5時間持続し、この間、うわごとや意識障害を呈することもある。
無熱期:大量の発汗とともに解熱、臨床症状も軽快し気分爽快となる。
熱発作のパターンは初期には不規則であるが、熱帯熱マラリア以外は、次第に以下の表のような規則的な熱型になる(熱発作の周期は分裂体の破裂する周期に一致する)。熱帯熱マラリアでは、毎日もしくは1日に2〜3回不規則に発熱する。
熱帯熱マラリア:不規則、三日熱マラリアおよび卵形マラリア:48時間、四日熱マラリア:72時間
マラリアの経過は、熱帯熱マラリアとそれ以外とで大きく異なる。熱帯熱マラリアの場合は、発熱に伴う症状が強く、不規則に発熱し、解熱時も健康感がない。早期に治療を開始しないと血中の原虫数は急激に増加し、脳性マラリア、ARDS、急性腎不全、代謝性アシドーシス、重症貧血を併発し死亡する。そのほかのマラリアは比較的ゆっくりとした経過を摂り、一般的に良性マラリアともいわれる。

日本における輸入マラリア患者数の変遷は、平成14年以降は下げ止まりの感があり、年間70-80人程度罹患している。

平成18年から26年までの輸入マラリアの特徴を以下に上げる。
男性76%、女性24%で男性に多く、
年齢は20代が34%、30代が31%と若年者に多く、職業は学生15%、会社員13%、国際協力関係の人が7%、教育研究職の人が6%でした。
出身地は、日本国籍が183例、外国籍の人が132例で死亡例は1例の診でした。
熱帯熱マラリア58%、三日熱マラリア30%、卵形マラリア4%、四日熱マラリア2%不明が6%。
症状は、発熱99%、悪寒58%、頭痛57%、関節痛26%、脾腫23%、貧血17%。
感染地域は、アフリカが63%、アジア27%、オセアニア6%、南米2%であった。

下記のような急激な症例があり、3回目の発熱時においてはどんな治療も無効であり、感染が疑われる地域に旅行し、蚊に刺された事実があって、発熱、悪寒などの症状が認められた際には、マラリアを疑うべきであり、その可能性が少しでも強く考えられる場合には、集中して治療できる施設、この近くであれば、横浜市民病院への相談・診察依頼を考えるべきである。

マラリアが中等度から高度に流行している地域では、その人の免疫が感染に関して重要な要素となる。長年、マラリアに暴露されていると部分的に免疫がでる。完全に感染を防ぐことはできないが、重症化するリスクを下げることができ、アフリカではマラリアによる死亡者は、ほとんどが免疫を持っていない子供で、大人は重症化を防げている。

しかし、マラリア撲滅に対しては、この抵抗性を有していることが足かせになっているのも事実。ナイジェリアの症状のない普通に登校している学生の血液検査でマラリアの保有率を見たものが下の表です。約1/4の人はマラリア感染がありながら、無症状で生活している。症状があれば、病院受診し治療が行われるが、症状がないので普通に生活をしており、これらの人を刺した蚊から他の人へ、マラリア感染が広がっていく。

実は現地の医療水準も、マラリア感染撲滅の足かせになっている。ケニアで現地の医師によりマラリアと診断された患者の血液標本を作成してみた結果、マラリア原虫の感染した赤血球は一例も見つからなかった。血液標本でマラリア虫を検出して臨床診断をしているので、この事実は無視できない問題点である。

マラリアの治療
治療の選択は、合併症のない熱帯熱マラリア、重症マラリア、非熱帯熱マラリアに分けて考える。
1975年クロロキン、2010年ファンシダールが発売中止になっており、2013年12月現在わが国で使用できる抗マラリア薬は塩酸キニーネ末、メフロキン塩酸錠、アトバコン・プログアニル配合錠の三種類である。国外で標準治療薬とされている、クロロキン、アーテミシニン配合錠(ACT)、プリマキン及び注射薬(アーテスネート及びキニーネ)の入手が困難なことからこれらのギャップをうめるため,アーテメター・ルメファントリン配合錠,グルコン酸キニーネ注射薬,アーテスネート座薬,リン酸クロロキン錠,塩酸プリマキン錠が必要時に速やかに使用できる体制が厚生労働科学研究費補助金(熱帯病治療薬研究班)によりとられている.なお,これらの未承認薬の使用は臨床研究として行われており,対象となる患者は,1)承認薬の禁忌に該当する場合,2)経口薬が使用できない場合,3)重症マラリアに相当する場合,に原則限られる.
日本寄生虫学会 マラリア情報:マラリア治療の手引き(2014年版)
http://jsp.tm.nagasaki-u.ac.jp/wp-content/uploads/2015/12/tebiki_2014ver82.pdf

2016年12月19日ノバルティス・ファーマ―から抗マラリア薬「リアメット配合錠」製造販売認可が取れたとプレスリリースされた。
これは漢方薬の一種でヨモギ属植物(artemisia annua)の抽出化合物であるアルテミシニン誘導体とそれとは作用機序の異なる薬剤を組み合わせた併用療法(artemisinin-based combination therapy:ACT)の配合剤で、作用機序は明確にはなっていないが、赤血球内に侵入したマラリア原虫に対して作用していると考えられている。

マラリアの薬剤耐性は非常に問題となっており、クロロキンやスルファドキシン-ピリメサミンに対する耐性熱帯熱マラリアが1970年代と1980年代に広がった。
したがってクロロキンなどの耐性マラリア感染危険地域に行かれる場合の予防内服に疑問視している医師もいる。
アルテミシニン耐性原虫が近年、カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの五か国から報告されているが、ACTの場合は他剤も使用しているのでほとんどの患者が治癒しているが、問題である。
蚊対策
マラリア撲滅対策のもう一つの方法として、マラリア感染を広めている蚊に対する対策も進められている。
現在使用されている殺虫剤は主にピレスロイドが使われており、近年このピレスロイド耐性蚊が増加している。
住友化学株式外社がポリエチレンにピレスロイドを織り込んだ蚊帳:オリセット・ネットを開発しUNICEF(国連児童基金)などを通じて80以上の国々に供給している。
https://www.sumitomo-chem.co.jp/csr/olysetnet/initiative.html


狂犬病Rabies:ラブドウイルス科リッサウイルス属の狂犬病ウイルス(Rabies virus)を病原体とするウイルス性の人獣共通感染症。水を恐れるようになる特徴があるため、恐水病、恐水症と呼ばれることもある(水以外にも、音や風など感覚器に刺激が与えられると痙攣を起こす)。
毎年世界中で約5万人の死者を出しており、その95%以上はアフリカとアジアである。
感染した動物に噛まれた人の40%は15歳未満の子供である。人から人への伝播はなく大流行になる恐れはないが、ワクチン接種を受けずに発症するとほとんどが死亡し、有効な治療法がない疾患である。
感染:一般には感染した動物の咬み傷から唾液とともにウイするが伝染する場合が多いが、傷口や目・唇などの粘膜部を舐められた場合も危険性が高い。犬の他に、猫や蝙蝠などの動物も感染源となっている。ヒトからヒトへの感染はないが、角膜移植や臓器移植による感染報告例がある。
潜伏期間:咬傷の部位や大きさによって異なる。咬傷から侵入した狂犬病ウイルスは、神経組織に到達し、日に数〜数十ミリ移動し、脳組織に到達し発症する。早ければ2週間で、場合によっては数か月以上かかり、二年という報告例もある。
前駆症状:風邪に似た症状の他、咬傷部位の皮膚の治癒後の「痒み」、「チカチカ」などの違和感、熱感がみられる。
症状:急性期には、不安感、恐水症状(水などの液体の嚥下によって嚥下筋が痙攣し、強い痛みを感じるため、水を極端に恐れるようになる症状)、恐風症(風の動きに過敏に反応し避けるようなしぐさを示す症状)、興奮性、麻痺、精神錯乱などの神経症状があらわれるが、脳細胞は破壊されていないので意識は明瞭である。腱反射、瞳孔反射の亢進も見られる。その2〜7日後には脳神経や全身の筋肉が麻痺を起こし、昏睡期に到り、呼吸障害によって死亡する。
症例によっては、典型的な恐水症状や脳炎症状がなく、最初から麻痺状態に移行する場合もあり、この場合には、ウイルス性脳炎やギランバレー症候群との鑑別が困難である。
予防:有効な治療法がないため、感染前のワクチン接種が有効である。
暴露前接種:初回接種を0日とすると0-28-180の三回接種が一般的である。
暴露後接種:感染の機会があった場合にもその発症を予防する目的でワクチンを接種する。
WHOでは、0-3-7-14-28日(必要に応じて90日)の摂取を勧めている。そのほかにもいくつかの方法が提唱されている。

流行地は多く、逆に狂犬病清浄地は、日本、イギリス、アイルランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、ハワイ、グァム、フィジー、オーストリア、ニュージーランドと非常に少ない。
 


参考サイト:
検疫所で探知された湯集感染症の現状:成田航空検疫所検疫化検疫医療専門職 磯田貴義
東京大学医学研究所 附属病院・感染免疫内科
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