2017年9月15日
演題「肺癌の新しい治療 免疫チェックポイント阻害薬を学ぶ」
演者:けいゆう病院 呼吸器内科 西野 誠 先生
場所:けいゆう病院
内容及び補足「
今までのがんの治療法としては、手術療法、放射線療法、抗がん剤などによる化学療法・分子標的療法というがん細胞に直接働きかけをする治療法が行われてきたが、がん細胞の排除する免疫システムに働きかけるがん免疫療法が近年行われるようになってきた。
治療効果の特徴としては、分子標的治療は早期に効果が得られるが、がん免疫療法は継続した長期生存が期待できる治療法である。
健康な人の身体に1日約5000個のがん細胞が生じ、自身の免疫により排除していると考えられている。
免疫力の低下や、がん細胞が免疫を抑制することにより、がん細胞を異物として認識できなくなったり、排除しきれなくなってがん細胞が増殖して、がんになる。
免疫細胞は、白血球と白血球に情報を提供する樹状細胞がある。
2017年2月時点でがんの診療ガイドライン*に記載されて標準治療となっている治療法は、以下の表にある「1)がん細胞がかけた免疫のブレーキを解除する」方法と「2)体内の免疫を強める(アクセルを強める)」方法の一部に限られる。
がんの診療ガイドライン*:
日本肺癌学会編:EBMの手法による 肺癌診療ガイドライン 2016年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む;金原出版
日本皮膚科学会編:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版;日本皮膚科学会雑誌,2015;125(1):35-48
日本皮膚科学会、日本皮膚悪性腫瘍学会編:科学的根拠に基づく皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン 第2版(2015年);金原出版
日本泌尿器科学会編:腎癌診療ガイドライン 2011年版(第2版);金原出版
日本泌尿器科学会編:膀胱癌診療ガイドライン 2015年版;医学図書出版
日本臨床腫瘍学会編:がん免疫療法ガイドライン 2016年版;金原出版
1. 免疫抑制阻害療法:免疫により異物を体から排除しているが、免疫が強くなり過ぎると自己免疫疾患やアレルギー疾患になるため、免疫反応を抑制する機構がある。この機構を利用してがん細胞が免疫による環指から逃れていることが判明した、がん細胞は、細胞表面にタンパク質でできたアンテナを出して、免疫細胞の表面にある異物を攻撃せよという命令を受け取る蛋白質『免疫チェックポイント』に結合し、『免疫を抑制せよ』という偽のシグナルを出してがん細胞を攻撃させないようにしている。この『免疫チェックポイント』にがん細胞が結合できなくする『免疫チェックポイント阻害薬』が開発された。免疫チェックポイントは、PD-1やCTLA-4いくつかの種類がある。
がん細胞はPD-L1というアンテナを出して、がんを攻撃するT細胞にあるPD-1と呼ばれる受容体に結合し、T細胞の攻撃から逃れている。逆に、PD-1受容体をふさいでPD-L1が結合できないようにすれば、がん細胞がT細胞の攻撃にブレーキを掛けられないようにできる。そこでPD-1抗体を作成して働きが弱くなったT細胞を再び活性化してがん細胞が増えるのを食い止めることができると考えられている。
参:
PD-1/PD-L1チェックポイント・シグナル伝達
ヒトを含む動物には「Cancer Immunity Cycle(がん免疫サイクル)」と呼ばれる癌に対する自然防御システムがある(
Immunity 2013 Jul 25;39(1):1-10)。
このシステムは次のように正常に働いている限り、発生したがん細胞は死に至ることになる。
1. 腫瘍細胞に発現している変異抗原を樹状細胞が認識する。
2. 樹状細胞は認識した抗原をT細胞に提示し、その結果細胞障害性T細胞が活性化される。
3. 活性化した細胞障害性T細胞が腫瘍細胞へと遊走し、腫瘍微小循環へ浸潤する。
4. 活性化したT細胞が腫瘍細胞を認識し結合する。
5. 結合したエフェクターT細胞がサイトトキシン(細胞毒)を放出し、腫瘍細胞にアポトーシスを引き起こす。
アポトーシス誘導された腫瘍細胞は腫瘍関連抗原(TAA)をさらに放出し、がん免疫サイクルをさらに推し進める。
T細胞の活性化は、亢進と抑制のシグナル双方により制御されている。亢進の刺激が過剰になると正常組織への攻撃による慢性自己免疫疾患が引き起こされる。T細胞受容体が樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞(APC)表面にある抗原を認識するとT細胞が応答し、APCとT細胞がお互いに刺激し合い、その結果としてT細胞が完全に活性化される。
PD-1(programmed cell death-1)受容体(別名:CD279)は活性化T細胞の表現に発現する。一方PD-1のリガンドであるPD-L1(別名:B7-H1、CD274)およびPD-L2(別名:B7-DC、CD273)は、通常抗原提示細胞の表面上に発現する。PD-1、PD-L1およびPD-L2は、T細胞応答を抑制もしくは停止させる共同抑制因子として働く、免疫チェックポイント・蛋白質である。腫瘍細胞に対する免疫システムはPD-1とPD-L1の反応によって必要な場合のみ発動し、自己免疫疾患となることを防いでいる。
PD-L1がPD-1に結合するとT細胞からのサイトカインの産生が低下し、T細胞の活性を抑制するシグナルが伝達される。腫瘍細胞はT細胞からの認識を遁れるために、この免疫チェックポイント・シグナル伝達を利用する。
PD-L1は腫瘍細胞や腫瘍微小循環に存在する非形質転換細胞の細胞表面上にも強く発現している。このPD-L1が活性化している細胞障害性T細胞表面のPD-1に結合すると、T細胞の活性が抑制される。そして不活化したT細胞は遊走することなく腫瘍微小環境に留まる。PD-1/PD-L1を介した児のようなメカニズムは、腫瘍免疫に対する腫瘍細胞の抵抗性を代表するものである。
http://www.abcam.co.jp/cancer/cancer-immunotherapy-and-the-pd1pdl1-pathway-1
https://www.ono.co.jp/jpnw/ir/pdf/k_setsumei/170512_3.pdf
オプジーボ:ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体であり、PD-1とPD-L1およびPD-L2との結合を阻害し、がん抗原特異的なT細胞を活性化することで抗腫瘍効果を発揮する。
オプジーボの作用機序動画
進行性非扁平上皮癌NSCLCに対して投与したオプジーボとドセタキセルの比較試験であるCheck-Mate 057試験において、1年生存率は39%に対して51%と有意に改善しており、この効果はPD-L1の発現が多い症例のいて顕著であった。
治療歴を有する進行扁平上皮癌においてもオプジーボはドセタキセルに対して1年生存率において24%に対し42%と有意な改善を認めた。
この効果の有効性は、PD-L1の発現状況には関係しなかった。
適応症:
根治切除不能な悪性黒色腫
切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫
再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌
https://www.opdivo.jp/basic-info/product-info/
副作用:オプジーボは免疫応答の抑制を解除するという薬理作用があるため、免疫反応の促進または過剰による免疫関連の副作用が現れることがある。
臨床症状としては、以下のものが挙げられる。
オプジーボの副作用の多くは投与して4〜8週後に診られているが、投与してから52週以上経過した後においても副作用が起こり得ることもあるので注意が必要である。
2. 体内の免疫を強める(アクセルを強める)方法
免疫細胞を活性化させ悦物質を投与することによって、免疫細胞を活性化し、がん細胞を攻撃する治療法。サイトカン療法、BRM(biological response modifiers)療法、がんワクチン療法、免疫細胞療法などがある。
受動免疫療法:体の外で攻撃力を高めた免疫細胞や、人工的に合成した抗体を投与する受動免疫療法
非特異的リンパ球療法:1980年代に患者さんの血液から免疫細胞を取り出して、サイトカインなどの刺激を与えパワーアップした免疫細胞(T細胞やNK細胞)を再び体に戻すLAK療法が注目されたが、効果は不十分だった。
TIL(腫瘍浸潤Tリンパ球)療法:がんを見つける能力を人工的に持たせたT細胞を使って、がんへの攻撃力をさらに高めた療法:血液中のキラーT細胞を用いたTIL(腫瘍浸潤Tリンパ球)療法がおこなわれたが、一部の患者に効果がみられるのみであった。
がん抗原特異的T細胞療法:遺伝子組み換え技術を用いてがん抗原の受け皿であり、がん抗原に特異的な「T細胞受容体(TCR)」を持ったT細胞を、大量に体外で作成し投与する方法や「キメラ抗原受容体(CAR)」ともったがん抗原特異的T細胞による治療法の研究も進んでいる。
がんを直接攻撃する抗体療法:免疫細胞のうちB細胞は「抗体」を産生し、異物を攻撃する。この抗体を人工的に合成して治療する方法が「抗体療法である」抗体には、攻撃に使う武器としての役割だけでなく、たくさんの遺物から目印のある異物のみを見分ける役目もある。がん細胞にだけある物質や正常な細胞よりもガン細胞により多く存在する物質を目印として抗体を作成するとガン細胞に抗体が結合し、その抗体を目印として免疫細胞が集合し集中的にガン細胞を攻撃できる。また、抗体が結合することにより、がん細胞の増殖を抑制する効果もある。最近では、がん細胞の増殖のための栄養を取り入れる血管の増殖をブロックする抗体なども開発されている。
樹状細胞は、がん細胞を攻撃するリンパ球にがん抗原を提示する免疫細胞で、樹状細胞を培養して行う治療法が「樹状細胞ワクチン療法」と呼ばれている。
がん抗原は、多数あるが、現在多くの施設で行われているがん抗原は、大阪大学の杉山治夫教授により発見された「WT1ペプチド」が使用されている。下記のような多数のがんにおいて発現している。
参考サイト:
オプジーボの非小細胞肺がんの適正使用ガイドライン
国立がん研究センター がん情報サービス 免疫療法
小野薬品工業株式会社 oncology