2018年6月25日
演題「秘める優しさを持つ剤型とは」
演者:昭和大学薬学部社会健康薬学講座社会薬学部門教授 倉田なおみ先生
場所:ホテル、ニューグランド
内容及び補足「
栄養不良の状態があると、栄養サポートを行う必要がある。
栄養サポートを必要とする絶対的な適応は、
1. 中〜高度の栄養不良
2. 高度の侵襲に伴うカタボリズム(異化)亢進
3. 経口摂取が長期間出来ない場合
目安としては、
1. 通常体重よりも10%以上減少している場合
2. カタボリズムの強いやけどや様々な原因で食べることができない場合
がある。
栄養法には、
1. 経口投与
2. 経腸栄養法
3. 静脈栄養法
がある。
嚥下困難のグレードとして以下の評価がある。
(藤島一郎,大野友久 他:「摂食・嚥下状況のレベル評価」簡便な摂食・嚥下評価尺度の開発.リハ医学43:S249,2006)
それぞれの嚥下障害の程度によりいろいろな嚥下調節食が薦められる。
こういった嚥下調節食を取っている際に薦められる投与薬剤の剤型について考えてみる。
取り扱いやすい薬剤剤型としては、粉や水薬よりは錠剤の方が取り扱いやすい。
味やにおいがマスクされている方が飲みやすい。
硬い塊でない剤型が望ましい。
これらの条件を満たす薬剤型としてはOD錠(口腔内崩壊錠)が挙げられる。
実際健常者でカプセル薬を飲み込む状態をレントゲンで透視した際に、いくら水を飲んでも、ノドの下の方にへばり付いて、いくら追加で水を飲んでもらっても落ちていかないことがあった。食事を食べてもらってやっと胃に落ちて行った。水にぬれている指でカプセルを触った際にへばり付いてしまう状況である。これを避けるためには、ゼリーで覆ったり、トロミをつけたりする必要がある。
長期に渡り経管栄養が行われている症例においては、投与薬剤をつぶして投与していることが多い。一般的な薬剤は、塩基性のものが多く、苦いものが多いので、糖衣錠にしたりして、苦みをマスクしている。これをつぶしえしまうと苦みを感じることになるので、原則錠剤をつぶして投与することは避けたほうが良い。
そこでお薦めする薬剤の投与法として簡易懸濁法を考案した。
「つぶし」処方であっても、錠剤をつぶしたり、カプセルを開封したりしないで、投与時に錠剤・カプセル剤をそのまま水に入れて崩壊・懸濁させる方法。
カプセルを溶解させるために、約55℃の温湯に入れて自然放冷する。水に入れて崩壊し内常在の場合には、錠剤表面のフィルムに亀裂を入れて水に懸濁・崩壊しやすくする。
http://www10.showa-u.ac.jp/~biopharm/kurata/kendaku/index.html
カプセルは、水50mlを加え、37℃±2℃に保ちながらしばしば振り動かすと10分以内に溶けると規定されている。10分間放置して37℃以下にならない最低温度が55℃であったのでこの温度を使用することにした。
55℃の温湯を作成するのが面倒と思われる方が多いので、55℃の温湯作成方法を示す。
ポットのお湯と水道水を2:1の割合で混ぜると約55℃の温度になる。お湯の出るじゃ口のミズを一番熱くするとほぼ55℃の温度になる。
水剤瓶に一回服用する全部の薬と55℃の温湯20mlを入れてかき混ぜ、約10分間自然放置して投与する。
http://www10.showa-u.ac.jp/~biopharm/kurata/kurata_method/index.html
ただし、薬剤のインタビューフォームの記載で、55℃で安定性に問題のある薬品は簡易懸濁法に適していない。また、経管投与ハンドブックでは原薬が10℃以下で不安定なシクロフォスファミドやカリジノゲナーゼなどの薬剤は簡易懸濁法不適としている。
http://www10.showa-u.ac.jp/~biopharm/kurata/kendaku/problem.html
経管投与薬時の問題点が下記表のように従来の粉砕法より利点が多い。
また、錠剤粉砕、カプセル開封調剤時の問題点も幾つか解消される。
参:錠剤取り扱いやすさ、飲み込みやすさを考慮して、おおむね重量100〜500?、直径6〜15?のものが多く、円盤形、レンズ形、竿形など様々なものがある。
用法による分類:
内服用錠剤
口腔用錠剤:嚥下せず口腔内で溶解させて使うもの。口腔粘膜から有効成分を吸収させるバッカル錠や舌下錠、咽頭の消毒などに使うトローチ錠がある。
外用錠剤:ウガイなどの際に溶かして使う溶解錠や膣錠がある。
コーティングによる分類:
素錠(裸錠):成形したままの錠剤
コーティング:錠薬剤の安定化、矯味、矯臭などの目的で裸錠の表面に均一に被膜を施したもの。白糖による糖衣錠、水溶性高分子によるフィルムコーティング錠がある。また、胃酸により影響を受ける有効成分を、酸性では不溶性のコーティング剤で被膜した腸溶錠がある。
特殊錠:
チュアブル錠:服用時噛み砕いて使う錠剤。制酸剤など比較的容量の多い医薬品に使われる
口腔内崩壊錠(OD錠):唾液で崩壊する錠剤で有効成分の吸収は消化管。水なしでも服用できる
舌下錠、バッカル錠:舌の下または歯茎と頬の間に入れて溶かし、有効成分を口腔粘膜より吸収させる錠剤
持続性錠(徐放性錠):溶解性の異なる基剤などを使い、一定時間持続的に有効成分が放出されるように調整した錠剤
アックスマトリックス錠:体内で徐々に崩壊する徐放化基剤に有効成分を分散させた錠剤
グラデュメット錠:多孔質の不溶性樹脂に有効成分をしみこませた錠剤
多孔性被膜錠:不溶性で微細な穴の開いた被膜を施した錠剤
多層錠: 放出性の異なる複数の層からなる錠剤。速溶錠と徐放錠を単純に重ねたスパンタブ、速溶錠の核に徐放錠を入れたロンタブ、速溶錠の核に腸溶錠を入れたレベタブがある
有核錠:錠剤の中に別の錠剤を埋め込んだもの
スパスタブ:速溶錠の中に徐放性の顆粒を分散させたもの
レジネート:イオン交換樹脂を使った錠剤
これらの特殊坐位は、簡易懸濁法にあまり適していないと考えられる。
タケプロンは、胃酸に出会うと効果がなくなるので7層構造で作られており、簡易懸濁法でも、問題なく薬効が期待できる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/49/4/49_KJ00010109460/_pdf/-char/ja
この簡易懸濁法で問題視される点の一つに、水に溶かしてから飲むまでに薬剤の変化が挙げられる。しかし、従来の粉砕調剤したものは、調剤した時点から薬に酸化などの変化が生じることになるが、簡易懸濁法においては、投与10分前から生じることになり、かなりの時間が短縮されることになる。また、口腔内崩壊錠を利用すると、この時間がより短縮できる。
速崩錠と口腔内崩壊錠の違いは、口の中で吸収されないことが確認されたものが口腔内崩壊錠であり、確認されていないものが速崩錠である点である。
1錠だけOD錠にするメリットはないと考える医師が多いが、OD錠1剤と通常錠剤1剤の2剤と、通常錠剤2剤の内服を、口に入れて15秒後にそれぞれ飲み込むことをしてもらった研究では、8割以上の人が、OD錠が入っている方が飲み込みやすいと評価してくれた。15秒間でOD錠が崩壊するので、1錠を飲むことと同じ状況になっているためと考えられる。
高齢者においては、小さい錠剤はつかみにくいのである程度の大きさのものが良い。
OD錠として13〜15?の大きさのものでも口の中で溶けてくるので、飲み込む際に問題となることはなかった。
今までは、大きさの面からOD錠か出来なかった薬剤においても、15?の大きさであれば、可能となるものは少なからずあると考えられるので、より一層OD錠かをしてもらえると、薬剤投与、服薬の際のメリットは得られるので、各製薬会社の努力を期待したい。
参:キーワードでわかる臨床栄養
http://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch1-3/