2018年6月28日
演題「潰瘍性大腸炎に対する便移植〜腸内フローラの解明を目指して〜」
演者:順天堂大学医学部付属順天堂医院消化器内科学講座 准教授 石川 大 先生
場所:
内容及び補足「
腸内細菌数 数100兆個、 1000種類、1-2?の重量
人間の総細胞数よりも多い。
産道を通るときに外界と接触し、菌を摂取することになり3歳で基本的なMicrobiotaが完成するといわれている。
帝王切開で生まれた子供は食物アレルギーやアトピーが多いといわれている。
帝王切開によって生まれた新生児を母親の膣液に暴露すると、経腟分娩で生まれた新生児とよく似た微生物相(人の身体に生息している微生物集団)が発達することが明らかになった(膣内微生物移行:vaginal microbial transfer)。
https://www.nature.com/articles/nm.4039
しかし、微生物の移行は完全ではなく、長期的な臨床経過は調べられていない。
腸内細菌叢は、一卵性双生児でも同じではない。
人種によって偏りがある。
環境因子、食物によっても変わり、日本人特有のものもある。
海藻に含まれる多糖類を分解できる酵素を持つ腸内細菌が日本人に多く、ほとんどの人に存在するが、アメリカ人は10%しか存在しない。
コアラはユーカリの歯を分解する菌を母親のお尻をなめて手に入れる。
パンダは笹の葉を分解できる腸内細菌を持っている。
中国では4世紀に食中毒や下痢を治すために人便の懸濁液を口から投与する方法が記載されている。Should we standardize the 1,700-year-old fecal microbiota transplantation? The American journal of gastroenterology 107: 1755; author reply p 1755-1756, 2012.
医学分野における論文は1958年に、外科医であるEisemanが報告した、偽膜性腸炎に対する症例報告が初見であろう。
Surgery 44: 854-859, 1958
2013年に再発性のClostridium difficile感染症(CDI)に対して、バンコマイシン治療では31
%の治癒率であったものが便移植(Fecal Microbiota Transplantation)では81%であり、非常に画期的な治療法であることが示された。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1205037
潰瘍性大腸炎に対するFMTは、1989年に最初の症例報告(The Lancet. 1989;333:164)がなされ、同じグループから6例の潰瘍性大腸炎にFMTを行い3か月後に全例で寛解が得られたと報告している(J Clin Gastroenterol. 2003;37:42-47.)。
2015年に炎症性腸疾患に対するFMTの有効性を検討した2つのランダム化プラセボ対照試験がある。Moayyediらは、注腸による週一回のFMT施行群とプラセボ群で6週間移植を施行し7週後の寛解率を主要評価項目とした試験では、プラセボ群で2/37例5%であったのに対し、FMT群では9/38例24%で有意に高かったとした。
(Gastriebterikigy.2015;149(1):102-109.)
一方Rossenらは、軽度から中等度の潰瘍性大腸炎患者に対して、経鼻十二指腸チューブを用いて、健常人ドナーの糞便を移植する群と、事故の糞便を移植する群で比較検討した。治療開始時と開始三週間後に二回便移植を行い、12週間後の内視鏡所見の改善を伴う臨床的寛解率を主要評価項目とした。寛解率は、事故便移植では5/20例20%で、健常人ドナー移植は7/23例30.4%で有意差はなかったと報告している。
活動性潰瘍性大腸炎患者81例に3〜7人のドナーからの8週間のあいだ週5日便移植を行う治療において、Steroid-freeに持っていけるかどうかをprimary endopointとした研究が行われた。FMT群では11/41例27%、プラセボ群では8%と有意な差を認めた。しかし、この治療法は現実的なものではないといえる。
FMT試験結果がさまざまである理由として、人間の細胞よりも多い菌がいる中に、僅かな菌を移植しても効果が無いことがあげられる。偽膜性腸炎においては、抗生剤の投与により腸内細菌が極端に減少していることにより、劇的な効果が示されていると考えられる。そこで、便移植を行う前に抗生剤投与を行って腸内細菌を減らす抗生剤併用便移植療法(Antibiotics-FMT:A-FMT)の有効性を検討した。
アモキシリン1500?メトロニダゾール750?、ホスホマイシン300?を便移植前の前処置として投与した。
2014年7月から2016年3月にかけて41例の潰瘍性大腸炎患者さんをA-FMT群21例、抗生剤単独治療20例とし、腸内細菌叢の変化について次世代シーケンサーを用いて解析した。
A-FMT群では21例中17例が治療を完遂し、14人82.4%に有効性を認めた。一方、抗生剤単独群では20例中19例が治療を完遂し、有効性を認めたのが13人68.3%であり、治療4週間の経過においてはA-FMTの治療効果が高かった。
腸内細菌叢分析では、抗生剤療法後には腸内細菌のバクテロイデス門の割合が著明に減少する。便移植療法後4週間で効果があった症例では、バクテロイデス門の割合が有意に回復し、効果がなかった症例では、バクテロイデス門の回復を認めなかった。バクテロイデス門の回復は、潰瘍性大腸炎の病勢を表す内視鏡スコアとの相関も認めた。一方、抗生剤単独群では、治療後4週間経過してもバクテロイデス門の割合の回復は十分でなく、回復した症例と治療効果の関連性は認めなかった。
この結果は、ドナー便中のバクテロイデス門が治療効果と秒性にかかわっていることを示しており、抗生剤を併用することで便移植による腸内細菌の移植がより効率的に達成できることを示唆していると考える。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000021495.html
海外のサイトでは、CDIに対しては90%、潰瘍性大腸炎に対しては27〜66%、クローン病に対しては30〜86%、過敏性腸症候群に対しては46〜73%、便秘に対しては40〜89%有効であると記載され、気軽にウンチカプセルが購入することもでき、便バンクもビジネスとして動いている。
日本においても1回100万円以上で計6回1セットの高額治療費で行っている医療施設もあり、問題である。