2018年6月17日
演題「指定難病 強皮症」
演者:東海大学医学部内科学系リウマチ内科教授 佐藤慎二先生
場所:
内容及び補足「
全身性強皮症(Systemic Sclerosis:SS):皮膚や内臓の効果を特徴とし、慢性に経過する疾患。5〜6年で進行する典型的な症状を示す『びまん性皮膚硬化型全身性強皮症』と進行はないか、緩徐に進行する軽症型の『限局皮膚硬化型全身性強皮症』に分けられる。
疫学:2005年の登録数は33014人で0.5〜2人/1万人。男女比は1:10で女性に多く、30〜60歳代に好発する。
病態:原因はまだ十分に解明されていないが、免疫異常、線維化、血管障害が関与していると考えられている。線維芽細胞でのコラーゲン合成が高まっている。約90%の症例に抗核抗体が検出される。また、ほとんどの症例にレイノー現象がみられ、血管内皮細胞を傷害する因子が存在する。
ビニルクロライド、エポキシ樹脂などの化学工場に長年勤務し、これらの物質に接触している人に強皮症が多くみられる。乳房形成術や隆鼻術でシリコンやパラフィンを体内に注入した10〜20年後に強皮症を発症する人がいる。抗癌剤のブレオマイシンを使用した人や骨髄移植を受けた人に強皮症類似の皮膚硬化が見られることがある。
http://derma.w3.kanazawa-u.ac.jp/SSc/ssc/index.html
症状:
レイノー症状(98%):寒冷刺激で手指が蒼白〜紫色になる症状で、初発症状として最も多い。
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa7/img/s2_q06_01.jpg
皮膚硬化(100%):手指腫脹から始まり、手背、前腕、上腕、体幹とからだの中心部分へと進行する。全例でdiffuse型のように皮膚硬化が体幹まで進行するわけではなく、limited型では体幹までの効果は稀である。
http://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/images/article/12113_02.jpg
その他の皮膚症状:毛細血管拡張(64%)、色素沈着(56%)、色素脱失(27%)、皮膚の石灰沈着(25%)、爪上皮(爪のあま皮)の黒色出血点、指尖部虫喰状瘢痕、指尖部潰瘍などがみられる。
http://sogahifuka.com/blog/wp-content/uploads/cb4aa4545e78d262aedc03a334242436.jpg
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/der/_src/sc300/NFB.jpg
https://www.torii.co.jp/hifu/gakujutsu/clinical_derma/images/clinicalderma_vol19_no2.pdf
逆流性食道炎(58%):食道下部の硬化が生じ、食道蠕動低下により生じる。
肺線維症(55%):もっとも重要な臓器合併症。悪化により空是木や呼吸困難が生じ、酸素吸入が必要となる事もある。Diffuse型で比較的よくみられる。
口腔症状:舌小帯短縮or肥厚(44%)、開口障害(26%)
http://www.linkclub.or.jp/~entkasai/zetutan-preope2.jpg
強皮症腎クリーゼ(5%):腎血管の傷害により、腎血管性高血圧が生じ、急激な経過で腎不全に至ることがある。血清学的にMPO-ANCAが陽性例で見られることがある。非高血圧性腎クリーゼと呼ばれる。
その他の症状:手指の屈曲拘縮(37%)、関節炎(29%)、心電図異常(23%)、、ミオパチー(19%)、吸収不良(8%)、肺高血圧症(5%)、心外膜炎(3%)、偽性イレウス(3%)、便秘、下痢、右心不全などが起こる。
診断基準 2010年
大基準
手指あるいは足趾を越える皮膚硬化*
小基準
1)手指あるいは足趾に限局する皮膚硬化
2)手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは指腹の萎縮**
3)両側性肺基底部の線維症
4)抗Scl-70 (トポイソメラーゼI)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性
診断のカテゴリー
大基準、あるいは小基準1)かつ2)〜4)の1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断
* 限局性強皮症(いわゆるモルフィア)を除外する。
* * 手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く。
二段階つまみ法による皮膚硬化スコア(modified Rodnan
TSS)
本法における皮膚硬化における
重症度分類(全身性強皮症診療ガイドライン)
2013年
分類基準(米国/欧州リウマチ学会)
* 手指硬化のない場合、類似する疾患(腎性全身性線維症、全身性斑状強皮症、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、紅痛症、ポルフィリン症、硬化性苔癬、移植片対宿主病、糖尿病性手関節症など)には適応しない
* 合計9点以上で全身性硬化症と分類する
(Arthritis Rheum. 65:2737-47, 2013 / Ann Rheum Dis. 72:1747-55, 2013)
全身性強皮症の病型
検査:
1. 抗核抗体:抗核抗体は大多数の例で陽性となる。抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼ?抗体が疾患特異抗体であり、臨床的病型と密接に相関する。これらの抗核抗体は、症状に先立って出現し、1人の患者では通常1種類の抗体のみ陽性になる。また経過中に陰性化したり、他の抗体が新たに出現したりすることは少ないため、出現する症状や予後の予測に有用である。一方、力価が変動することも少ないため、疾患活動性の指標とはならない。
2. その他の血液検査:KL-6やSP-Dは間質性肺炎の、BNP、NT pro-BNPは肺高血圧のスクリーニングに有用である。
3. キャピラロスコピー(毛細血管顕微鏡):より早期に診断・治療する目的で、爪郭部の毛細血管に特徴的な形態学的異常を観察する。また血管障害の重症度や活動性の評価にも有用である。
4. 胸部X線・CT、呼吸機能検査、心臓超音波検査:間質性肺炎や肺高血圧症のスクリーニングや評価に有用である。胸部X線・CTでは下肺野の間質性変化、呼吸機能検査では拘束性障害と拡散能の低下を認める。
5. 食道造影:抗コリン薬を用いない食道造影で造影剤の停滞がみられる。
6. スキンスコア(TSS: modified Rodnan total skin thickness score) :母指と示指の指先で小さくつまんだ感じ(small pinch)と、末節指腹で大きくつまみ上げた感じ(large pinch)を、手指はPIPとMCP関節の間をつまむ。一つの部位で硬化に違いがある場合は最大のスコアを採用する。0-3点、採点17カ所は、手指、手背、前腕、上腕、大腿、下腿、足背(ここまで左右)と顔、前胸部、腹部17カ所で採点(最大51点)する。
治療:
皮膚:手指潰瘍、壊死に対してPGE1、リポPGE1、ベラプロスト、ボセンタン、ニフェジピン徐放剤などが用いられる。
消化器病変:逆流性食道炎や潰瘍に対してはPPI、H2Blocker、モサプリド、ドンペリドンが、下痢、イレウス、吸収不良症候群に対しては、モサプリド、ジメチコン、六君子湯などが用いられる
血管病変:強皮症の血管病変進行の阻止と、血管のリモデリングを指向して、エンドセリン受容体拮抗薬、プロスタグランジン製剤、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシン2受容体拮抗薬、抗酸化薬としてニコチン酸トコフェロール、抗血小板薬が用いられる。
線維化病変:線維化病変の進行を阻止する目的でいろいろな薬剤が試みられているが、確立された治療法はない。繊維かは不可逆的な病変であるので早期治療が重要。Diffuse型では発症から3年以内、diffuse型で皮膚硬化が進行性(数か月から1年以内に進行)、活動性の肺線維症を認め、肺機能が保たれている場合(%VC>60%)であれば、ステロイドやシクロフォスファミド、タクロリムス、メトトレキサート、シクロスポリンAなどを用いて治療を行う。
肺高血圧症:PDE5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、エンドセリン受容体拮抗薬、プロスタグランジン製剤が用いられる。
強皮症腎:ACE阻害薬、アンジオテンシン2受容体拮抗薬が用いられる。
異所性石灰化:ジルチアゼム、コルヒチン、エチドロン酸2ナトリウムが用いられる。
予後:
皮膚症状主体で臓器病変が進行しない限り予後は良好。Limited型の予後は10年生存率70%程度とされる。
生命予後を規定する重篤な病態・臓器病変として以下のものがある。
急性/亜急性に進行する間質性肺炎
肺高血圧症
強皮症腎
MPO-ANCA関連血管炎
TMA(thrombotic microangiopathy:血栓整備小血管障害症)
心外膜の石灰化による心不全
心嚢液大量貯留による心タンポナーデ
重症不整脈
極度の末梢循環不全による四肢切断
消化管の偽性閉塞ないし吸収不全による低栄養
参考サイト:
難病センター 強皮症
順天堂大学医学負付属順天堂医院
全身性強皮症診療ガイドライン
強皮症研究会議