指定難病 皮膚筋炎 佐藤慎二教授
2018-07-06 16:36
川村内科診療所
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2018617日 

演題「指定難病 皮膚筋炎」

演者:東海大学医学部内科学系リウマチ内科教授 佐藤慎二先生

場所:

内容及び補足「

疫学:皮膚筋炎は2009年度の厚生労働省特定疾患治療研究事業における臨床調査個人票の解析では、罹患患者数は約17000名と推定されている。毎年10002000人が新規に発症していると推定されており、現在では20000人以上と推定される。

男女比は1:3で女性に多く、514歳に小さなピークがあり、4556歳に多くみられる。

 

疾患概念・病態:主に大腿や上腕などの四肢近位筋、さらに体幹や頚部の筋肉を中心とした横紋筋に持続的な炎症を引き起こし、同部位の筋肉痛や筋力低下を来す疾患。

患者血清からは抗Jo-1抗体をはじめとした多彩な自己抗体が検出され、その病態形成に免疫機能の異常が大きく関与することが推定されており、膠原病に群類されている。

臨床的には、筋症状のみ呈する場合をPMpolymyositis 多発性筋炎、多発筋炎)、ゴットロン徴候やヘリオトロープ疹、関節伸側の落屑性紅斑など、特徴的な皮膚症状を伴う場合をDM(dermatomyositis 皮膚筋炎)としている。

PM/DMは筋肉や皮膚症状以外に、悪性腫瘍や間質性肺炎の合併が高率であり、これらの合併症は生命予後を左右する。特にDMにおいて、その傾向が強くみられるため、注意を要する。

筋症状が典型的な症例では、血液検査において、血清クレアチンキナーゼ(CK)やクレアチン、ミオグロビン、アルドラーゼ(Ald)などの筋原酵素が上昇を示すことがほとんどであるが、amyopathic DMなど、皮膚症状や肺病変が著明で筋症状に乏しく、筋原酵素の上昇がみられない症例も存在する。

Jo-1抗体はPM/DMに特異性が高い自己抗体であるが、陽性率は20%前後と高くない。近年では多数の筋炎特異的自己抗体(myositis-specific autoantibodiesMSAs)が同定されている。

 

診断基準:

1975年にBohan & Peterの診断基準が臨床の場で多く用いられてきた。

Bohan & Peterの診断基準

    ?四肢近位筋、頚部屈筋の対称性筋力低下

    ?筋原性酵素の上昇

    ?筋電図で筋原性の変化

    ?筋生検で筋線維の壊死や変性、萎縮所見、炎症細胞の浸潤

    ?ヘリオトロープ疹やゴットロン徴候、関節伸側の落屑性紅斑など

 

本邦においては1992年厚労省自己免疫新患調査研究班によりPM/DMの診断基準が提唱され、2015年に改訂された。

厚労省自己免疫疾患に関する調査研究班の改訂診断基準(2015年)

<主要項目>

    皮膚症状:

        ヘリオトロープ疹:両側又は片側の眼瞼部の紫紅色浮腫性紅斑

        ゴットロン徴候:手指関節背面の角質増殖や皮膚萎縮を伴う紫紅色紅斑

        四肢伸側の紅斑:肘、膝関節などの背面の軽度隆起性の紫紅色紅斑

    上肢又は下肢の近位筋の筋力低下

    筋肉の自発痛又は把握痛

    血清中筋原性酵素(クレアチンキナーゼ又はアルドラーゼ)の上昇

    筋電図の筋原性変

    骨破壊を伴わない関節炎又は関節痛

    全身性炎症所見(発熱、CRP上昇、又は赤沈促進)

    Jo-1抗体陽性

    筋生検で筋炎の病理所見:筋線維の変性及び細胞浸潤

<診断基準>

    皮膚筋炎:1.皮膚症状aからc1項目以上を満たし、かつ経過中に2から9の項目中4項目以上を満たすもの

    多発性筋炎:2から9の項目中4項目以上を満たすもの

<鑑別除外を要する疾患>

    感染性による筋炎

    薬剤誘発性ミオパチー

    内分泌異常に基づくミオパチー

    筋ジストロフィーその他の先天性筋疾患

 

<重症度分類>

以下のいずれかに該当する症例を重症とし、医療費助成の対象とする。

1)原疾患に由来する筋力低下がある。

体幹・四肢近位筋群(頸部屈筋、三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、腸腰筋、大腿四頭筋、大腿屈筋群)の徒手筋力テスト平均が5段階評価で4+ 10段階評価で9) 以下

又は、同筋群のいずれか一つのMMTが4(10段階評価で8)以下

2)原疾患に由来するCK値もしくはアルドラーゼ値上昇がある。

3)活動性の皮疹(皮膚筋炎に特徴的な丘疹、浮腫性あるいは角化性の紅斑、脂肪織炎*が複数部位に認められるもの)がある。 *新生または増大する石灰沈着を含む

4)活動性の間質性肺炎を合併している(その治療中を含む。)。

 

症状:

全身症状:発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲低下、体重減少

筋症状:緩徐に発症して進行する体幹、四肢近位筋群、頸筋、咽頭筋の筋力低下が多くみられる。嚥下にかかわる筋力の低下は、誤嚥や窒息死の原因となる。進行例では筋萎縮を伴う。

皮膚症状:以下の皮膚所見がみられる

上眼瞼の浮腫性紅斑(ヘリオトロープ疹):上眼県の浮腫性かつ紫紅色の紅斑

手指の関節背面の角化性紅斑(ゴットロン丘疹):手指関節背側面の角質増殖、落屑や皮膚萎縮を伴う紫紅色の角化性紅斑

爪上皮の延長と点状出血を伴う爪囲紅斑

多形皮膚萎縮(Poikiloderma):色素沈着、脱失、萎縮が混在した局面を呈する皮膚所見

機械工の手(メカニックの手)母指の尺側面および第25指の橈側面から時に掌側に達する裂溝を伴う角質化(間質性肺炎合併と相関)

 

皮膚科Q&A

https://www.dermatol.or.jp/qa/qa7/s2_q07.html

Vネック徴候:前胸部紅斑

http://sogahifuka.com/blog/wp-content/uploads/d9bc714408e1fc4bcf435a810ccdfc29.jpg

ショール徴候:頸部から肩・上腕にかけての紅斑

http://sogahifuka.com/blog/wp-content/uploads/23b753522b3e4677e15b08c022f0a6b6.jpg

レイノー現象:約30%の症例に見られるが、強皮症のように皮膚潰瘍や手指壊疽に進行することは少ない。

 

肺炎:4050%に間質性肺炎を伴う。PM/DMに合併する慢性型と急性型に分かれる。慢性型間質性肺炎の合併例は抗Jo-1抗体などの抗ARS抗体が高頻度に検出される。慢性型間質性肺炎の組織像はNSIPを呈し、PSL反応性も良好なことが多い。急速進行性肺炎に対して、PSLとシクロスポリンの併用療法が有効との報告もある。3割程度の患者で筋症状よりも呼吸症状が先行するとされている。

PM例では抗Jo-1抗体陽性例が多く予後が良い。亜急性の経過をたどる例も器質化肺(OP)やNSIPが大部分でステロイドによる改善が期待できる。DMに合併する間質性肺炎の20%は急速進行性で、治療抵抗性で予後不良である。抗ARS抗体が陰性で筋症状やCKの上昇も軽度でヘリオトロープ疹やゴットロン徴候などの典型的な皮疹がある筋症状を伴わない皮膚筋炎(Amyopathic Dermatomyositis)では急速進行性の間質性肺炎を合併しやすい。組織学的所見としてはDADを呈し、ステロイドに抵抗性で予後が不良である。

ことがあり、生命予後を左右する。

悪性腫瘍の合併:一般人口と比較し、DMで約3倍、PMでは2倍弱合併しやすい。皮膚筋炎で悪性腫瘍を発症する場合と、悪性腫瘍の随伴症候群として皮膚筋炎を発症する場合がある。原因悪性腫瘍としては、日本では、胃癌が多く、欧米では大腸癌が多い。

155/140抗体(抗TIF1−γ:transcriptional intermediary factor 1-gamma抗体):DM以外の膠原病ではほとんど検出されず、悪性腫瘍合併のDMにおいては50%以上で陽性となる。

 

検査:筋症状が顕著である症例では筋原酵素である血清CKやクレアチン、ミオグロビン、アルドラーゼの上昇がみられる。ASTALTも筋原酵素であるため、肝機能障害を除外することも必要である。

自己抗体:PM/DMに特異的に検出されるJo-1抗体の陽性率は20%前後である。本抗体はアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)の一つであるヒスチジルtRNA合成酵素である。

近年他のARSに対する複数の子自己抗体が同定されさまざまな検討が行われている。これらの抗体陽性群は、陰性例に比べ、関節炎やIP、皮膚病変などにおいて臨床的な特徴がみられ、抗ARS抗体症候群として分類されている。

難治性症例で抗SRP抗体、clinically amyopathic dermatomyositisCADM)で特異的にみられる抗CADM-140抗体、shawl signとの関連が報告されている抗Mi-2区小田井、強皮症とのオーバラップ症例で検出されやすい抗PM-Scl抗体や抗Ku抗体などが知られている。

http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000065.html

臨床リウマチ.25:149-158,2013から引用

 

筋電図では、安静時に線維性攣縮、positive sawtoothed potentialを示し、随意収縮ではcomplex polyphasic short durationを認める。機械的な刺激を加えると、pseudomyotonic potentialsなど筋原生変化を主とした所見を認める。

MRIの選択的脂肪抑制法であるSTIR法で、筋肉の炎症部位に一致して高信号を呈する。

筋生検でPMでは、炎症部位の筋線維の壊死所見とCD8陽性T細胞の浸潤がみられる。DMでは、筋束周囲の壊死像と血管周囲へのCD4陽性T細胞の浸潤がみられることが多いとされているが、組織所見のみでPMDMを区別することは不可能である。

 

治療:基本的にはステロイド(体重あたり0.51.0?)を中心として免疫抑制剤を組み合わせて投与する。

 

予後:

肺病変や悪性腫瘍などの合併症の有無により予後は大きく左右される。

全症例の5年生存率は、約80%前後とされる。悪性腫瘍の合併がなければ、5年生存率は90%、10年生存率は80%。本症の再発率が6割とする報告もあるので、再発や病態の維持に留意しつつ、肺病変や悪性腫瘍の合併に警戒して診察・検査を行っていく必要がある。

 

指定難病 皮膚筋炎/多発性筋炎

http://www.nanbyou.or.jp/entry/4079

順天堂大学医学部付属順天堂医院膠原病・リウマチ内科

https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/kogen/about/disease/kanja02_10.html

ウィキペディア:皮膚筋炎

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%AD%8B%E7%82%8E

 

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