2018年7月21日
演題「帯状疱疹・単純疱疹の治療戦略」
演者:精霊見方原病院院長補佐兼皮膚科部長 白濱 茂穂先生
場所:関内新井ホール
内容及び補足「
ヘルペスウイルスは2本鎖DNAをゲノムとする大型の動物ウイスルで、現在までに様々な動物から150種類以上のウイルスが分離されている。
白木公康 先生、富山大学大学院医学薬学研究部 ウイルス学教授
哺乳類はもちろん、鳥類、両生類、爬虫類、魚類などから多種類のヘルペスウイルスが発見されており、種固有のヘルペスウイルスが存在すると推定されており、人においては、単純ヘルペスウイルス1型、2型、水痘帯状疱疹ウイルス、ヒトサイトメガロウイスル、Epstein-Barrウイルス、ヒトヘルペスウイルス6、7、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスの8種類が知られている。
本田まりこ先生(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター皮膚科)
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染は、多くの人が小児期に罹患する水痘として発症する。感染したVZVは水痘治癒後も神経節のDNAの中に潜伏感染し、加齢やストレス、疲労などで免疫力が低下したときに、再活性化が起こり、帯状疱疹として回帰発症する。
帯状疱疹は、痛みや違和感が皮疹に先行して現れる。その後「片側性」「帯状」といった特徴的な所見を持つ皮膚症状が出現し、激しい痛みを伴う。通常、紅斑・丘疹、水疱・膿疱、糜爛・潰瘍、痂皮を経て、三週間程度で皮膚症状は消失するが、その後も帯状疱疹後神経痛(PHN)として痛みが残ることがある。
帯状疱疹であっても、皮疹が毛嚢炎のように見えたり、単純疱疹のように見えたり、皮疹の外観のみで判断が困難な場合も少なくない。
困難な場合は水疱の内容物や糜爛・潰瘍の拭い液を用いた簡易キット:デルマクイックVZVが診断上有益である。
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ivd/PDF/730155_22900EZX00036000_A_01_01.pdf
臀部に見られる皮疹の場合、帯状疱疹が原因であることもあるが、頻回に出現する場合には単純ヘルペス(臀部ヘルペス)の可能性も考えておく必要がある。
ヘルペスの皮疹は一般的には片側性、帯状に出てくるが、脊髄でダメージを受けている場所は、その神経節のみではなく、上下に幅広くウイルスが感染していたり、炎症を起こしていることが少なくない。
皮疹もときに同時に多発性に皮疹が出現することがある。2箇所に出現する場合には複発性帯状疱疹、3か所以上であれば、多発生性帯状疱疹と呼ばれ、複発性帯状疱疹は、非部の分布パターンにより、両側性対称性、両側性非対称性、片側性の3型に分類される。
その頻度は、0〜2.17%である。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/skinresearch1959/37/2/37_2_279/_pdf
ヘルペスの治療薬として
1988年にゾビラックス(アシクロビル)200?錠が出て1992年4月より400?錠が日本で発売が開始され、800?を1日5回経口投与が必要であった。
その後2000年10月にバルトレックス(バラシクロビル)500mgが発売され、1000?1日3回投与となった。
2008年7月にはファムビル250?が発売され、500?1日3回投与となった。
しかしこれらの薬剤は、全て腎排泄の薬剤であり、しかも薬理作用は、2本鎖DNAがほどけた時に転写される際に作用して、新しいヘルペスウイルスDNA合成を阻害するものである。
https://stat.ameba.jp/user_images/20170826/23/aki-prism/b0/25/j/o0500028714013848714.jpg?caw=800
つまり、ウイルスを死滅させるものではなく、1個が2個に増えるものを阻止しているものであり、投与量が多ければそれだけ早くよくなるものではない。できるだけ早期に投与して、ウイルスの増殖を抑制する薬剤である。しかも腎排泄であるから、腎機能を正確に把握していないと過剰投与となる恐れがある。
アシクロビル脳症:
アシクロビルは、血中での蛋白結合率が低く、組織・体液間の移行が良好な薬物であり、脳脊髄液中への移行も良好で、血中の約50%である。腎障害時には血中濃度や脳脊髄液中の濃度の異常高値となりアシクロビル脳症を起こすことがある。
症状としては、興奮、振戦、錯乱、幻覚、ミオクローヌスなどを呈し、重篤な場合には昏睡や死に至る。
血液透析患者においては特に注意が必要である。
透析患者以外でもアシクロビル脳症となった人がいて、血清Cr濃度は0.75mg/dLであった。eGFR=57.7であり、投与量は1回1000?を8時間ごとの状態であるが、Coclcroft-Gault式のクレアチニンクリアランスは31ml/min(表では34)となり、1回1000?を12時間ごとの投与量となる。
特に高齢者の痩せられた症例では、eGFRでクレアチニンクリアランス値を推定して投与すると過剰投与となる。
https://www.maruho.co.jp/medical/famvir/pdf/seminars/hzt01.pdf
87歳の女性でバラシクロビルが1000mg×2回/日で6日間投与された。治療に対する反応が思わしくないと判断され紹介受診。4か月前の血清クレアチニン濃度は0.69mg/dL、受診時問診では尿量の減少はなく、悪心・?気もなく、いったん帰宅としたが、紹介もとの最後の血液データで血清クレアチニン濃度が4.23mg/dLに上昇していることが判明し、急きょ腎臓内科絵照会入院となった。クレアチニンクリアランスを計算すると29.9ml/minであり、適性投与量は1000?×1/日にまで減量すべきであった。
入院後の尿沈渣に、バラシクロビルの活性態であるアシクロビルの針状の結晶が細長く重合したと考えられる紐状の尿沈渣初見を認めた。アシクロビルは、糸球体からの濾過および尿細管からの分泌によって尿中に排泄されるが、尿での溶解度は低く、また腎臓の尿濃縮機構により腎臓内濃度は血中濃度と比較して約10倍高くなる。尿細管から集合管内で結晶化し、閉塞性の腎障害をきたしたと考えられる。
79歳女性で血清クレアチニン濃度が0.8mg/dLで、体重47?であり、クレアチニンクリアランスを計算し42.3ml/minであったため、バラシクロビル1000?×2回で4日間投与された。投与開始3日後に乏尿と気分不快があり、検査結果より急性腎障害が認められた。併用投与されていたロキソニンによる影響で、PG産生が抑制されたために腎臓を含めた組織血流量が減少したため、バラシクロビルの排泄遅延が生じたための腎障害と考えられた。
以上のことを踏まえると、帯状疱疹で高齢者においての疼痛治療としては、通常のNSAIDsを使用せず、アセトアミノフェン(カロナール)1800〜2400?分3〜4の投与にするべきと考える。
重症度分類
軽症:神経節の支配領域に縞状の皮膚病変が数個みられるもの
中等症:軽症と重症の中間のもの
重症:1.病変が広範囲で、多くの神経皮膚分節にまたがって、一面に発疹が出現している。2.個疹が大きく、血疱を形成している。あるいは水疱の周囲に赤みがなく、全身に水痘様の発疹が多数みられる。3.合併症を伴う。4.免疫不全者
帯状疱疹後神経痛:
皮疹消失3カ月以上たっても頑固な神経痛が残存。VZVが感染した神経が障害された慢性的な痛みで、高齢者に多く、通常は1〜3カ月で消失するが、10〜20%のケースで1年以上持続し、稀に10年以上続くこともある。
汎発性帯状疱疹:
通常の帯状疱疹とともに、全身に水疱が出現する。免疫不全状態にある高齢者や免疫抑制剤使用例、悪性腫瘍の症例に見られる。皮膚のウイルスが血管内皮細胞内で増殖し、ウイルス血症を起こしたもの。汎発疹の約10%は肺や肝臓、脳にも波及し、水痘症と同じくらいの感染力があるため、入院時は個室対応となる。
ラムゼイ・ハント症候群:
顔面陰茎が侵され、耳の発疹と顔面神経の麻痺、めまい、味覚の障害を伴うことがある。
https://damrn710kg0uo.cloudfront.net/data/qpics/production/image/306/102A-44.jpg
https://imgcp.aacdn.jp/img-a/800/auto/aa/gm/article/4/4/2/2/0/9/facebefore.jpg
眼部帯状疱疹:三叉神経第1枝領域に発症する帯状疱疹
ウイルス性眼瞼炎で角膜炎を伴う頻度が高いのは、単純ヘルペス1型とVZVである。
表のような違いがある。
皮膚所見:上眼瞼を含む三叉神経第1枝領域に疼痛を含む数mmの浮腫性紅斑が出現、2〜3mm大の小水疱となり、びらんを形成し痂皮化する。
眼所見:皮膚と同側の眼瞼、結膜、強膜、虹彩毛様体、網膜、外眼筋とさまざまな部位にウイルスの直接侵襲、炎症、循環障害などを原因とする多様な症状がみられる。
http://www.kawazoe-nshp.or.jp/info0211/q&a/biyou/biyou_ga/toobobi02.jpg
https://ヘルペス侍.com/wp-content/uploads/2017/12/u1v.jpg
発症早期からのアシクロビルの全身投与と眼症状の重症度に応じた適切なステロイド店癌治療が有用。
眼軟膏併用の有無では、治癒率に差は出ていない。
注意しなければいけないのは、眼症状が遅れて出てくることもあり、涙液中のVZV DNA量を測定した研究では数カ月にわたって大量に検出されており、重症例では数か月治療を継続する必要があることもあり、眼科医に初期からコンサルトすることが望ましい。
急性網膜壊死:急性に主に片眼性に霧視、飛蚊症、視力低下で発病し、数週間の急性な経過で高度の視力低下を来し、数か月のうちに網膜剥離、視神経萎縮、網膜血管閉塞、網膜変性萎縮などの重極な眼合併症を生じて失明に至る。その多くが単純ヘルペス1型、2型,VZVの感染である。
尾崎らの報告では過去15年間に診断した急性網膜壊死12例15眼を報告している。男性9例、女性3例、19〜72歳(平均47歳)、単純ヘルペスウイルス7例、VZV5例。全例足黒ビル投与し、1眼にも無膜光凝固、1眼に強膜輪状締結術、11眼に強膜輪状締結術と硝子体手術を行ったと報告している。
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1410104009
2017年7月3日
アメナメビル200?(アメナリーフ)が発売された。この薬剤は、ヘルペスウイルス増殖の初期段階に働くヘリカーゼ・プライマーゼ複合体に作用し、ヘリカーゼ・プライマーゼ活性を直接阻害することで2本鎖DNAの開裂およびRNAプライマーの合成を抑制し、ヘルペスウイルス増殖を初期段階で阻害する。
https://1.bp.blogspot.com/-_Oi9kYBCXek/WVu0qReP5mI/AAAAAAAACDc/930C91jWouk1GuBlgkkAiIlrtgXED7v3QCLcBGAs/s1600/ameamevir01.PNG
アメナメビルは主に糞便中に排泄されるので腎機能による薬物動態への影響が小さく、クレアチニンクリアランスに応じた投与量設定の必要がない。
但し、食後に投与しないと、血中濃度は半減してしまう。
臨床評価試験では、アメナリーフ錠400?とバラシクロビル3000mgの非劣性試験である。
主要評価項目は、投与開始4日までの新皮疹形成停止率で、服地評価項目は、新皮疹形成停止までの日数、完全痂皮化までの日数、治癒までの日数、疼痛消失までの日数、ウイルス消失までの日数である。
https://www.maruho.co.jp/medical/amenalief/products/clinical.html
皮疹に対しての外用薬の有効性の明確な根拠はない。
単純ヘルペス感染の場合、皮疹が治ったと思っても、神経節内にウイルスが増殖している状態はおさえこめていない可能性があるので、投与された日数分しっかり抗ヘルペス薬を飲む必要がある。
38546人の60歳以上を対象とした3年観音追跡調査で957名の帯状疱疹が発症したが、Oka株をもとに作成されたZOSTAVAXを使用したワクチンを接種した群では51.3%、PHNは66.5%抑制することができた。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa051016#t=article
ZOSTAVAX接種後の発症阻止効果の持続性については、接種後4〜7年間では、帯状疱疹発症とPHN発症が、それぞれ39.6%、60.1%減少し、疾病による死亡や損失した生活の質を示す疾病負荷は50.01%減少することが明らかにされた。また、接種後7〜11年間では、帯状疱疹とPHN発症が、それぞれ21.1%、35.4%減少し、疾病負荷が37.3%減少したと報告されている。さらに、60歳以上の176,078人を対象とした研究では、ワクチン接種後1年以内の帯状疱疹発症阻止効果はワクチン非接種者と比較して68.7%で、接種8年目ではその効果は4.2%であったと報告されている。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000151542.pdf
ZOSTAVAXのワクチンとしての強さは24600(8700-60000)pfuとされており、日本で発売されている微減は30000pfu以上とされており、同等の効果が期待できる。
参考サイト:
Maruho:帯状疱疹の基礎
帯状疱疹ワクチン ファクトシート2017年2月10日
慶應大学病院 Kompas