低尿酸血症による腎障害 足利栄仁 先生
2019-09-02 17:57
川村内科診療所
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2019829日 

演題「低尿酸血症による腎障害」

演者: 横浜市立市民病院腎臓内科 足利 栄仁 先生

場所: ホテルプラム

内容及び補足「

尿酸は人におけるプリン体の最終代謝産物である。

健常者において、尿酸は、肝臓などで約700?/日産生され、その約2/3が腎臓から、残り約1/3が消化管など腎外から排泄される。

尿酸は腎の糸球体で100%濾過された後、近位尿細管でほとんどが再吸収される。最終的に尿中に排泄される尿酸の量(約610%)は主にこの近位尿細管での再吸収高率により規定されている。尿酸を再吸収し原尿側(尿管側)から血管側へ細胞膜を通過させる尿細管再吸収トランスポーターと、血管側から原尿側へ尿酸を分泌するトランスポーターは尿酸排泄トランスポーターがあり、遺伝子変異により尿酸再吸収トランスポーターの機能が低下すると尿酸排泄が亢進し血清尿酸値が低下する腎性低尿酸血症(RHUC)が1950年に初めて報告された(J Lab Clin Med 35 865-868 1950)。

症例 40歳 男性 

主訴:腰痛、倦怠感

20155月運動場で400m走の練習を繰り返し行った。翌日倦怠感と腰痛あり、Cr 2.2で紹介入院となる。タバコ20本×10年、会社員

170? 77? 36.9℃、121/85mmHg 57/分・整

身体所見上異常所見なし

WBC 8100 Hb 16.2 Plt 12.8 HbA1c 5.2 BS 87 TC 167 TG 57 CRP 0.6 Alb 4.2 TB 0.7 AST 18 ALT 30 LDH 192 CPK 240 rGTP 32 K 4.4 Cr 1.9 BUN 22.2 UA 1.7 ANA <40 ANCA -

尿pro - glu - ob - FENa 1.5% FEUA 46.7%(正常値:5-11%)

超音波所見で腎臓、尿管 異常所見なし、

脱水による腎前性腎不全は否定的で尿所見でも異常所見なし。尿酸の尿中排泄の増加があり低尿酸血症が原因で急性腎不全となったと考えられ、自宅安静で経過観察し、Cr 1.3まで低下し、翌週は1.0まで改善した。 

腎性低尿酸血症:日本人およびユダヤ人に多い疾患で、日本人ではおよそ男性で0.2%、女性で0.4%と推定される。閉経前の女性で低尿酸血症の頻度が高い。その理由として女性ホルモンの血清尿酸値低下作用によってヘテロURAT1/SLC22A12遺伝子変異の血清尿酸値への影響が反映されやすいと考えられる。

ヒトの腎臓における生理学的な尿酸の再吸収は、主にurate transporter 1URAT1/SLC22A12)およびglucose transporter 9GLUT9/SLC2A9)を介して行われる。

RHUCのうちURAT1/SLC22A12遺伝子変異によるものを腎性低尿酸血症1型(MIN220150)、GLUT9/SLC2A9遺伝子変異によるものを2型(MIN612076と呼ぶ)。下図に示すように1型、2型の原因遺伝子変異は尿酸輸送機能がほぼ消失することが特徴である。

 

腎性低尿酸血症の合併症として、運動後急性腎障害(EIAKI尿路結石症がある。

尿路結石症の合併頻度としては、Ichidaらの報告のRHUC71名中68.5%Clin Genet 2008 74 243-251)、厚労省斑会議の全国アンケート調査179名中116.1%であった。

EIKAIはミオグロビン尿性急性腎障害に比べて、強い強度の無酸素運動(短距離全力走、サッカー、筋肉トレーニング、自転車競技、重量挙げなど)により発症しやすく、先行する風邪症状での、消炎鎮痛剤の服用が多い。年齢の中央値は19歳で男女比な202:18と男性に圧倒的に多い。運動後の1時間から48時間後までに尿路結石症を疑われるような背部痛や嘔気・嘔吐などの自覚症状を認め、ミオグロビン尿性急性腎障害に比し、脱水の程度は強くなく、非乏尿性である。血清CPK(正常の9倍以内)やミオグロビン(正常の7倍以内)の上昇は軽度で、赤褐色尿(ミオグロビン尿)は認められない。AKIの持続日数は平均で14日と報告されている(日内会誌 2010 99 970-976)。

EIAKIの頻度はIchidaらの報告では71名中15名(21.1%)に既往が認められ、全員男性であり、男性43名で見るとEIAKI既往頻度は34.9%と高率であるが大学病院受診例であったためと評価されている(Clin Genet 2008 74 243-251)。

Ishikawaは血清クレアチンキナーゼ値や血清ミオグロビン値が正常範囲内かやや上昇程度のEIAKIで、血清尿酸値が評価可能であった96例中約半数の49例(51%)がRHUCであったと報告している(Nephron 2002 91 559-570)。別の報告によるとEIAKI201例中、RHUCを伴った患者は116例(57.7%)との報告もある。再発の頻度については221例中43例(19.5%)に再発が認められている(痛風と核酸代謝 2010 34 145-157)。また、運動後急性腎障害には、可逆性後頭葉白質脳症といわれる急性期に神経症状を伴った脳浮腫を呈する症候群の報告もある(Nephrol. Dial. Transplant 2004 19 1447-1453)。

予防としては尿酸合成にかかわるキサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)の酸化酵素型であるキサンチンオキシダーゼ(XO)からの活性酸素による腎血管収縮がRHUC患者におけるEIAKI発症に寄与しているという仮説に基づき、運動選手に対して運動時のアロプリノロー投与によって骨格筋から産生される逸脱酸素の減少やミオグロビン賛成が抑制される報告(Cell Stress Chaperones 2015 20 3-13)や、RHUC患者に対するアロプリノロール投与が運動時の尿中尿酸排泄を低下させ、EIAKIを予防したという報告(Am J Med 2014 127 e3-4Am J Kidney 1995 25 937-946)がなされている。

腎性低尿酸血症1型(Renal hypouricemia type 1RHUC1):W258X 変異が多く、次いでR90H

変異が多く、E298D変異、T217M変異などが報告されている。一つの変位で6.24.04?/dL、二つあると0.6mg/dLへと低下することが報告されている。ヘテロの変位では2.13.0mg/dLと、尿中尿酸排泄率は3070%程度である。

腎性低尿酸血症2型(Renal hypouricemia type 2RHUC2):R380W変異とR198C変異などが知られている。RHUCよりも頻度は少ないが、尿酸排泄率はホモ変異の場合は100%を超えることも多い。

腎性低尿酸血症の診断は、血清尿酸値が2.0mg/dL以下であること尿中尿酸排泄率FEUAまたは尿酸クリアランスの上昇を認めること、他の低尿酸血症を否定できることが必須である。

尿酸クリアランス、クレアチニンクリアランス試験実施法は、以下に示すとおりである。

計算式は以下のようになる。

腎性低尿酸血症の診断の際に鑑別すべき疾患としては以下のような疾患群がある。

参:

痛風と核酸代謝 Vol. 34 2010, 145-157

日児腎誌 Vol. 22 2009, 147-151

腎性低尿酸血症診療ガイドライン

 

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