2019年11月26日
演題「めまい治療の手札を増やす! −めまいリハビリと治療薬の選択−」
演者:横浜みなと赤十字病院 めまい並行神経科部長 新井 基洋 先生
場所: ビジョンセンター横浜
内容及び補足「
2009年めまい平衡医学国際学会であるBarany Societyがめまい平衡障害に関する症候の新分類を提唱した。
Vertigo:自己運動感のあるめまい
Spinning Vertigo
Non-spinning Vertigo
Dizziness:自己回転感の不明確な空間識の障害
浮動感、浮遊感
Unsteadiness:身体の不安定感
めまいの治療薬は45年前より新薬が無く、治療のトピックはリハビリである。
Drug Therapy
1. 抗めまい薬
メリスロン:めまい時の過剰ヒスタミンのVNへの影響を打ち消す
トラベルミン:抗ヒスタミン ?気・?吐に効く 眠気
アデホス:アデノシンとなりプリン受容体を介し血管拡張作用がある
セファドール:?気・?吐の中枢抑制
各種漢方製剤:半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)KB-37、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)KB-39
2. 循環改善薬
アデホス
カルナクリン
3. 抗不安薬、抗うつ剤:前庭系システム、眼振抑制する、抗うつ薬
メイラックス、セディール、SSRI、SNRI、NASSA
リハビリ
一側性前庭障害代償不全
加齢性平衡障害とフレイル
BBPV
メニエール病
前庭性片頭痛の治療
PPPD持続性知覚性姿勢誘発めまい
みなと赤十字病院の救急外来を受診しためまい患者は男性が女性の三倍多い。
約8割が耳の疾患で、次いで心疾患である。右冠動脈の約半数で眩暈が認められる。3番目に多いのは脳卒中であり、特に小脳疾患で眩暈が出る。
女性の眩暈のほとんどは耳が原因、男性で65歳以上の眩暈の場合は脳や心臓が原因である場合が少なくないので大きな病院に搬送する必要がある。
N=283名のめまい感じゃ統計での病名は以下の頻度であった。
めまいのリハビリは現在以下の三点を中心に行われている。
1. 前庭系リハビリ
2. 平衡訓練
3. めまいの運動療法
めまいのリハビリテ―ションで平衡障害が改善すると、自律神経、さらに睡眠障害、不安障害の改善と自信回復から社会復帰につながる。
動体視力の改善:前庭運動時めまい軽減と頚性眼反射介入の増進
耳石機能改善:体性感覚や自律神経機能改善
個々の「めまい」疾患の臨床的特徴
一側性前庭障害代償不全
回転性めまい発作が主であるが、突発性で一過性の眼前暗黒感や歩行や規律の際に特に頭重感を持ったりバランスが悪くなったりする。
蝸牛症状は全く伴わない。
責任病巣は、半規管、耳石器から前庭神経系に至る基質疾患。
30〜50歳代の患者に多く、性差はない。
何らかの発熱疾患、または耳鼻咽喉科領域の感染症のエピソードがある。
急性発症で持続性の回転性めまい。
非患耳側へ向かう水平回旋混合性自発眼振、起立時不安定性(閉眼時に患耳側への転倒)。嘔気・?吐がみられる。
Head thrust試験で患耳側に回旋させたときの眼球運動が遅くなる。
カロリックテストにて反応低下(重度または中等度)が異常所見として必ずある。
前庭神経以外の神経疾患は認めない。
ガルバニックテスト(直流電気刺激検査)で反応が低下し、Scarpaの神経節(前庭神経節)よりも中枢側の病巣を示す。
良性疾患で、感染病巣の治療によく反応して治る。
加齢性平衡障害とフレイル
高齢になると筋力が低下し、ふらつきが生じてくる。加齢性平衡障害には、この筋力低下であるフレイルが関与している。この状態を放置すると要介護状態になり、バランス・平衡システム全体に障害が出てくる。
参:フレイル Frailty
アメリカのFreidらが提唱した概念で、要介護状態に陥る前の高齢者の虚弱した状態を指す。
1 体重減少、2 疲労感、3 活動度の低下、4 歩行速度の低下、5 筋力の低下のうち三つ以上を満たす倍をフレイルと診断する
https://www.jamda.com/article/S1525-8610(13)00182-5/fulltext
BBPV:良性頭位変換性めまい
一番多い疾患。耳石(大きさ約0.01nm)がはがれて症状は出現するが、百粒ほど落ちて塊にならないと症状は出ない。
40歳以降の中高年に見られ(50-60歳台最多:男性:女性=1:3)、発作時の耳鳴りや進行性の難聴といった蝸牛症状は伴わない。
頭位・体位の変換(起居動作、寝返り、後方や上方を見る動作の後の特定の頭位)長くても1分以内(多くは数秒)の回転性のめまいが出現する。後半規管型では、起床・就寝時、上方視時に多く、水平半規管型では寝返り時に多い。
頭位変換とめまいの出現の間に1〜数秒程の潜時がある(見られないときもある)。同じ動作を繰り返すと次第に強度が減弱する(疲労現象)。
自発眼振や注視眼振は確認できないことが多く、Frenzel眼鏡を用いての頭位試験、頭位変換試験で、方向交代制で回旋性の一過性眼振が認められる。
多くは2〜3週間以内に収まる。平均すると水平半規管型で7日、後半規管型で17日。
耳石は角砂糖のようなもので、水の中に入れておくと自然に溶ける。後述するリハビリをやって耳石の位置をより良い位置にずらさなくても、こまめに動いていれば、角砂糖を入れた水をかき回すことになり、早く溶けてよくなる。
発生率は10万人当たり10.7〜64例、生涯罹患率24%、年間再発率15%
2014〜2015年度と2016〜2017年度の診断基準化委員会で検討し『めまいの診断基準化のための資料 診断基準 2017年改訂』(Equilibrium Res Vol.76 233-241, 2017)で頭位変換性めまいは以下の4つに分類されることになった。
1 後半規管結石症
2 外側半規管型結石症
3 外側半規管クプラ結石症
4 すでに自然寛解したprobable BPPV
参:BPPVは耳石器から剥離した耳石が半規管内に迷入することにより生じ、その病態には半規管結石症とクプラ結石症の二種類がある。迷入した耳石が頭位変換時に動くことにより、半規管内に内リンパ流動が生じ、その結果クプラが偏倚し、めまい、および眼振が生ずる病態が半規管結石症であり、迷入した耳石がクプラに接着することによりクプラの比重が増し、めまい頭位を取ると重力方向にクプラが偏倚し、めまい、および眼振が生ずる病態がクプラ結石症である。
日本めまい平衡医学会とBarany学会のBPPVの新診断基準にて、後半規管内に耳石が迷入した後半規管型半規管結石症、外側半規管に耳石が迷入した外側半規管型半規管結石症、外側半規管のクプラに耳石が接着した外側半規管型クプラ結石症の三つのタイプがBPPVであるとされ、自然寛解されたと考えられるものは、probable BPPVと診断されることになった。
BPPVの頻度は約半数が後半規管型半規管結石症であり、残りの二つが20-24%程度である。
参:診断基準
メニエール病
20分〜2-3時間続く回転性めまい発作が一側性の耳鳴り・難聴、自閉塞感を伴って生じる。初期には難聴は変動・改善するが次第に聴力を喪う。
前庭性片頭痛(片頭痛性めまい)
欧米では、再発性自発性のめまいで最多の原因といわれ、前庭障害性めまいではBPPVに次いで多いと言われている。本邦では欧米より少ないと考えられるが、まだまだ見過ごされている。
自発性ないし頭位性めまいや頭を動かすときの乗り物酔い様の不快感があり、頭痛や感覚過敏を伴う。めまいと頭痛の時間的関係は一患者内でも患者間でもさまざまである。睡眠不足や月経などの誘因によることがある。発作間期には異状がなく、発作中には中枢性ないし末梢性の自発眼振や中枢性頭位眼振、軽度の運動失調を伴う。
PPPD持続性知覚性姿勢誘発めまい
2017年にBarany SocietyがPersistent Postural-Perceptual Dizzinessの診断基準を策定した。
A. 浮動感、不安定感、非回転性めまいのうち一つ以上が、3ヶ月以上にわたってほとんど毎日存在する。
? 症状は長い時間(時間単位)持続するが、症状の強さに増悪・軽減がみられることがある。
? 症状は1日中持続的に存在するとは限らない。
B. 持続性の症状を引き起こす特異的な誘因はないが、以下の3つの因子で増悪する。
? 立位姿勢
? 特定の方向や頭位に限らない能動的あるいは受動的な動き
? 動いているもの、あるいは複雑な資格パターンを見た時
C. この疾患は、めまい、浮動感、不安定感を引き起こす病態、あるいは急性・発作性・慢性の前庭疾患、他の神経学的・内科的疾患、心理的ストレスによる平衡障害が先行して発症する。
? 急性または発作性の病態が先行する場合は、その専攻病態が回復するにつれて症状は基準Aのパターンに定着する。しかし、症状は初めに間欠的に生じ、持続性の経過へと固定して行くことがある。
? 慢性の疾患が先行する場合は、症状が緩徐に進行し、次第に悪化していくことがある。
D. 症状は、顕著な苦痛あるいは機能障害を引き起こしている。
E. 症状はほかの疾患や障害ではうまく説明できない。
注記:前庭症状
Dizziness(浮動感):空間認知の混乱や障害に伴う非運動性の感覚
Unsteadiness(不安定感):立位あるいは歩行時の不安定な感覚
Internal non-spinning vertigo(内的な非回転性めまい):自分自身が揺らぐ、揺れ動く、上下に揺れる、弾むという疑似運動感覚
External non-spinning vertigo(外的な非回転性めまい):それに類似した外界の運動感覚
立位姿勢:起立あるいは歩行のこと。立位姿勢の影響に特に過敏な患者は、支えのない財で症状が増悪すると訴えることがある。
能動的な動作:患者が自ら起こした動作のこと。
受動的な動作:患者が乗り物や他人によって動かされること。乗り物やエレベーターに乗る、動物に乗る、人込みで押されるなど。
視覚刺激:視覚環境の中の大きな物体(行きかう車、床や壁紙のごてごてした模様、大画面に表示された画像)の場合もあり、あるいは近距離からみた小さな物体(本、コンピュータ、携帯用の電子機器)の場合もある。
PPPDを発症させる頻度の高い病態は、末梢性または中枢性の前庭疾患(PPPD症例の25〜30%)、前庭性片頭痛の発作(15〜20%)、顕著な不動感を示すパニック発作または不安(それぞれ15%)、脳震盪またはむち打ち症(10〜15%)、自律神経障害(7%)である。
Equilibrium Res Vol.78 228-229 2019
(J Vestib Res 27:191-208, 2017)
めまいのリハビリは、小脳の平衡機能を鍛えることで、ふらつきやめまいの症状を軽減することである。
小脳は飛行機を操縦しているパイロットといえる。
飛行中に片側の内耳が障害され、プロペラが回らなくなると飛行機は不安定となり、めまい・ふらつきが生じる。
プロペラを少しでも動かし、操縦桿を上手く操作することにより飛行機のバランスをより良い状態に保つことができる。この操作がリハビリテーションである。
めまいは片側の三半規管の機能低下により前庭神経核(バランスの神経の核)の機能が低下し、回転性めまいと眼振が出現する。
片側の前庭障害が出現すると小脳が働き始め、前庭系の左右差を軽減するように働く。この機序を
小脳の中枢代償という。安静にしていると小脳の中枢代償は出てこないし、逆にこの中枢代償の機序を促進する平衡訓練を行うと回復が早くなる。
耳(前庭系)、眼(眼運動系)、足の裏(深部知覚系)を有効に刺激する訓練である。
米国では医師のみでなく、理学療法士によっても下記のリハビリテーションが行われている。
a) Habituation/Compensatory:症状を起こしやすい動作を繰り返し訓練することにより症状を軽減する純化訓練
b) Adaptation/Gaze Stabilization:前庭動眼反射の適応を図る適応訓練
c) Substitution:視覚や体性感覚による刺激により前庭感覚を代用する代用訓練
d) Canalith Repositioning Maneuver:BPPVの標準治療法として耳石置換方法
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jser/76/2/76_79/_pdf/-char/ja
みなと赤十字病院でのめまいのリハビリテーションは以下の24のリハビリを行っている。
坐位でのリハビリ
レッスン1(目線を変えた時のめまい改善)
1番:速い横 2番:速い縦 3番:ゆっくり横 4番:ゆっくり縦
レッスン2(頭を動かした時のめまい改善)
5番:振り返る 6番:上下 7番:はてな(首を左右に傾ける)
立位でのリハビリ
レッスン3 立位でのレッスン(直立時のめまい、ふらつき改善)
8番:立つ、座る 9番:立位開脚 10番:立位閉脚
11番:50歩足踏み・100歩足踏み 12番:つま先立ち
13番:片脚立ち
レッスン4 歩行のレッスン(歩行時のめまい、ふらつき改善)
14番:5m8の時歩行 15番:5m継ぎ脚歩行
16番:ターン 17番:ハーフターン
仰臥位でのリハビリ
レッスン5 ベッド上(良性発作性頭位めまい症)のレッスン
18番:寝返り 19番:寝起き 20番:自分で行うエプレ法
21番:自分で行うレンパート法 22番:ベッドチルトホッピング
特別レッスン
23番:振り上げ 24番:背筋トレーニング
『めまいは寝てては治らない』中外医学社
一側性前庭障害代償不全
馴化・前庭代償促進が目標
Gaze Stabilizationが中心となる。
手を前に出し親指を立てたまま固定して、頭を30°ずつ左右に振りながら目は親指を見続ける。20回、数を数えながら、親指から目線を外さないようにして頭を左右に振る。このリハビリでクラッとくるということは、めまいを直すのにこの方法が有効である可能性が高い。首が悪い人や高齢者の場合にはゆっくり行い、過剰にやりすぎないこと。
眼が離れたほうの三半規管が悪い。下図では左の三半規管が悪い。
参:グルグル回転を頻回に行うフィギアスケート選手は、生まれつき回転しても目が回らないのではなく、訓練により開店した後の目の揺れを急に止めることが可能なシステムを獲得することにより目が回らなくなる。
『バラニーの回転椅子』を用いた、頭部・体幹を前屈した姿勢で目を開けたまま椅子に座り、椅子を回転させてから停止させた後の目の揺れを見る検査で、回転の停止後は、半規管の慣性による内リンパ流動により、回転後眼振という回転中と逆向きの目の揺れが出現する。繰り返しこの検査をすると、小脳片葉を介する前庭神経核抑制が起こることにより止めた後の目の揺れが出にくくなるRDレスポンス・ディクライン現象が出現する。
めまいのリハビリは、上記の機序をうまく使い、バランスの左右差を改善していく方法である。
BBPV:良性頭位変換性めまい
両性頭位変換性めまいの原因である耳石器は、親指は小指をくっつけた際の残り三本の指が三半規管と考えられる。人差し指が前半規管で、中指が外側半規管、薬指が後半規管に該当する。
外側半規管のリハビリは、18、19、21、22、後半規管のリハビリは19、20である。
後半規管型半規管結石症のエプレ法の効果は1時間後で67.6%、24時間時点では79.6%、と良好である。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/lary.28005
自分自身で行うエプレ法:後半規管型:寝起き型
夜床に就くときや、枕に頭をつけるときに『グルグル・フワーン』とめまいがする場合に行う。
首や腰が悪い人や骨粗鬆症が酷い人は避ける。
間隔をあけて1日3回:特に朝起きる時と夜寝る前に行うとよい。
1. ベッドに座る。悪い方向を向く。
2. そのまま寝る。30数える。
3. ゆっくりと反対を向く。30数える。
4. 寝返りをうつ。顔と鼻を下に向ける。30数える。
5. 起きあがる。
6. 下を向く。100数える。
寝返りをうつ時にグラッとする。外側半規管型:寝返り型
首や腰が悪い人や骨粗鬆症が酷い人は避ける。
間隔をあけて1日3回:特に朝起きる時と夜寝る前に行うとよい。
基本の姿勢から始めて3/4回転。1回転はしない。
悪い耳が分からない場合には18番(下図)の寝返りを行う。
ヘッドチルトホッピング法(山中ホッピング法)
BPPVと診断がついたにもかかわらず頻回にめまい発作を繰り返す人。外側半規管型クプラ型。耳石を半規管に落とし、耳石器に戻すための前段階のリハビリ。
右が悪い場合は、右に頭を傾け(チルト)、その場でホッピング。プールで右耳に水が入った時をイメージして行う。
左耳が悪い場合には左右逆にして行う。
なるべく壁などに手をついて行う。
膝が悪い人や人口膝関節術後の人は、ジャンプの代わりに、立って頭だけを振る。耳の中の水抜きをイメージして行う。
加齢性平衡障害とフレイル
高齢になると筋力が低下し、ふらつきが生じてくる。加齢性平衡障害には、この筋力低下であるフレイルが関与している。この状態を放置すると要介護状態になり、バランス・平衡システム全体に障害が出てくる。
重量に負けない筋力と平衡機能が必要 眼のリハビリテーション+フレイル・ロコモ対策の訓練が必要
筋力アップ、骨量維持、転倒予防のため短所をのばす訓練が必要
平衡障害→転倒リスク上昇→歩行速低下・活動量減少→食欲低下・体重減少→蛋白
うつ・社会的孤立→活動量減少 ロイシン
認知機能低下 ビタミンA・B・D
ミネラル
抗めまい薬の比較
慎重投与が無い分アデホスは使いやすく、セファドールは口渇・排尿障害などの副作用が7.63%とそれなりに見られ、慎重投与疾患は頻度が多いものが多く、頓服で使用するほうが良い。
参考サイト
標準的神経治療:めまい
めまいガイドラインの一覧