2014年4月7日 横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ
演題「SGLT2阻害薬の薬理作用を考える」
演者:聖マリアンナ医科大学代謝内分泌内科教授 田中逸先生
糖尿病発症機序は、インスリンの作用不足と分泌量の低下で考えられてきた。それぞれの病態に応じて最初に投与するべき薬剤がガイドラインで示されている。
空腹時の血糖調節は様々な臓器が関与して血糖値の恒常性を担っている。
このうち腎臓は、グルコースの濾過と再吸収ばかりでなく、解糖と糖新生も行っている。
肝臓だけでなく、腎臓において糖新生が行われており、通常では20%に関与しているとされている。血管が少なく低酸素化にある腎髄質では解糖により乳酸が産生され、酸素供給が比較的多い皮質では、乳酸やグルタミン酸などを基質として糖新生が行われており、髄質における糖の取り込み量と皮質における糖の方質量の差が、腎臓における糖新生量になっている。糖尿行患者では、肝臓だけでなく腎臓の糖新生も約3倍に更新している。
血糖値が低い時にはグルカゴンが放出され血糖値を上昇させるように働き、血糖値が上昇するにしたがって、グルカゴンの分泌が低下し、インスリンの分泌量が増大していろいろな組織に糖を運び込み、より高血糖になった際に腎臓から糖が配されることになる。
インスリンの抵抗性、インスリンの分泌不足に加え、グルカゴンの過剰分泌が、糖尿病の病態を悪化させていることがわかってきた。そこに過食が加わり、インスリンの作用不足と、グルカゴン作用の過剰が起こり、食後血糖値の上昇、空腹時血糖値の上昇が生じてくる。
食事負荷試験においての血中グルカゴンの変化を見た試験においては、正常人では食後30分においてグルカゴンの分泌は抑制がかかってくるが、耐糖能障害の人や二型糖尿病患者においては、グルカゴンの過剰分泌が同じように生じている。
MTT meal tolerance test
Fig. 3. Plasma glucagon concentrations during the MTT(Meal tolerance test) and the isoglycemic glucose infusion in controls and in T2D patients before (pre) and after (post) 6 wk of treatment with sitagliptin (A and C) or placebo (B and D). Time-course of intact GLP-1 and GIP concentrations in response to the meal (E and F).
腎臓の糸球体で血漿中の糖がほぼ濾過され、そのほとんどが尿細管のSGLT2とSGLT1で再吸収され、通常では尿中に糖が排泄されることはない。糖代謝に異常がない状況下においては、SGLT2で80〜90%が、SGLT1で残りの10〜20%が再吸収されている。
SGLT1は大腸や心臓、筋肉にも発現しているが、SGLT1は腎臓に特異的に発現しているといえる。
腎臓の糖排泄閾値は人によって異なるが、一般的に行って図のように尿細管中のグルコース濃度が上昇しても、ある一定量の再吸収ができるので尿糖として排出される量には隔たりがある。
この閾値は人によって異なるが、同一人においてもその時の状態により変化する可能性がある。
聖マリアンナ大学病院に入院された6例において入院当初と退院直前において尿糖排泄閾値の推定値をCGMの値と排泄尿糖量から推定した値で検討してみたところ、尿糖排泄閾値は183±26 mg/dlから144±10 mg/dlに変化した。
このことから、高血糖状態が持続することにより尿糖排泄閾値が上昇し、尿糖排泄量が減少し、血糖値のさらなる上昇が生じている可能性が示唆される。
尿細管中を流れているグルコースをSGLT2が尿細管細胞に引き込み、Na+/K+ATPaseを使って血管腔内にグルコースを搬送している。
高血糖になると尿糖の再吸収が増加し、尿糖排泄量が減少し、高血糖が助長される。
SGLT2の作用を、単純計算をしてみると、通常健康人においては、糸球体で180gの糖が濾過され、そのうちの160gがSGLT2で再吸収され、SGLT1で残りの20gが再吸収され、尿糖は陰性となっている。
SGLT2を100%阻害するとこのSGLT2での再吸収が0gとなるが、その反面SGLT1の機能は亢進し120gの糖が再吸収され、60gの尿糖が1日量として排泄されることになる。
SGLT2投与例において注意すべき点としては以下のものがあげられる。
グルカゴンの上昇とインスリンの低下があり、糖新生が増加することになるが、体内グルコースが減少している症例(肝硬変など)の際には、低血糖が心配となる。
食事の内容によらず、体重が減少することになり、食欲が亢進するので、生活習慣の乱れを助長する可能性がある。
運動不足(運動ができない人)、タンパク制限食の指導を受けている人、高齢者、やせている人においては、タンパク異化が亢進し筋肉量の減少をきたし、サルコペニアを進行させる危険性がある。
メトホルミンとの併用例においてシックデイの際や、夏場の脱水を悪化させ、乳酸アシドーシスの発症のリスクが上昇するので水分補給やメトホルミンの一時的な投薬中止を事前に検討しておく必要がある。
血糖値が上昇していない環境下においてケトン体が生じる症例があり、治療の中断、絶食、シックデイでの増悪が懸念される。