SGLT2阻害薬による心腎関連への影響 佐野元昭先生
2019-07-26 08:25
川村内科診療所
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2019712日 

演題「SGLT2阻害薬による心腎関連への影響」

演者:慶應義塾大学医学部 循環器内科准教授 佐野 元昭先生

場所:横浜ベイホテル東急

内容及び補足「

1990年から2010年の間に2型糖尿病の合併症の頻度は、米国においては下図のように心筋梗塞や脳梗塞は半減し、下肢切断の頻度も減少してきたが、末期腎不全(end-stage renal disease ESRD)に至る頻度はそれほど変化していない。

NEJM 2014 4 17 370 p1514-23

この図表の問題点は2010年までの変化しか見られないことである。1988年から2014年までの心血管危険因子の変化を男女別の糖尿病の有無で検討した結果を見てみると、非降圧薬や脂質低下療法の治療は年々増加し、より高頻度に治療がなされており、血圧は年々130/80以下にコントロールされている人は増えている。LDLコレステロールは男性では100?/dLにコントロールされている人の数は、女性の糖尿病患者では有意な変化はなかったが、それ以外の群では、コントロールされている患者数は増加している。HbA1c<7%のコントロールは女性においては増加しているが、男性では有意な変化はなかった。

BMC Public Health 2017 17:893

JAMAの報告を見てみると18-44歳では2010年以降糖尿病関連合併症は顕著に増加傾向に転じている。


JAMA. 2019 Apr 15; doi: 10.1001/jama.2019.3471.

死亡原因からみてみると糖尿病関連死は増加している

Lancet 2015 10 385 117-71

日本人の糖尿病患者8897人のうち42%にCKDの合併を認めている。

Diabetes Care 2007 Apr; 30(4): 989-992.

2型糖尿病患者はDCCTUKPDSKumamoto Studyなどの過去のいろいろな研究結果から、早期において厳格な血糖コントロール行うと最小血管障害の発症は10年後においての予後の改善を期待できるが、ACCORDADVANCEVADTなどの研究を見るとCKDを合併するなどの進行した症例においては、厳格な血糖管理は、予後の改善は見られないだけでなく、有害と考えられる結果も出ている。

CKDの合併のいかんにかかわらずStandard治療ではHbA1c 7.5前後、Intensive治療ではHbA1c 6.5前後にコントロールされた研究においてCKD合併群で予後は悪かった。


Standard治療とIntensive治療での比較では、CKD合併が無い群では心血管死や総死亡においての差はないが、CKD合併症例ではIntensive治療で予後が悪化していた。

重篤な低血糖症の発症頻度も有意にCKD合併例でのIntensive治療で多かった。

Kidney Int 2015 87 649-59

糖尿病の治療においては、CKDの合併があるかどうかをまず判断し、治療戦略を立てる必要がある。その場合には、メトホルミンにSGLT2阻害薬を投与することが薦められる。

Diabetes Care 2018 Dec; 41(12): 2669-2701.

Circulation 2018 23 138 1904-1907

SGLT2阻害薬を追加するとHbA1cの変化に関係なく予後を良くする。

NEJM 2001 345 851-860

1715人の2型糖尿病性腎症(平均一日蛋白尿2.9g、一日アルブミン量1.9gHbA1c 8.1-8.2%)を合併している高血圧患者の治療において、プラセボやアムロジピン投与群に比べイルベサルタン投与群では、プライマリ複合エンドポイントをそれぞれ20%、23%低下させた。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa011303

CREDENCEThe Canagliflozin and Renal Endpoints in Diabetes with Established Nephropathy Clinical Eavaluation trialではeGFR30以上90未満、尿中アルブミン/クレアチニン300を超え5000?/g以下の4401名の2型糖尿病の患者で検討された。

CANVASEMPA-REG OUTCOMEよりもより腎症の悪い人たちが対象となっている。

 

Am J Nephrol 2017;46:462-472

平均2.62年の期間でCanagliflozin投与群はプラセボ群に比較して、Primary outcome30%、ESKDやクレアチニン倍増、腎関連死については34%、ERKDに至る相対危険度を32%低下した。下肢の切断のリスクの有意な上昇なく、Canagliflozin投与群は心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心不全入院の危険度を有意に低下させた。

eGFR45 to <60ml/min/1.73m2の群でより大きな効果がみられた。

eGFRの低下曲線はプラセボ群で-4.59±0.14ml/min/1.73m2に対して、Canaglifrozin群では-1.85±0.13ml/min/1.73m2と大きな違いがみられた。

 1000人の患者に対して2.5年間のCanagliflozin治療はプラセボに対する予想効果は、プライマリ複合エンドポイントでは47人(NNT22)、ESKD、クレアチニン倍増及び腎関連死では36人(NNT28)、ESKDの減少効果は24人(NNT43)、心不全入院は22人(NNT46)、心血管死、心筋梗塞、脳卒中では25人(NNT40)の減少である。

New England Journal of Medicine 380(24) June 13,2019 2295-2306

機序としては以下のことが推測される。

健常人においては近位尿細管周囲の線維芽細胞はエリスロポイエチンを産生している。糖尿病患者においては、SGLT2を介した糖の再吸収が亢進しているため、Na+/K+ポンプが大量のATPを消費する。ATPの必要量が増すことにより近位尿細管において酸素の消費量が増加し、局所の低酸素状態を引き起こし、炎症性のサイトカインの放出が起こり、近位尿細管細胞にストレスがかかる。炎症性サイトカインがエリスロポイエチン産生線維芽細胞の変性を引き起こし、その結果エリスロポイエチンの産生が低下する。SGLT2阻害薬は、この糖の再吸収を阻害して、ATPの消費を減らし、近位尿細管の代謝性のストレスを軽減し、その結果低酸素や近位尿細管周囲の炎症を改善して、線維芽細胞におけるエリスロポイエチン産生を改善する。

Circulation. 2019 Apr 23;139(17):1985-1987. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.118.038881.

SGLT2阻害薬の2型糖尿病における心血管死、心不全入院、またはいずれかの危険度はベースラインのHbA1c値が75%以下であれば有意に低下する。12週間後におけるHbA1c の変化量でグループ分けした際には有意な差は認めなかった。

このことは、SGLT2阻害薬を投与して糖尿病のコントロールが改善しなくても、投与し続けることが有益である可能性を示唆している。

Circulation October 23, 2018 Vol 138, Issue 17 1904-1907

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