めまいの診断と治療 ―up to date― 肥塚泉 教授
2014-06-14 17:18
川村内科診療所
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2014年6月9日 横浜市立脳血管医療センター
演題「めまいの診断と治療 ―up to date―」
演者:聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科教授 肥塚泉先生
内容及び補足「
2001年の市中病院での宇野らの統計によると疑い例を入れると良性頭位変換めまい(BPPV)が40%を占める。

BPPVの特徴は回旋性が強いことである。EMGやEOG検査では機械の性質上垂直性変動は瞬きがあるため、弱く、回旋性の動きに対しては、電位があまり出ないので記録に出にくい。
Frenzel眼鏡が出てきて容易に診断できるようになった。
めまいを主訴として神経内科を受診した1332例の検討では、BPPV確実例が39%、疑い例が15%、緊張性頭痛が16%とこちらにおいても約半数がBPPVであった。
診断においては、病歴が重要で
靴紐を結ぶとき、洗濯物を干すとき、高いものを取るとき、歯科治療時、床屋などで横になって洗髪をするときに生じるめまい発作で我慢をすると軽くなったり、起こらなくなるもので、難聴、耳鳴りは伴わず、体のふらつきも自覚しない(症状の自覚の仕方による差もあるが)ものが多い。
めまい頭位を取ることにより、数秒の潜時をおいて症状が出現する。

参:めまいが発生する機序を見てみよう。
内耳は蝸牛と三半規管からなっている。

この三半規管の卵形嚢にある平衡斑に平衡砂(耳石)が乗っている。

拡大してみると有毛細胞の上に平衡砂膜(耳石膜)がありそこに耳石が乗っている。

此処から剥がれ落ちた耳石は平衡砂膜の周囲にある暗細胞に吸収され代謝される。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka1947/79/10/79_10_1213/_pdf
耳石を電顕で見てみるとこんな感じの円柱状の大部とその両端に三面構造を持つ形である。

この耳石が耳石膜からはがれ、半規管の膨大部にあるクプラに付着することにより半規管内のリンパ液の流れを乱して頭の動きを過剰に感知するために起こる症状である。
頭を動かしたときにリンパ液は一緒に移動するけれど、耳石はリンパ液よりも重いため、すぐには移動せず、壁にくっついて頭と一緒に移動する。位置が変わったことにより、この医師に働いている重力によって、より低い位置に耳石が移動し始めると頭を動かしていないのにリンパ液の流れができて、頭が動いたと勘違いしてしまい、10秒ほどの時間差を置いてめまいが起きる。難聴や耳鳴りを伴うこともなく、この耳石が移動して一番低い位置に落ち着くとめまいが消失するので、めまい発作の持続時間は長くても二分以上続くことはない。

めまいと眼振の関係を研究したFlourens(フルーラン)の法則がある。
* 外側半規管型の場合 (半規管結石型56.9%、クプラ結石型13.7%)
左外側半規管内に耳石が入って刺激が発生した場合、刺激を受けるのは右目の外側直筋と左目の内側直筋なので、水平方向の眼振が生じる。

* 後半規管型28.4%
左後半規管に耳石が入って刺激が発生した場合、刺激を受けるのは、右目の下直筋と左目の上斜筋なので、観察者からみて反時計方向の回転と下方への偏移が生じる(緩徐)相その後、眼球は急速に時計方向及び上方に動き(急速相)元の正中眼位に戻る。

* 前半規管型0.98%
前半規管が刺激を受けると左側の上直筋と右側の下斜筋が収縮するので、情報への偏移と観察者からみて反時計方向への回転が生じる(緩徐相)。その後眼球は急速に時計方向及び下方に動き(急速相)、正中眼位に戻る。

http://www.memai-pro.com/nystagmus/mechanism.htm
()内の各型の頻度は、松橋耳鼻咽喉科・内科クリニックのスライドの98例の頻度から引用した。
http://www.kumamotoh.rofuku.go.jp/medical/lecture/docs/%E3%80%8C%E3%82%81%E3%81%BE%E3%81%84%E3%81%AF%E3%80%8E%E7%9C%BC%E3%80%8F%E3%81%8B%E3%82%89%E3%80%8D.pdf#search=%27%E8%89%AF%E6%80%A7%E9%A0%AD%E4%BD%8D%E5%A4%89%E6%8F%9B%E6%80%A7%E3%82%81%E3%81%BE%E3%81%84+%E9%A0%BB%E5%BA%A6%27

めまいの診療は、身体診察と問診で75%診断できるとしている。
http://www.amjmed.com/article/S0002-9343%2899%2900260-0/abstract
一人の人にあまり時間をかけられない外来診療の中で、効率的に質問をするために、半構造化質問という手法がある。
主訴に対して『OPQRST』という質問をする方法である。
・O(Onset):発症様式
・P(provocative):誘因
・Q(quality):症状の性質
・R(related symptom):随伴症状
・S(severity):重症度
・T(temporal factor):時間経過
めまいのBPPVの情報に当てはめてみよう。
O:突然発症(緩徐に発症し悪化するものは中枢性の可能性が大)
P:頭位変換や立位で増悪 
Q:回転性めまいの75%が末梢性 血の気が引く感じ
R:耳鳴り、難聴、耳閉はない(あればメニエール)
S:目を開けていられない
T:一回のめまいは数十秒以内、長くても2分にはならない(前庭神経炎では数日)

参:人によって項目が異なり、一般的には、以下の略語としている人が多い。
・O(Onset):発症様式・P(palliative/provocative):増悪・寛解因子・Q(quality/quantity):症状の性質・ひどさ・R(region/radiation):場所・放散の有無・S(associated symptom):随伴症状・T(time course):時間経過

めまい発作が出なくなるまでに、外側半規管の場合16日、後半規管で34日といわれている。
体位変換によって外側半規管のBPPVのめまいを直すことができる。
色々な変法があるが、野上耳鼻咽喉科医院のHPの写真が分かり易いので以下に掲載する
http://www.nogamijibika.com/epley.html

ただし川村が診療所で行っている方法はこの方法とは少し異なる


座位(浮遊耳石の動きを黄色で示しています)

右45度頸部捻転して懸垂頭位を取る。浮遊耳石はクプラから離れていく

懸垂頭位のまま左45度に頸部捻転

さらに体全体を90度左へ回転

頭と体の位置関係を保ったまま体を起こす。浮遊耳石は後半規管の外へ出る。

Epley法で症状消失までに4.22日、眼振消失までに5.12日とされている。
型別では、Imaiらは108例のBPPV患者において体位変換による治療後に完全にめまいが消失するまでに後半規管型で39日、外側半規管型で16日かかったと報告している。
http://www.neurology.org/content/64/5/920.abstract
ただしこの方法で全例治るわけでなく8割前後とする報告が多い。後半規管型に対して、体位変換を行い、外側半規管に入ることもある。その際には水平眼振が出てくるので、分かる。
BPPVと骨密度の関係がいろいろと取りざたされている。

BPPVの発作回数が多い人ほど骨量が減少している人が多い。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jser/71/1/71_1_33/_pdf
近年内耳にVit Dの受容体があるとの報告もある。

参考HP:
http://www.hotweb.or.jp/shirato/memai-bppv.pdf
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