2014年7月22日 横浜市健康福祉総合センター
演題「高血圧UPDATE-JSH2014から尿細管レニンまで」
演者:横浜市立大学附属病院循環器内科准教授 石上友章 先生
内容及び補足「
今回の講演内容は、いくつかのテーマが盛り込まれていて、情報を追加しないとうわべだけのものになるため、かなりの部分石上先生の意向に沿うように勝手に判断して補っています。内容が膨大になったので、いくつかのパートに分けて掲載します。
日本高血圧治療ガイドライン2014が作成されたが、2009年版と比べ、いくつかの改正点がある。
http://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014v1_1.pdf
1)家庭血圧を定義(朝夕2回,1機会で2回測定し平均値を評価)し、診察室血圧よりも家庭血圧を優先。
2回の血圧差が大きい場合など3回目を測定したときは3回の平均値をとって評価するが、不要な不安を助長するとの理由から4回以上の測定は推奨しないことも明記された。血圧値の信頼性は「24時間自由行動下血圧 > 家庭血圧 > 診察室血圧」の順。
(問題点:血圧が変動する患者さんへの対応が考慮されていない)
2)『正常血圧』を『正常域血圧』と変更し、混乱を緩和
至適血圧(<120/80mmHg)、正常血圧(120〜129/80〜84mmHg)、正常高値血圧(130〜139/85〜89mmHg)を「正常域血圧」に改称。
3)合併症のない場合の第一選択薬からβ遮断薬を除いた
β遮断薬は依然として主要降圧薬の一つであるが、とくに脳卒中抑制に関して他剤に劣るとの国内外のエビデンスから、合併症のない場合の第一選択薬からは除外された。ただし,狭心症、心筋梗塞後、心不全などの心疾患合併患者に対しては積極的な適応となる。
(問題点:交感神経が下活動状況にある若い行動的な人にも、β遮断薬は有効であるし、心拍数が多くなることによる心血管系イベントや死亡リスクの軽減が考慮されていない)
4)降圧目標は、糖尿病・CKD(蛋白尿[+])で<130/80mmHg、若年・中年・前期高齢者・脳卒中・心疾患で<140/90mmHg、後期高齢者で<150/90mmHg
2009年版までのガイドラインでは高血圧基準値(診察室血圧≧140/90mmHg)と降圧目標値(若年・中年者の場合、同<135/85mmHg)のかい離をなくした。
糖尿病合併患者の降圧目標については、欧米の高血圧のガイドラインであるASH/ISH2013、JNC8では<140/90mmHgに引き上げられた。しかし、欧米とは異なり、日本では高血圧の合併症としては、心筋梗塞よりも脳卒中の発生率が高く、脳卒中予防に対しては厳格な降圧の有効性が認められていることから、JSH2014の目標値は引き続き<130/80mmHgとされた。
5)妊娠高血圧の第一選択薬にCa拮抗薬を追加。授乳期に使用可能な降圧薬を記載
妊娠高血圧について、従来はメチルドパ(中枢作動薬)とヒドララジン(血管拡張薬)、ラベタロール(αβ遮断薬)の保険適用が認められていたが、いずれも降圧作用が弱く、大きな課題とされていた。2011年からCa拮抗薬ニフェジピンが保険適用として認められ、本ガイドラインでもこれが第一選択薬に追加記載された。
参:おくすり110番
http://www.okusuri110.com/kinki/ninpukin/ninpukin_00top.html
また2009年版では母乳移行性を考慮して降圧薬使用時の授乳は原則禁忌としていたが、NPO法人日本母乳の会や小児科学会からの要請を受けて検討し、国際的な視点で授乳が可能と考えられる降圧薬について記載された。
参:国立成育医療研究センター
http://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/druglist.html
参:おくすり110番
http://www.okusuri110.com/kinki/ninpukin/ninpukin_02-05.html
6)認知症合併高血圧の章を新設
4番目のところで述べたが、今回の改定は、世界の動向と少し異なるところがある。
2009年にBritish Medical Journalに今までの147件の疫学データのメタアナライシスが報告されているので見てみよう。
この解析は1966年から2007年までの、冠動脈疾患と脳卒中予防のための降圧治療薬の有用性を検討したものである。
実薬とプラセボの比較が108試験、薬剤間比較が46試験、3つの無作為化集団の7つの試験はプラセボと薬剤間比較の試験である。
血管疾患の既往がないもの、冠動脈疾患の患者、脳卒中の患者に分けられた464000人を解析対象とした。
結果は、βブロッカー以外の降圧効果によるイベント抑制効果が15%であるのに、べb−多ブロッカーは29%のイベント抑制効果があり、降圧効果以外の効用があると推定された。
この効果は、心筋梗塞後の数年間に限定して見られた。
降圧による冠動脈疾患及び脳卒中のイベント抑制効果は、既往歴がない人も、冠動脈疾患の既往がある人、脳卒中の既往がある人においても同等に認められた。
サイアザイド系利尿剤、βブロッカー、ACEI、ARBとカルシウム拮抗薬の間では大きな差はなかった(脳卒中においてはβブロッカーの効果が弱かった)。
この研究で意外だったのは、ARBの臓器保護効果が叫ばれている中、研究数が少ないことも影響している可能性があるが、ARBの冠動脈疾患の抑制効果が、0.53〜1.4と1をまたいでいることである。
ほかの4剤との降圧効果の比較を見たものが下の図である。脳卒中の予防はカルシウム拮抗薬でより強いことが分かった。
血圧の値によってのイベント抑制効果を見たものが下の図である。収縮期血圧で110mmHg、拡張期血圧で70mmHgを目標としている。血圧値にかかわらず、降圧によりイベント抑制が認められている。
50-59、60-69,70-79歳の三群において、標準的な量での単剤の治療と、3種類の標準投与量の半量の併用投与での治療の比較である。併用投与のほうが拡張期で75mmHg、90mmHg、105mmHg 、収縮期で120mmHg、150mmHg、180mmHgそれぞれにおいてよりイベント抑制効果を認めている。
http://www.bmj.com/content/338/bmj.b1665
臓器保護効果がうたわれていたACEI(Ramipril)とARB(Telmisartan)の併用療法の効果を見た試験としてONTAGET試験では、イベント抑制効果には変わりなく、併用投与分において、低血圧、失神、腎不全といった副作用がより多くみられたため、両者の併用は望ましくないとの見解に至った。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0801317#t=articleDiscussion
マクロアルブミン尿がなく、心不全がない心血管患者や糖尿病患者5927人に対して、Telmisartan 80?投与2954人と、プラセボ投与の2972人を平均56ヶ月治療して検討した研究がある。論文では、あまり重要な差はなかったとしているが、透析移行例や血清クレアチニンが値倍増した症例は、Telmisartan 58例(1.96%)に対し、プラセボ46例(1.55%)であった。
追跡期間中の推定GFRは明らかにTelmisartanにおいて低下が大きかった。
血圧の低下が大きい群においてよりeGFRの低下が顕著だった。
特にマクロアルブミン尿(urinary albumin-creatinine ratio [UACR] >33.9 mg/mmol)の患者やeGFRが60以上の患者において、プラセボのほうがより良い結果が出たことは、今までの情報とは異なり、今後治療を行う上において、注意していく必要がある。
治療群のサブグループ解析を見てみるとKaplan-Meier曲線は、経過年数とともに、マクロアルブミン尿を認める患者において、より悪化していっている。
http://annals.org/article.aspx?articleid=744561
正常域の血圧でアルブミン尿を認めない1型糖尿病患者においてACEIのEnalapril(20?/日)とARBのRosartan(100?/日)、プラセボでの比較試験がある。90%の患者で腎生検を行っている。5年間の経過観察においてプラセボ群6%とEnalapril群4%においては差を認めなかったが、Losartan群においては17%と明らかに微量アルブミン尿の症例が増加していた。(網膜症においてはプラセボ群よりも治療両群において有意に悪化が減少。)腎機能が悪くない、アルブミン尿を認めない症例においてARBを使用することは一考を要するかもしれない。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0808400
DCCT研究で1441人の一型糖尿病患者に6.5年の強化療法を行った後、22年間の経過で、腎機能の悪化の危険度を50%減少させることができたとしている。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1111732#t=article
微量蛋白尿を認める2型糖尿病患者にACEIの一つであるIrbesartanを投与した際の尿中のアルブミン量とGFR,血圧の変化を見てみると、血圧の低下でタンパク尿は減少するが、投与を中止し、血圧が上昇うると再度尿中微量アルブミン量は増加する。
http://care.diabetesjournals.org/content/26/12/3296.full.pdf+html
ARBの一つであるOlmesartanとそれ以外の薬剤で130/80以下に血圧を下げた(80%の症例で達成)際の微量アルブミン尿の変化を見てみた。微量アルブミン尿の発現した患者の頻度は、Olmesartan群で8.2%、プラセボ群で9.8%であり、微量アルブミン尿発現までの時間が23%延長した。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1007994
収縮期血圧160mmHg以上または降圧治療中でハイリスク群(心血管疾患、腎疾患、臓器障害既往者)1万1506例をACEIであるベナゼプリルとアムロジピンの治療群(B+A群)とチバセンとヒドロクロロチアジド治療群(B+H群)に分けて、心血管複合イベント抑制効果を比較した試験がある。
こうある効果は、B+A群では131.6/73.3mmHg、B+H群では132.5/74.4mmHgで差はなかった。
主要転帰イベントは、B+A群で552例(9.6%)に対して、B+H群では679例(11.8%)に発生し、絶対リスク減少率2.2%、相対リスク減少率19.6%と有意差を持ってカルシウム拮抗薬の効果が確認された。
The New England Journal of Medicine 359: 2417-2428、2008
Lancet 375:1173-1181、2010
減塩効果に関しても減塩するほど予後が悪いとする報告
JAMA 305:1777-1785、2011、JAMA306:2229-2238、2011
と減塩すると長生きできるとする報告がある。
https://jyx.jyu.fi/dspace/bitstream/handle/123456789/21791/URN_NBN_fi_jyu-200909203920.pdf?sequence=1